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Black & White

 今年最後の投稿です。

 早いもので今年1月に投稿を始めたこの作品も気付けば272話目です。正直随分と根気強く投稿できたと我ながら驚いております。いや、途中休みをとったり、間が空いたりとかはありますけど…。

 そんなわけで、来年もなんとかマイペースながらもやっていければと思っております。

 それでは、前書きではありますが、後書きはいつものあれなのでこちらでご挨拶を。

 読者の皆様、良いお年を。そして来年もよろしくお願いいたします。

 2月の第一日曜日。14日に予定されているリトルキッスの4th.アルバム『Black & White』の発売に先駆けてのプレリリース (※1)、つまり事前告知のイベントが行なわれる。

 そんなわけで、今日は都内のとあるCD販売店へと来ている。なお、それがどこかは秘密だ。変に明かすと大勢のファンが集まって来て店側に迷惑がかかるからな。

 まあ、こうしてこんなイベントをやってる時点で、人は集まって来るっていうか、ある程度人目を引いてくれなければならないので、やってることは矛盾しており自家撞着 (※2)に陥っているといえる。

 否、自覚してるから違うのか。

 否、やはり自家撞着で構わないか。転じた意味は矛盾だからな。

 …って、どうでもいいか、そんなこと。

 そりゃあ確かに、警備の人間だとか、場合によっては警察なんとかにも面倒をかけたりするかも知れないけど、でもそれが彼らの仕事だしな。オレが心配することじゃない。それこそ余計なお世話ってものだろう。


「ね、ねえ、ちょっと、ほ、本当にこれを着るの?」


 佐竹が今回の衣装を手に問い掛けてきた。


「えぇ~、なんで? これ凄く可愛いじゃない」


 一方で美咲ちゃんは衣装を手に喜々している。なので当然佐竹に対しては疑問あるのみだ。

 そんなふたりの衣装はというと…。

 おっ、ちょうどふたりが着替えて出てきたようだ。


「ちょっと、やっぱり羞ずかしいわよこの格好」

「ええ~、そんなことないよ。凄く似合ってて、格好いいし。もし本の中から本物の魔女が出てきたとしたら、きっとこんな感じだよ」


 そう、今回のふたりの衣装は、アルバムのジャケットに因んだ魔女の格好だ。もちろんそのベースとなったのは神部のイラスト。なので文句があるなら神部に言ってくれ。


 それにしても衣装の人間も良い仕事をしてくれたものだ。完全に完璧なイメージ通り。

 二重表現? そんなの関係ない。要はそれ程までのできの良さってことなんだから。


 いや、本当にイメージ通り。

 佐竹は黒の先折れ鍔広の三角帽子に全身黒のドレス、手には箒を持っている。…これってもしかして金雀枝(エニシダ) (※3)か? だとしたら結構拘ってるな。

 やや胸元の露出が気になるけれど、そこは中世西洋風だしな。帽子を別の物に代えて箒の代わりに扇子を持てば、正に貴族のお姫様か貴婦人といった風情である。

 以前美咲ちゃんが読んでた漫画の○アトリーチェみたいな感じか。って、アレもそういえば魔女だったよな。といってもそっちの方は神秘的(ミスティック)というよりも怪奇殺人事件(ミステリー)なんだけど。

 ともかく佐竹は典型的な中世洋風の魔女イメージなわけだ。

 ……魔女ならドレスよりもローブ?

 いいんだよ、そんな些細のこと。つまらないツッコミは無視だ。

 それよりも次は美咲ちゃんだ。


 美咲ちゃんは佐竹に対して白基調。

 全身白のドレスだけれど、対照的なのはその色だけではなく、胸元の主張は控えめなデザインだ。…ってまあ、そこのところはおいておこう。

 頭部にはやはり白い(ティアラ)。中心部のやや大きめな真紅の宝石(?)、そしてその左右にはやはり小振りなそれがふたつずつ、順に小さくなっていくかのように並んでいる。

 片手にするのはピンク色をした細長い杖。但しその先端部には白い彫像が。それは大きな翼を拡げた天使らしき者で、その胸元には大きな碧い宝石(?)が(いだ)かれ煌めきを放っている。

 ……どっちの宝石も模造品(レプリカ)だよな。特に杖の方なんて、あの大きさだ……うん、きっとそうに違いない、そういうことにしておこう。

 ともかく美咲ちゃんの方は……魔女というよりも聖女のイメージだな。まあ、佐竹との対比ってこともあるし、なによりも美咲ちゃんのイメージだとこっちか。

 ただ、やっぱり神聖なイメージっていうよりも、穢れを知らない純真無垢ってイメージなんだよなぁ…。


 今回のアルバムのテーマは魔女。タイトルの『Black & White』はリトルキッスのふたりのイメージに合わせたもので、それぞれの持つイメージを対比させたものだ。

 特に今回は早乙女純のイメージチェンジってこともあるし、そこを世間にアピールし受け容れてもらうってのが今回のテーマの主旨である。


 ……まあ、イメージチェンジってよりも、本人自体がチェンジしているのだけど…。


 そんな二代目早乙女純のイメージは大人の女性。

 初代は奔放闊達な熱血さを持つボーイッシュさが売りだったわけだが、二代目は謹厚慎重な冷静な淑女路線なわけだ。

 まあ、見た目が大人の女性らしく変貌を遂げたわけだし、それに伴い内面も大人に相応しいものへと成長したという建前だな。

 とはいえ本質は変わらないという意味での魔女キャラだ。仮令(たとえ)普段はクールな落ち着きを見せてはいても、それでもやるときはやるということは変わらない。そんなイメージなわけである。

 実際佐竹はそんなキャラだし、性格だって結構陰湿で、言うことはなにかと毒塗れ。そんなわけで人付き合いの巧い方じゃない。


 …って、なんでこんなのにアイドルなんて務まってんだろうな? 自分で声を掛けたとはいえそこは謎だ。やはり見た目さえ良ければなんでもいいってことなのか?




 愈々(いよいよ)イベントの開始。店は既に大勢の客達でいっぱいだ。

 これ、一応は関係者以外には秘密の抜き打ちのはずだったのに……。なぜだ?


 ともあれ始まったからにはということで美咲ちゃんと佐竹が舞台へと登る。あれだけ嫌がっていた佐竹も、いざ本番となればそんな素振りはまるで見せない。

 こいつ、なにげにこういうことに適性が有るんだよな。本番に強いっていうやつだ。


「純ちゃ~んっ!」


 ファン達の声が飛び交い、会場一堂を満たす。

 今取り挙げたのは早乙女純へのものだけだけど、実際は美咲ちゃん、つまり花房咲への声援だって当然ある。

 ただ、やはりちょっと違和感がなぁ…。

 なぜ気になったかといえば、今のやつって、以前多かったファン層とは違う、明らかに成熟したっていうか、ちゃんと育った女性を好むタイプなんだよなぁ。視線が顔よりも胸元にいってる感じだし。そりゃあ、佐竹があの衣装を嫌がったのも肯ずける。


「ちょっと、あなた達、人のどこを見てるのよ。

 そりゃあ応援してくれるのはありがたいけど、そういうのはあまり嬉しいとはいい難いのよね。

 まあ、そりゃあ私もこういう仕事をしているわけだし、あなたみたいなファンだって認めないわけじゃないけれど、でも個人的には好きにはなれないわね。

 なのでそっちがそういうつもりで接してくるのなら、こっちもそれなりの対応をすることになるわけだから、そこのところはよく覚えておいて」


 ああ、佐竹のやつ、早速やりやがった。

 いや、まあ元々の早乙女純もそういうキャラだから怪訝しな言動ってわけでもないけれど、でもこれって絶対に地だな。

 否、多少なりきった感もあるか。理性のブレーキを利かせながらも攻撃的なところとかは早乙女純のキャラだよな。本来の佐竹はもう少し慎重っていうか、毒を吐くにしてもより安全圏からが基本だからな。

 まあ、そんな佐竹がこんなリスクのある発言をできるのも、リトルキッスファンにそれを受け容れられる地ができているからこそではあるんだけど。


「もうっ、純ちゃんったらっ、相変わらず言うことがキツイんだから。

 でも、そういうのって確かに遠慮してほしいよね」


 そしてそれも、こうして美咲ちゃんのフォローがあるからこそ成り立つのだが。

 当に『Black & White』。腹黒魔女と天然聖女のイメージだ。

 まあ、毒舌キャラと癒しキャラというわけなんだけど、このバランスがなんとも難しい。毒舌が過ぎると苛つくだけだし、ボケが過ぎると疲れるだけ。

 美咲ちゃんの方は天然だから仕方がないけど、その分相方にその見極めが委ねられる。まあ、佐竹なら大丈夫だとは思うけど……大丈夫だよな。


 ともかくだ、新生リトルキッスもじき一年……にはまだ少し足りないけど別にいいか。

 佐竹もすっかり早乙女純に馴染んできたし……といってもこっちも新生早乙女純ではあるんだけどな。

 そんな二代目早乙女純が世間に馴染んできたってことを、今日は改めて確認できたわけだ。

 今回のアルバムはそんなイメージを世間に違和感なく刷り込ませる目的だったわけだけど、その必要もなかったかな。

 まあいいか。目的と手段が逆になる感じだけど、狙いは相乗効果だし、結局のところの結果は同じだ。


 そんなわけで、オレの目論見は成功だ。

 長かった早乙女純の問題もこれで(ようや)く、完全にオレの手を離れたってわけだ。



 というわけで、めでたしめでたし。

 長らくご愛顧ありがとうございました。




 …………とはならないっての。

 なんでこれで終わらなきゃならないんだって。

 そりゃあ、長かった女装アイドルは卒業だけど、まだまだ美咲ちゃん達のことは応援していくつもりだし、フェアリーテイルやBRAIN、WISHのこともある。まだまだやるべきことはいっぱいだ。


 ……それに香織ちゃんの問題だってあるんだよなぁ…。



 そんなわけで、オレの人生の先は長い。それに問題だって公私に亘って山積みだ。


 というわけで To Be Continued.

※1 この『プレリリース』と似た言葉に『プレスリリース』いう言葉があります。

 作者には馴染みの薄いこの言葉なのですが、実際他でも混同し誤用されやすいとのこと。

『プレリリース』の『プレ』とは『事前』という意味で、『プレスリリース』の『プレス』とは『報道機関』や『取材記者』のこと。そして『リリース』とは『解放』という意味。つまり『プレリリース』とは、公式な情報等の発表前の『事前公開』、『プレスリリース』とは、正式な『報道への公開』。一文字加わるだけで全く別の言葉となります。[Google 参考]

 上記で述べた誤用は「じゃあ報道への事前公開は?」ということで、混乱し両者を混同したことにより起きたものと思われます。


※2 この『自家(じか)撞着(どうちゃく)』という言葉の出典は禅宗の書物『禅林類聚(ぜんりんるいじゅう)』の『看経門(かんきんもん)』だそうです。

 そこでは『過去に辿ってきた道がわからなくなってしまうという』意味で使われているのですが、そこから意味が転じて『自分で言ってることが破綻していること』という『自己矛盾』と同じ意味となったとのこと。実際に使う場合は『自家撞着に陥る』『自家撞着を抱える』『自家撞着が露呈する』といった形となるようです。

 ただ矛盾というものは、それを指摘しても相手が立場上なら有耶無耶になることが少なくありません。この『自家撞着』という言葉は、そんな立場ある者がそれを強行するのをさす場面で使われるなんて皮肉なコメントもありました。

 余談ですが、矛盾している言葉を敢えて結び付けた表現を『撞着語法』と呼ぶそうです。

 例としては『公然の秘密』『無知の知』『生ける屍』等でしょうか。シェークスピアの『マクベス』の魔女の台詞『綺麗は汚い』や『ロミオとジュリエット』のロミオの台詞『常に目覚めている眠り、それであってそれでないものだ』なんてものも有名です。

 聖書に出てくる予言の未来完了形は果たして…?

[Google 参考]


※3 金雀枝(エニシダ)とは地中海沿岸のヨーロッパ及びアフリカ各地を原産とするマメ科エニシダ属の半落葉性低木。

 箒のような樹形に育つのが基本であり、魔女の箒はエニシダの枝で作るといわれます。

 このエニシダという木はブルームと呼ばれ、ハーブとして知られています。また、軽いトリップを起こす麻酔作用があるのだとか。

 薬師を生業としていた女性達が魔女と呼ばれ、その定番アイテムとしてエニシダの箒が定着化したのはそれゆえかも知れません。

 因みにエニシダの花言葉は『純潔』『上品』『清楚』と魔女の悪いイメージとは正反対です。

 魔女といえば、やはり箒に跨がる……いえ、やめておきましょう、些かネタが下品なので。ただ、そんな理由で魔女が『とぶ』なんてネタがあったとだけ言っておきます。

[Google 参考]


※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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