表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/420

早乙女純とヤンキー後継者問題 (後編)

 援軍を得たオレは、奴らの待つ体育館前の準備倉庫の前までやって来た。

 といっても、奴らの前に出ていったのはオレ一人だが。

 流石に、人数を連れていけば、警戒されかねないからな。

「オラっ、来てやったぜ。出て来やがれっ」

 オレの役割は作戦通り、囮となって、奴らの目を引くことだ。いや、出来るだけ、人質の許から人数を引き離すことか。

 それだけで、人質救出の成否が大きく変わるのだ。

 救出に向かったのは、先の予定通り由希。

 だか、如何に腕が立つといっても、やはり女だ。出来るだけ危険な目には遭わせられない。

 とはいえ、他に任せられそうな奴はいない

 どんなに気が重くとも、この重要な役割は、由希に任せるしかないのだ。

 それだけに、オレの役割の重要性が増すわけだ。

「こっちだ、()いて来い」

 迎えに来た使いっ走りが言うが、そういうわけにはいかない。

「いいのか、それで?

 つまり、お前があの二人の後継者になるわけだな?」

「どういう意味だっ?」

 おっ、動揺してる、動揺してる。あと一押しだ。

「だって、()()()()()()が後継者なんだろ。

 だったら、当然、お前ってことになるわけだ。

 いや〜、なるほど、そういうことか。

 お前もなかなか強かだな」

「なっ、ちょ、ちょっと待ってろ」

 オレの言った意味を理解し、周章(あわ)てて、引き返して行く使いっ走り。

 よし、ここまでは計算通り。

 あとは奴らがどう出るかだ。


 奴らが表に出て来た。

 親玉らしき奴を筆頭に、その数、約20人。

 人質の三人は連れて来ていない。

 倉庫の中に何人か残しているだろうけど、人数からして、そのほとんどが出て来ただろうと思われる。

 奴らがどう出るか賭けだったが、どうやら上手くいったようだ。

 これで、由希の負担も軽減する。

「出て来てやったぞ、早乙女純。余計な手間掛けさせやがって」

「お前が親玉の日浦健志朗か。

 オレ(ひと)の連れに上等決めてくれやがって、ただで済むと思ってねえだろうな。

 きっちりと落とし前着けさせてもらうぜ」

 その時、タイミングよく奴らの背後から声が上がった。

「純ちゃんっ。人質は無事よ!」

 由希達だ。美咲ちゃんに鬼塚さんと倉敷さんもいる。

 由希率いる救出部隊による人質奪還は、無事上手くいったようだ。

 動揺する日浦とその一味。

「ちっ、舐めた真似を。

 それでもまだ、数じゃこっちが上だ」

「それはどうかな」

 そこへ天堂率いる女の子達、そして真彦率いる小藪、大西といったオレ達のファン達による増援部隊が現れる。

 奴らの数、約20人に対し、援軍(こっち)は倍の約40人。

 その内訳は女子10人に、荒事に不向きそうな奴が約20人と、実戦に使うわけにはいかないが、それでも数は武器である。

 威圧するには十分だ。

「これで形勢逆転だな。

 とはいえ、こっちもこれ以上こいつらを巻き込みたくねぇんでな、ひとつ一騎討ち(タイマン)勝負といかないか?

 まさか嫌だとは言わないよな」

 先に言った事情もあるし、今言ったことも本音だ。

 それに加えてここで乱闘騒ぎとなれば、後々にいろいろと問題になりかねない。それ故の一騎討ちだ。

「無茶だっ!」

「無理だよ、純ちゃん」

「それだったら、アタシがっ!」

 天堂に美咲ちゃんがオレを引き止める、由希に至っては代わりにやるとか。

 たが、オレにそのつもりはないし、他人にくれてやる気もないのだ。

 絶対にこいつはぶちのめす!

「まあ、大丈夫だから黙って見てなって。

 あいつの強さはよく知ってんだろ」

 ナイスフォロー、鬼塚さん。

「巫山戯やがって。その言葉後悔させてやるっ」

 こちらの提案に日浦も乗ってきた。

 当然だろう。他に逆転の手はないし、それに男の面子だってある。

 (ケツ)を捲くるのも仕方がない。

 むしろ尻尾(ケツ)を巻いて逃げ出す方があり得ない。

 日浦の攻撃は重く鋭い。

 倉敷さんのようながっちりとした体格ではないが、その体つきは引き締まっていて、無駄な贅肉という物とは無縁な感じだ。

「オラオラオラオラオラオラオラオラぁ~!」

 そうかと思えば、嵐のような激しい連撃(ラッシュ)を織り交ぜてくる。

「あたたたたたたたっ、痛っ」

 流石に連撃に重さはないが、その分スピードがあり、受け流しが(きつ)い。

「純ちゃんっ!」

 美咲ちゃんの心配そうな声に、にっこり微笑(わら)って応えてやる。

「まだまだだね。とてもじゃねえが、倉敷さんの足元にも及ばねーな」

 ダメージがないとは言わない。

 だが、その程度だ。

 倉敷さんのそれと比べれば、なんてことはない。

 伊達に倉敷さんとやり合ったわけじゃないのだ。

 ああ、考えるうちに怒りが込み上げてきた。

 一旦、距離を取り、深く息を吸って呼吸を整える。

「へっ、強がりやがって。女のくせに生意気な」

「るせえ、この糞虫がっ。今、ぶちのめしてやるから、覚悟しやがれ!」

 日浦の挑発に応えるべく、奴の足元に飛び込み、足払いを掛ける。

 当然のように躱されるが、そこから一気に、どてっ腹への肘打ちを狙う。

 武藤流必殺の『地雷震』だ。

 肘打ちから、顎への掌底突き、そして後頭部を捉えて地面へ。

 倉敷さんを打ち破った時の技だ。

 しかし、顎に命中した掌底は、日浦の体勢を大きく崩し、頭を狙った腕を見事なまでに空振りさせた。

 だが、そこで止まりはしない。

 着地と同時に反転、再び()らつく相手の懐へと跳び込む。

 左脚で地面を踏み締め、姿勢を小さく縮かめる。

 そして、全身を爆発させるが如く体を開き、大地を砕くかのように右脚を踏み出し、そのまま右掌底を打ち放つ。

 その技の名は、八極拳『打開』

 しかし、その技は日浦に決まることはなかった。

 オレ渾身のその技は、由希の両手により受け止められていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ