BE BOP JUNIOR HIGHSCHOOL?
リトルキッス。
『国民的妹』を標榜し、今年の春デビューした、アイドル二人組である。
だが、当初のイメージ路線から外れ、先の夏祭りでの一件以後、世間一般からは、次のように認識されている。
『花房咲』
天真爛漫や、天衣無縫といった言葉の相応しい、明るく無邪気な、元気娘。テンプレ的な万人向けアイドル。
『早乙女純』
純粋潔癖といった言葉の相応しい、曲がった事を嫌う、男勝りの理想主義者。硬派を気取った熱血漢達に支持される、クセの強いアイドル。
支持層の違いから、両者の住み分けも出来ていたのだが、先日の一件以後、それにも変化が表れてきていた。
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オレ渾身の掌打は、由希の両手により受け止められた。
「純ちゃん、やり過ぎよっ。殺す気っ⁈」
由希の表情が苦痛に歪む。
「もう、勝負は着いてるでしょ。気持ちは解るけど、ここまでよ。
どうしてもって言うんなら、ここからはアタシが相手よ」
日浦は、片膝を突いた状態で、苦々しそうな顔で、こちらの様子を窺っている。
顎へと入った掌底打による、脳震盪が見受けられる。確かに、戦闘続行は不可能だろう。
「…っ、ち」
仕方がない。
由希の言う通り、これまでのようだ。
「純ちゃ〜んっ」
拳を下げたオレに、美咲ちゃんが泣きながら、抱きついてきた。
「大丈夫だった? 怪我はしてない?」
涙ながらに問い掛けてくる。
「ああ、大丈夫だから止めてくれ。服に鼻水が着く」
正直、こういうのは苦手だ。
思わず、冗談で誤魔化したくなる。
「もうっ、純ちゃんったらっ」
ようやく泣き止んで、オレを放してくれた美咲ちゃん。
「それより鬼塚さん達だ」
「あっ、そうだった」
駆け出して行く美咲ちゃんに、オレも続いて行く。
「ごめんなさい、ふたりとも。
私のためにこんな…………。
ぐすっ、ごめんなさい、ごめんなさいっ」
そして、美咲ちゃんは二人を抱き締めると、再び号泣を上げるのだった。
この話には、続きがあった。
「よし、お前ら、よく聞けっ。
早乙女純をオレ達の前に連れて来たのは、見ての通り、この花房咲だっ。
よって、約束通り、花房咲が俺達の後継者だっ!
たった今より、花房咲がこの学校の頭だっ!!」
などと鬼塚さんが吐戯いたのだ。
鬼塚さんの言うには、
「これで今後、花房咲に悪さをする奴もいなくなるはずだ」
とのこと。
イメージは悪くなるが、その分、危険は減る。
名を捨てて実を取るというわけだ。
確かに、鬼塚さんの言う通りなので、反論するのは難しい。
そういうわけで、不本意ながら、オレ達はそれを受け入れたのだった。
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あのあとの結果、この学校の素行不良生徒達の間に(?)、新たな序列が出来上がった。
第一位 花房咲
第二位 早乙女純
第三位 御堂玲
第四位 武藤由希
第五位 遠藤真彦
第六位 小藪茂雄
第七位 大西獅童
第八位 日向美葵
第九位 朝日奈陽子
第十位 男鹿純
となっている。
この内、第一位から三位はアイドルだし、
第四位、五位は、その友人。
第六位、七位は、この度の援軍。
第八位、九位は、やはりこの度の、御堂の取り巻き。
そして、第十位がオレ、男鹿純。
もはや、不良集団ではなく、アイドルとそのファンクラブだ。
オレの第十位ついては、全く役に立ってないが、それでも三人の友人だからと、お情けということらしい。
あと、この度の件の主犯である日浦だが、あれ以後すっかり大人しくなったようだ。
なお、学校側は、問題児達が更生し、アイドルファンクラブへと変わったと、この度の件を不問にするつもりらしい。
そして、その後の学校外の反応はというと…。
まずは、ひとつとして、鬼塚さん達が引退したと、周辺の学校の不良達が攻め込んで来たこと。
ただ、これに対しては、陰で日浦達が撃退していたようだ。
「別にお前らのためじゃねえ。
舐めた真似が気にいらないから、ぶちのめしただけだ」
なんて言っていたが。
「おお〜っ、これがツンデレというやつかぁ〜」
との美咲ちゃんの反応に、苦虫を潰したような顔をしていた。
つい、それを調戯ってみたところ、
「煩い。お前に負けたわけじゃないっ」
なんて噛み付いてきた。
しかし、かといって、こちらとやり合うつもりはないらしい。
負けて、一応、丸くなったということか。
そして、もうひとつはというと……。
▼
オレ達は、駅前のカラオケボックスに来ていた。
メンバーは、美咲ちゃんを筆頭に、由希、真彦、小藪、大西、そして男鹿純。
つまり、御堂玲と取り巻き二人、そして当然、早乙女純以外の、学校の裏の首脳陣だ。
そして、この中から、美咲ちゃんを除いた者達が、リトルキッス親衛隊などと称されている。
因みに、由希と真彦が親衛隊隊長、小藪、大西が副隊長となっており、これに加えて、御堂玲こと天堂が名誉隊長、男鹿純が名誉副隊長となっている。
はぁ…、“名誉”でも、“副”隊長か…。
つまり、天堂とオレとでは、“名誉”の意味というか、重さが違うのだ。
まぁ、お情けだしな。
けど、いいさ。
別に、こんな称号になんて興味ないし……。
「あれ? 早乙女純は来てないの?」
声の主はオレ達メンバー以外からだった。
というのも、オレ達以外に8人ばかり、男どもがいたからだ。
こいつらは、隣町の中学の不良(?)生徒達で、以前はうちの学校とは、余り友好的とはいえない関係だった奴らだ。
それが、鬼塚さん達からオレ達へと代替わりしたのを切っ掛けに、手のひらを引っ繰り返して、関係を修復し、同盟を結びたいとか言ってきたのだった。
無下に断われば、うちの生徒達にどんな害があるか判らない。
一応、日浦達がいるとはいえ、学校の裏の頭を任された身としては、放置するのも無責任だろう。
そういったわけで、オレ達は、事を穏便に済ませるべく、こうしてここへ赴く事となったわけだ。
こいつら、学校同士の友好関係とかなんとか言ってはいるが、なんのことない、人気アイドルと仲良くなりたいだけなのだ。しかも、間よくばなんて下心も見て取れる。
だが、そんなことをオレ達が許すことなく、美咲ちゃんの両隣りの席を、由希と真彦が固めている。
そんなこともあってか、美咲ちゃんの緊張感も、随分と薄れつつあるようだ。
ただ、それがいけなかった。
「ねぇ、咲ちゃんや純ちゃんって、今、付き合っている奴っているの?」
相手のひとりが質問する。
「え? 私は特にいないけど。でも、純ちゃんは気になる子がいるみたいだよ」
ここで、美咲ちゃんから、爆弾発言が飛び出したのだ。
「「えぇ〜〜〜っ⁈」」
この場にいる、美咲ちゃん以外の全員が驚愕の声を上げる。
それには、オレも含まれていた。
はぁ? どういうことだ?
「ち、ちょっと、それ本当?」
「うん。でも、流石にそれが誰かは言えないけどね」
こうして、この日の話は、この話題ばかりとなり、それ以外のことについては、あやふやのままで終わったのだった。
※作中のルビには、一般的でない、作者オリジナルの当て字が混ざっております。ご注意下さい。




