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純、再度の軽音楽部見学に挑む

 再び数日後。軽音楽部への三度目のトライはオレひとりで。香織ちゃんの同行はない。前回の失敗のことを持ち出したことで、さすがの香織ちゃんも渋々ながらも引き下がってくれたのだ。

 お陰で前回程騒がれることもなく、見学も順調に進んでいる。まあ、あれから日が経ったことで新入生達も粗方の部活見学を終えたってこともあるのだろうけど。実際、今日の見学者はオレだけだし。


「それにしても、学校側もよくこんなのを認めたものだよなぁ…」


 現在オレの前で活動に勤しんでいるのは……ええっと、なんて名前だったっけ。まあいいか、そんなこと。そんなことよりもこいつらの格好なのだが……。

 なんだよ本当、どこの世紀末の軍団だ。

 あ、思い出した。こいつらのバンド名は『ウェズ』だ。

 そうか、こいつらってあの漫画の方じゃなくって、映画の○ッドマックスの方を真似てたのか。二作目に出てきたモヒカン皮鎧のバイク乗りのチンピラが確かそんな名前だったし。因みにこの映画、先ほど挙げた漫画を始めいろんなものに影響を与えた名作である。まあ、一作目はその一割程度の低予算だったらしいけど。

 そんなわけかメンバーは全員皮鎧。ボーカルもやはりモヒカン頭で、やたら「ヒャッハー」を連呼している。後で聞いた話によると、その曲は『ヒャッハー!』というそいつらのオリジナル曲らしい。


「よう、どうだったオレ達の曲は?」


 曲が終わり、リーダーのモヒカンが問い掛けてきた。

 こいつの名は安能瑛士。こんななりだが見たに反した善良な(?)男である。少なくともこうして友好的に接してくれているくらいには。実際初対面のオレがこうして名前を知っているのは、こいつが態々(わざわざ)全員のメンバー紹介までしてくれたからである。

 それにしても、こいつの頭って(かつら)だったんだな…。まあ、当然か。さすがに普段がこの頭ってのは恥ずかし過ぎる。それに学校側もいい顔をしない……よな?

 案外認めそうな気がする。この学校って結構自由な校風だしそういうところも緩そうだ。法律的にも表現の自由ってのがあるからって、好きにすればよいとか言いそうな気がする。それに顧問もなんか変人っぽいし、そういうことにも理解がありそう……ってか、却って後押しをしそうな気が…。


 いや、そんなことよりも曲の感想だったよな。さすがにこんな風に友好的に接されて、いい加減な態度で応えるわけにもいかないし。


「ああ、楽しかったよ。

 まあ、残念ながら実力の方はまだまだって感じだけど、アマチュアなんだしこんなもんだろうな。

 でも、オレとしては嫌いじゃないな、こういう悪乗りした愉快な曲ってのも。うちの兄貴達も結構悪乗りし捲ってるし」


 いや、本当に面白い曲だった。誰の作詞作曲か知らないけれど、このセンスは葉さんに近い。会えばきっと気が合うことだろう。


「へえ、アンタの兄貴もオレ達みたいにバンドやってるのか。

 ああ、それで興味も持っての見学ってわけなんだな」


 まあ、普通だとそうなんだろうな。ただ、今回のオレは、ちょっと違って別に目的があるのだが。

 とはいえ、それはやはり言わない方が良いだろう。もしこいつらがオレの正体を知れば、今みたいな感じで接してくれるとは限らないからな。恐らくはオレに取り入ろうとあれこれ画策してくることになるのだろう。


「にしてもはっきりと言ってくれたもんだよな。

 まあ、確かに俺達はアマチュアだし、実力だってまだまだで、お前の言う通りなんだけどよ」

「兄貴達と比べられたってか? まあ、年季が違うんだろうから仕方が無いんだろうけど。

 でも、そう言うからにはやっぱり男鹿の兄貴達ってそれなりに巧いんだろうな。一度会ってみたいもんだぜ」


 えっ? この流れって…。


「ところでその兄貴達って、なんていうバンドなんだ?」


 ああ、やっぱりこうなるか。

 でも、さすがに今のこの流れだと言わないってわけにはいかないか…。


「はあ…。(あま)り大っぴらにしたくはないんだけどな。

 まあ、教えてもいいけれど、その代わり変に触れ回ったりしないでくれよ。周囲から取り入ろうと(まと)わり着かれるのは御免だからな」


 というわけで、一応前置きで断わってから明かしてやることに。


「「はあ~っ⁈ マジでっ⁈」」


 いや、驚かれるとは思っていたけどここまでか?

 う~ん、兄貴達って結構知名度が有ったんだな。

 そりゃあ、恭さん達が自立ができたと結婚を考えるくらいだから一応それなりに売れてはいるとは思っていたけど、でもここまで驚かれる程とは思ってもいなかった。


「ははっ、そりゃあプロと比べられたんじゃオレ達がまだまだだってのにも納得だ」

「ああ、それに隠そうっていうことについてもだな。

 そりゃあ周囲からちやほやされるのは気分が良いけど、でもそれが兄貴の名声でっていうんじゃやっぱり情けないもんなあ」


 あ、思ったよりも好い反応だ。少なくともこいつらにはオレに取り入ろうって気は無さそうだな。


「いや今のって、俺達にも取り入ってくるなって釘を刺されてるんだけど。

 まあ、そうは言っても俺達はそこまで身の程知らずじゃないけどな」


 ああ、そういうことか。道理でだ。

 しかしこういうやつらだと気分的には応援したくなるんだよな。まあ、公私混同はしないけど。

 見合う実力も無いのにプロデビューなんてできるわけが無いからな。無理やりゴリ押しでデビューさせたところで後が続こうわけも無く、ただ時間と金を浪費するだけ。あり得ないよなぁ…。


 まあともかく今日はハズレだ。面白いやつらではあったけど。

 練習は日替わりローテーションみたいだし、続きはまた明日だな。

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