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BE BOP JUNIOR HIGHSCHOOL?

 リトルキッス。

『国民的妹』を標榜し、今年の春デビューした、アイドル二人組である。

 だが、当初のイメージ路線から外れ、先の夏祭りでの一件以後、世間一般からは、次のように認識されている。


『花房咲』

 天真爛漫や、天衣無縫といった言葉の相応しい、明るく無邪気な、元気娘。テンプレ的な万人向けアイドル。

『早乙女純』

 純粋潔癖といった言葉の相応しい、曲がった事を嫌う、男勝りの理想主義者。硬派を気取った熱血漢(ヤンキー)達に支持される、クセの強いアイドル。


 支持層の違いから、両者の住み分けも出来ていたのだが、先日の一件以後、それにも変化が表れてきていた。


          ▼


 オレ渾身の掌打は、由希の両手により受け止められた。

「純ちゃん、やり過ぎよっ。殺す気っ⁈」

 由希の表情が苦痛に歪む。

「もう、勝負は着いてるでしょ。気持ちは解るけど、ここまでよ。

 どうしてもって言うんなら、ここからはアタシが相手よ」

 日浦は、片膝を突いた状態で、苦々しそうな顔で、こちらの様子を窺っている。

 顎へと入った掌底打による、脳震盪が見受けられる。確かに、戦闘続行は不可能だろう。

「…っ、ち」

 仕方がない。

 由希の言う通り、これまでのようだ。

「純ちゃ〜んっ」

 拳を下げたオレに、美咲ちゃんが泣きながら、抱きついてきた。

「大丈夫だった? 怪我はしてない?」

 涙ながらに問い掛けてくる。

「ああ、大丈夫だから止めてくれ。服に鼻水が着く」

 正直、こういうのは苦手だ。

 思わず、冗談で誤魔化したくなる。

「もうっ、純ちゃんったらっ」

 ようやく泣き止んで、オレを放してくれた美咲ちゃん。

「それより鬼塚さん達だ」

「あっ、そうだった」

 駆け出して行く美咲ちゃんに、オレも続いて行く。

「ごめんなさい、ふたりとも。

 私のためにこんな…………。

 ぐすっ、ごめんなさい、ごめんなさいっ」

 そして、美咲ちゃんは二人を抱き締めると、再び号泣を上げるのだった。


 この話には、続きがあった。

「よし、お前ら、よく聞けっ。

 早乙女純をオレ達の前に()()()()()のは、見ての通り、この花房咲だっ。

 よって、約束通り、花房咲が俺達の後継者だっ!

 たった今より、花房咲がこの学校の頭だっ!!」

 などと鬼塚さんが吐戯(ほざ)いたのだ。

 鬼塚さんの言うには、

「これで今後、花房咲に悪さをする奴もいなくなるはずだ」

 とのこと。

 イメージは悪くなるが、その分、危険は減る。

 名を捨てて実を取るというわけだ。

 確かに、鬼塚さんの言う通りなので、反論するのは難しい。

 そういうわけで、不本意ながら、オレ達はそれを受け入れたのだった。


          ▼


 あのあとの結果、この学校の素行不良生徒(ヤンキー)達の間に(?)、新たな序列が出来上がった。


 第一位 花房咲

 第二位 早乙女純

 第三位 御堂(れい)

 第四位 武藤由希

 第五位 遠藤真彦

 第六位 小藪茂雄

 第七位 大西獅童

 第八位 日向(ひゆうが)美葵(みき)

 第九位 朝日奈陽子

 第十位 男鹿純


 となっている。

 この内、第一位から三位はアイドルだし、

 第四位、五位は、その友人。

 第六位、七位は、この(たび)の援軍。

 第八位、九位は、やはりこの度の、御堂の取り巻き。

 そして、第十位がオレ、男鹿純。

 もはや、不良集団ではなく、アイドルとそのファンクラブだ。

 オレの第十位ついては、全く役に立ってないが、それでも三人の友人だからと、お情けということらしい。

 あと、この度の件の主犯である日浦だが、あれ以後すっかり大人しくなったようだ。

 なお、学校側は、問題児達が更生し、アイドルファンクラブへと変わったと、この度の件を不問にするつもりらしい。

 そして、その後の学校外の反応はというと…。

 まずは、ひとつとして、鬼塚さん達が引退したと、周辺の学校の不良達が攻め込んで来たこと。

 ただ、これに対しては、陰で日浦達が撃退していたようだ。

「別にお前らのためじゃねえ。

 舐めた真似が気にいらないから、ぶちのめしただけだ」

 なんて言っていたが。

「おお〜っ、これがツンデレというやつかぁ〜」

 との美咲ちゃんの反応に、苦虫を潰したような顔をしていた。

 つい、それを調戯(からか)ってみたところ、

(うるさ)い。お前に負けたわけじゃないっ」

 なんて噛み付いてきた。

 しかし、かといって、こちらとやり合うつもりはないらしい。

 負けて、一応、丸くなったということか。

 そして、もうひとつはというと……。


          ▼


 オレ達は、駅前のカラオケボックスに来ていた。

 メンバーは、美咲ちゃんを筆頭に、由希、真彦、小藪、大西、そして男鹿純(オレ)

 つまり、御堂玲と取り巻き二人、そして当然、早乙女純以外の、学校の裏の首脳陣だ。

 そして、この中から、美咲ちゃんを除いた者達が、リトルキッス親衛隊などと称されている。

 (ちな)みに、由希と真彦が親衛隊隊長、小藪、大西が副隊長となっており、これに加えて、御堂玲こと天堂が名誉隊長、男鹿純オレが名誉副隊長となっている。

 はぁ…、“名誉”でも、“副”隊長か…。

 つまり、天堂とオレとでは、“名誉”の意味というか、重さが違うのだ。

 まぁ、お情けだしな。

 けど、いいさ。

 別に、こんな称号になんて興味ないし……。

「あれ? 早乙女純は来てないの?」

 声の主はオレ達メンバー以外からだった。

 というのも、オレ達以外に8人ばかり、男どもがいたからだ。

 こいつらは、隣町の中学の不良(?)生徒(ヤンキー)達で、以前はうちの学校とは、余り友好的とはいえない関係だった奴らだ。

 それが、鬼塚さん達からオレ達へと代替わりしたのを切っ掛けに、手のひらを引っ繰り返して、関係を修復し、同盟を結びたいとか言ってきたのだった。

 無下に断われば、うちの生徒達にどんな害があるか判らない。

 一応、日浦達がいるとはいえ、学校の裏の(トップ)を任された身としては、放置するのも無責任だろう。

 そういったわけで、オレ達は、事を穏便に済ませるべく、こうしてここへ赴く事となったわけだ。

 こいつら、学校同士の友好関係とかなんとか言ってはいるが、なんのことない、人気アイドルと仲良くなりたいだけなのだ。しかも、(あわ)よくばなんて(スケベ)心も見て取れる。

 だが、そんなことをオレ達が許すことなく、美咲ちゃんの両隣りの席を、由希と真彦が固めている。

 そんなこともあってか、美咲ちゃんの緊張感も、随分と薄れつつあるようだ。

 ただ、それがいけなかった。

「ねぇ、咲ちゃんや純ちゃんって、今、付き合っている奴っているの?」

 相手のひとりが質問する。

「え? 私は特にいないけど。でも、純ちゃんは気になる子がいるみたいだよ」

 ここで、美咲ちゃんから、爆弾発言が飛び出したのだ。

「「えぇ〜〜〜っ⁈」」

 この場にいる、美咲ちゃん以外の全員が驚愕の声を上げる。

 それには、オレも含まれていた。

 はぁ? どういうことだ?

「ち、ちょっと、それ本当?」

「うん。でも、流石にそれが誰かは言えないけどね」

 こうして、この日の話は、この話題ばかりとなり、それ以外のことについては、あやふやのままで終わったのだった。

※作中のルビには、一般的でない、作者オリジナルの当て字が混ざっております。ご注意下さい。

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