表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
275/420

女難だなんて言ったなら…

「マジでえっ⁈」


 思わず声に出して叫んでしまった。

 いや、だってだ、今こうして渡されたチョコレートってのは…。

 いや、本当にマジでかよ。

 でも彼女の反応は、日頃から朴念仁と言われるオレから見てもどうにもそうとしか思えない。

 恐らくは間違ってないはずだ。こっそり(?)後を()けて覗きに来てた連中だってオレが思うのと同じようなことを言ってるし。


 改めて彼女の様子を窺う。

 相変わらずもじもじしながら俯いて体を小さくしている。

 いや、それでもオレよりも大きい。173cmを自称する由希よりも大きいし多分180cmはあるんじゃないだろうか。つまり25cm近くオレよりもでかいわけだ。

 …って、そんなことよりもだ。


「ふ~ん。でも、なんでまたよりによって純なわけ? 

 こう言っちゃなんだけど、どちらといえば普通は純なんかよりは人気アイドルの御堂(れい)でしょ?」


 確かに由希の言う通りだ。事実、今年も天堂の元には凄い量のチョコレートが入った手提げ鞄が幾つも。いったいどれだけの量が有るんだか。


「そ、そんなことないですっ!

 男鹿先輩だって負けずに凄く魅力的ですっ!」


 彼女は由希の言葉を即座に否定し、そして諭すが如くオレについて語り始めた。


 嘘だろ? ちょっと勘弁してくれよ。


 それは正直オレにとって(こた)えるものだった。

 いや、だってだ。彼女ってば、由希や美咲ちゃん達に対してオレのことをあれやらこれやらとやたらと熱心に滔々と褒め(そや)してくれるのだ。オレ本人が目の前に居るってのに。


 くぅっ、恥ずかし過ぎる。

 香織ちゃんからのそれで慣れているかと思っていたけど、なぜかそれとはまた違った恥ずかしさが…。


「わ、解ったからもうやめてくれ。いくらなんでも持ち上げ過ぎだ」


 こうまで語られればオレでも理解できる。彼女の好意は間違い無しに純粋なものだと。


「ねえ、もしかして、あなた男鹿くんの正体について知らないの?」


「え? 正体?」


 斑目のやつ、また余計なことを。

 だけどこの様子だと、多分その辺りのことは知らないみたいだな。


「いや、なんでもない。気にしないでくれ。

 それよりも、せっかくの好意だけど、今のところオレは誰かとそういう付き合いをするつもりはないんだ。

 ただ、それでも好い、構わないって言ってくれるなら、友好の証として受け取らせてもらうけどそれでもいいか?」


 少し上からのもの言いって気はするけれど、多分これで間違ってないと思う。

 まあ、これで幻滅するってのならそれはそれで構わないか。元々付き合いのある相手なわけじゃないんだし。


「えっ⁈ ちょっと、純くんっ、それってっ⁈」


 香織ちゃんがオレの台詞に取り乱す。


「いや、だってせっかくの好意なんだしさ。

 そりゃあ香織ちゃんには悪いとは思うけど。

 でも、香織ちゃんのチョコを受け取っておいて、彼女のチョコを拒否するってのは不公平だろ」


「そ、それは確かにそうだけど……。

 はあ…。解ったわ。

 でも、ねえ、あなた、もし本気で純くんに手を出そうってんなら、その時は私が相手になるって覚悟しておきなさい。軽く捻り潰してあげるわ」


 うわぁ…。香織ちゃん、宣戦布告もいいけれど、それじゃまるっきり悪役だぞ。まあ、気持ちは解らないじゃないけれど。


「うわぁ…。なんか香織ちゃんの台詞って、もう完全に悪役のそれだよね」


 やはりか斑目。まあ、オレがそう思うくらいなんだからこいつならそりゃあ口にもするか。


「誰が悪役よっ! 正規ヒロインに対してその台詞はないでしょっ」


 正規ヒロインって…。香織ちゃん、そんなこと思ってたのか…。


「でも、今の感じだと、どちらかというと悲劇のヒロインの方が近いんじゃない?

 なんか男鹿くんってその辺り鈍そうだし、とても成就するとは思えないんだよね」


「余計なお世話よっ!」


 全くだ。香織ちゃん、よくぞ言ってくれた。


「とりあえずこいつはおいとくとして、一応名前を訊かせてくれないか? せっかく好意を示してくれた相手の名前も知らないってのはさすがに(あま)りにも失礼だしな。況してやこれから友人になろうってんならなおさらだろ」


 まあ、ひとまずはとりあえずはこんなところかな。親しく付き合うかどうかはともかくとして、一応は友人ってことでいいだろう。


「えっ⁈ あっ、ごめんなさいっ。そう言えば自己紹介がまだでしたっ。

 …って、えっ⁈ 嘘っ⁈ それって私とそういう交際を前提として付き合ってもらえるってことですかっ⁈」


 えっ?

 ああ、まあ、そういうことに……なるのか?

 言われて初めて気が付いたわけだけど、確かにそれはその通りか。全く意識したことがなかった。


「いや、そこまで深いこと考えてたわけじゃないんだけど。とりあえずは試しに友人からって程度のつもりだったんだけどな。香織ちゃんともそんな感じの付き合いだし」


 なんか嫌な予感がする。

 まさかとは思うけど、この子も香織ちゃんみたいになったりしないだろうな。

 そうなった日には……否、そうじゃなくってもヤバい火種を抱えたかも知れない。


 そんなオレの内心を余所に彼女の自己紹介が始まった。

 彼女の名前は高階貴子。一年生。そういやオレのこと先輩なんて呼んでたもんな。

 しかし……この高身長、なんで後輩で女の子のくせにこんなにでかいんだよ。なお、この子にはバレーとかバスケとかの経験は無いらしい。オレの高身長者に対する偏見だったようだ。なんかもったいない気がするけれど、そこは本人の決めることだしな、他人がとやかく言うことじゃないだろう。

 因みにこの子、高身長がコンプレックスであるみたいだ。この話を斑目がした時に微妙に嫌な顔をしてたから恐らく間違い無いだろう。

 顔といえば、この子は結構な美人だった。ただ、やはり高身長が災いするのか異性との交際ってのはなかったらしい。


「そんなの気にすることないわよ。そんな了見の狭い男連中なんてこっちから願い下げだって言ってやれば良いのよ」


 由希の言う通りだ。

 とはいえそいつらの気持ちも解らないでもないけれど。やはり自分よりも背の高い女性ってのにはどうしても抵抗があるからな。といっても所詮はそれも慣れなんだけど。


「要するに劣等感ってわけでしょ。まあ仕方がないわよね。みんながみんな天堂くんみたいにってわけにはいかないし」


 はは…。朝日奈じゃないけど確かに天堂は例外か。こいつの身長って190cm近くだったはずだし。


「そっか。だから男鹿くんなんだ。

 男鹿くんの場合、大抵の女の子が同じ背丈か高いわけだし、今さらそのことに違和感とか感じることないもんね」


 くそっ、斑目め。相変わらず気遣い無しで喋りやがる。


「はははははっ、違いねえ。こいつの場合、相手が歳下の子でもそうだもんな」


「るせえなっ。余計なお世話だってえのっ!」


 それに河合のやつもだ。斑目に乗っかってこれ見よがしに嘲ってくれやがって。そのお陰で他のやつらまで一緒になって笑ってるし。


「いいじゃない、別にそんなこと。

 ううん、こっちの方が絶対好いわ。だってこんなに可愛いんだもの♡」


 そんな言葉と伴に抱き着いてくる香織ちゃん。そしてそのまま頬擦りへ。

 フォローしてくれるのはありがたいけれど、でもそれが可愛いからってのは嬉しくない。


 ……って、高階も羨ましそうに見てるんじゃない。

 まあ、気持ちは解らないでもないけれど、……いや、なんか解りたくないな。なんだか愛玩動物を愛でたがっているような、そんな雰囲気に似た感じに見えるし…。いや、まさかな…。


「…う、羨ましい……」


 ……うわぁ…、マジかよ…。

 高階が呟きを零した。

 頼むから行動に起こしてくれるなよ。香織ちゃんだけでも持て余しているんだから。


「だったら行けば? じゃないと勝負にならないわよ」


 おいっ佐竹、なにを高階を(けしか)けてんだよっ。


「え⁈ ちょっと、佐竹さんはこの子の味方なのっ⁈」


 佐竹の言葉に美咲ちゃんが慌てる。まあ、美咲ちゃんは早乙女純贔屓だからなぁ…。


「ええっ⁈ 早乙女純っ⁈ ……じゃないんでしたよね。

 ええっと、佐竹先輩?……でしたか、もしかして私に味方してくれるんですか?」


「別にそういうつもりはないわ。ただ、今のままじゃ勝負にならないと思ったから背中を推してあげてるだけよ。

 だから一言アドバイス。彼って押しに弱いところが有るから少し積極的なくらいな方が良いと思うわよ。

 逆に消極的過ぎるとそのまま忘れられかねないから、そこのところが要注意。

 と、まあそんなところかしら。解ったなら、さあ行ってらっしゃい」


 んなあっ⁈

 佐竹のやつ、ただ(そそのか)すだけでなく余計なことまで…。


「佐竹さんって意外とお節介だったのね。正直こういう他人事には興味が無いとばかり思ってたのに」


「ええ、その通りよ。

 でも、なぜか放っておけなかったのよね」


「ああ、なんとなく解る気がするわ。

 普通に考えてみたら明らかに香織ちゃんの方が分が有り過ぎだものね。

 まあ、そうは言っても相手があの朴念仁の難物じゃ、どちらも相当な苦労が目に見えてるんだけど」


 由希と佐竹がそんな会話をしているのを背に、高階がオレの元にやって来て…。


「あ、あの…、わた、私も…、その…、抱き締めても…いいでしょうか…?」


 うわぁ…。マジかよ…。できれば勘弁してほしい。


「なによ。純くんは渡さないわよっ」


 香織ちゃんは一層強くオレを抱き締め、そして威嚇するようにキッと高階を睨み付けた。否、ようにじゃなくって完全に威嚇だ。


 対してビクッとする高階。なんだか見ていて居た(たま)れなくなってくる。なんていうか、でかいくせに小動物が怯えているみたいに思える程に。


「はあ……。できれば勘弁願いたいんだけどなぁ…。

 香織ちゃんだけでも持て余してるってのに。

 まあでも、チョコレートも貰ったわけだし仕方がないか。

 解ったよ。でも今日だけにしてくれよ。正直こういうのって苦手なんだから」


 というわけで、オレはふたりの抱き人形状態に。


「本当、男鹿くんって押しに弱いのね」


 くそっ、佐竹のやつ。誰のせいでこんな状態になってると思ってんだ。


 まさか明日からずっとこんな毎日になるんじゃないだろうな。

 いや、まさか…。


 それはともかく、これで三股掛け扱いか…。

 女難だなんて言ったなら、やはり多くの連中から○ねばいいのになんて言われるんだろうな…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ