神部とジャケットの評価
今回、作中にて純がいろいろと厳しいことを言ってますが、あくまでも極端な極論です。決して常識というわけではありません。自身にそれを課すのは自由ですが他者にそれを強いることのないようお願いします。
否、自身に対しても程々に。何よりも体が一番の資本です。仕事も心身が健康であってこそです。迷った時には何が一番大切なのか、一度立ち止まって考えましょう。
というわけで、久し振りに例のあれを…。
【私撰有害図書指定】
当作品は読者に対し、知識、思想、嗜好などにおいて、悪影響を及ぼす可能性があります。ご注意下さい。なお、当方と致しましては一切の責任を負いませんので読者様方の自己責任にてお読み下さい。
例のジャケットのイラストはギリギリ生産スケジュールに間に合った。お陰でリトルキッスのアルバムは発売日を動かさずこともなく、予定通りで発売することができそうだ。生産工場やなんかは寝る間も惜しんでのフル稼働だろうけど、そこはやはり仕事ということで大人の義務を果たしてもらいたい。
まあこれはいつものことだし、いい加減慣れてくれていることだろう。
「いつものことって、鬼かよお前……」
「噂には聞いてたけど、それって本当のことだったんだ……」
河合と斑目が引いている。でも、これってリトルキッスに限らず、どこでもやってることじゃないだろうか。それこそオレ達の業界だけじゃなく、ありとあらゆる業界の常識だと思う。
「そんなわけないじゃない。
だいたい納期ってのは余裕を持って仕事を行なえるように調整されているものなのに、それを最初から当てにして物事をしてどうするのよ」
由希がふたりに反論する。
だが彼らの負担が大きいってのは本当だ。
まあ、斑目のいう噂ってのがどんなものかは知らないけど。
でも仕事ってのはそんなものだろ?
確かに納期は大切だ。でも、それとこれとは話が別じゃあないのか?
納期を守るのが義務というなら、品質の向上に努めるのだって義務のはずだ。仮令の納期のギリギリであろうと、最善のものを作り上げるべきであろう。要は間に合えば良いのだ。
そう、ギリギリであっても間に合ってんだから文句を付けられるいわれはない。
だいたい分業なんだから、相手を信用して任せれば良いのだ。作る者は最善の物を作り上げ、流通させる者は安全最速で品物を運ぶ。それがプロの仕事というものだろう。
「やはり鬼だ。言ってることが真っ黒だ。
これじゃ従業員は全員過労死間違い無しだな」
なんでだよ。河合のやつ、仕事ってものを甘くみ過ぎだろ。……って、なんでみんなして肯いてるんだよ。
「馬鹿なこと言うなよ。相手はその道のプロだぞ。そんなことになるわけがないだろ。
だいたい企業ってのは、そういうことのないように日々業務の改善に務めてるんだから、そうそうそういうことなんて起んないっての。
お前ら大人を、社会人ってのをナメ過ぎだ」
大人ってのはそうやって鍛えられて、一人前の社会人になっていくのだ。オレ達子どもが思う程、そんなヤワな存在じゃない。
「私、大人になりたくなくなってきた…」
なんか斑目が涙目だ。
こいつら本当に大丈夫か? なんか将来が心配だ。
「アンタねえ…。そりゃあ確かに、全くの間違いとはいわないけれど、さすがにそれは極端過ぎってのよ。
だいたい仕事ってのは社会に貢献することも大事だけれど、自分達の生活を豊かにすることが目的でしょ。手段と目的を逆転させてどうするのよ」
由希は異論があるようでオレに異議を唱えてきた。
しかし、集団生活における個人の責任ってものがあるだろう。それに存在意義ってものもある。
仮令どんな綺麗事を言ったところで、そのコミュニティにおいて存在意義の無いものは不要だ。役立たずには用が無い 。
「あなたって、自分のことには甘いのに他人のこととなると厳しいのね」
佐竹が呆れたように言ってくる。
「そうそう、純ってば昔っからこんな感じなのよねぇ。
自分は楽をしたがるくせに、他人には苦労を押し付けようなんて、普通はそれって逆でしょう?
自分が手本を示してこそ他人も納得して動くってのに、そんなんじゃ人は従いてこないわよ」
そして由希のお説教が続く。
「人聞きの悪いこと言ってんじゃねえっ!」 ……と返してやりたいところだが、あえてその言葉は呑み込むことにする。こいつはこうして他人を諭し始めるとそうそう引くことはないからな。人は己の正義を確信すると決して引くことはないというけど、当にこいつは典型的な例だ。変に逆らうとろくなことにはならない。
「それよりも神部はどこだ?
せっかくサンプルもできたことだし、あいつにも見てもらおうと思ってんだけど」
オレは教室内を見回した。
話を逸らすという意味もあるけど、こっちが本来の目的だ。
「なに態とらしいこと言ってんのよ。河合くんのすぐ後ろの席じゃない」
……そうだった。席は五十音順に列んでるんだから、名前が『か』で始まる神部は河合のすぐ後ろ、つまりオレのふたつ後ろの席だ。しくじった…。
「おい、気付いてなかったのかよ。てっきり僕が居るのを解ってて話してると思ってたのに…」
はは…、居たのかよ。これまたしくじったみたいだ。河合の席へと向きを変えて話してたんだから、その後ろの神部だって聞いてるよな…。
「悪い。でも、これだけ騒がしい面子が揃っているだろ、だからそこに隠れてる神部に気付かなかったんだ」
「どうせ僕は影が薄いよ」
ヤバい、神部のやつ、拗ねてしまった。
こいつ、こんな面倒なキャラだったのかよ。
「否、影が薄いとか、そんなことはないって。ただこいつらのクセが強過ぎるだけだから」
慌ててオレはフォローに入った。
といっても事実を述べるだけだが。
「ほら、美咲ちゃんや天堂はアイドルだし、佐竹だってかなり目立つだろ。それに由希はヤンキー顔負けの威圧感だ。そこに朝日奈や向日みたいな騒がしいやつらが加わるわけだから普通のやつじゃ影も薄れるのも仕方がないって」
……とは言ってはみたけど、天堂は容姿こそ整っているけれど、基本は周りの空気を読んでかその主張は控えめだ。
美咲ちゃんもどちらかといえば聞き手なことが多く、たいていは周りの言葉に反応を示すタイプか。
由希も今回こそ結構目立っているけど、どちらかといえば会話を見守る姿勢。
この中で目立つといえば、やはり朝日奈と日向だな。まあ、こいつらは馬鹿だから仕方がない。
あとは普段が地味なくせに、時として場を乱す地雷女の斑目か。
河合は正直どうでもいい。
オレ達の中で一番存在感があるのは、香織ちゃんだけど今日は仕事があるらしく今は居ない。
となると……あ、まだ鳥羽と小鳥遊がいたか。でも、基本こいつらってマイペースだからなあ…。今も端の方でふたりこっそりとイチャついてるし。
鳥羽はアイドルのくせに元々が地味。それが小鳥遊とイチャつくためによりひっそり感を出すようになってきている。
う~ん、こうして考えてみるとどいつも個性的だけど微妙だ。それだけに神部だってこいつらに負けていないんじゃないだろうか。
うん、神部の場合は影が薄いんじゃなくって、翳りがあるっていうべきだな。
否、それもちょっと違うか。陰気な振りをしてる割には、なにげにこうやって自己主張はするし。
つまり格好付けてクールを気取ってるから、今みたいに気付きづらかったりするんだな。きっと中二病のオタクにありがちなキャラ作りってやつだろう。
「お前、本人を前にしてよくもそう堂々と言うよな」
うおっ⁈ またやってしまったか。
「ま、まあ、そんなことよりも、例のアルバムのジャケットが漸くできあがったんだ」
ここは勢いで誤魔化そう。
そんなわけでオレはアルバムのサンプルを取り出した。
「わあ~、そんな感じになったんだ」
最初に食い付いたのは美咲ちゃんだった。
そういえばまだ美咲ちゃんには見せてなかったっけ。もちろん佐竹もまだである。
「へえ~ぇ、赤地に黒と白の魔女のシルエットが格好いいわね」
その次に感想を述べたのは由希。
少し意外だ……ってことは実はない。単に美咲ちゃんの隣に居た由希にサンプルが回されただけである。
しかしなかなかの好評だ。って、そういやこいつってこういうシンプルなデザインのものが好きだったもんな。
「ああ、由希ちゃんの言う通りだね。シンプルだけど味わいのある良いデザインだと思うよ」
続く天堂にも好評価。
「バーンと派手なのも良いけど、こういうシックなのも大人っぽくって良いよね」
「最近は早乙女純も大人しくなってきたしね。そういう意味じゃイメージチェンジってことでぴったりかも」
今度は朝日奈と向日。
こいらにもオレの意図が理解できているようだ。これなら他のファン達にもちゃんと伝わってくれるだろう。
「でも、あれだけいろいろと描いておいて、実際に使ったのがこれだけって…。
しかも微妙にデザイン変わってるし…」
そして斑目。やっぱりこいつは空気を読まない。
この流れでなぜこんな粗を指摘するようなことを言うのだろうか。
「ああ、そこはあくまでも案だからな。
でも、これでも原案として尊重されているんだぞ。
生憎とシルエットという形にはなったけど、でもその雰囲気というかイメージ? そういったものはちゃんと残っているだろ」
でも説明は必要だっただろう。確かにいろいろと変わったわけだしな。
「ああ、確かに。シルエットだしデフォルメ化されてはいるけれど、それでもちゃんと僕のイラストの面影が感じられるからね」
ふう、解ってくれるか。さすがはイラストレーター志望ってことなのかな。
「そっか。それを聞いて安心した。
実は斑目みたいなことを言われるんじゃないかって少し心配してたんだ。でも、こうして納得してくれて嬉しい限りだ。
今回こうしてジャケットのデザインが決まったのはひとえに 神部の協力があったお陰だ。オレじゃこうも巧くイラストに起こすのは無理だったからな。礼を言うよ」
とりあえずこれで一安心だ。
神部にも納得してもらえたし、礼も言えた。
それに仲間内にも好評だし、ファン達にも気に入ってもらえることだろう。
それにしても、この神部は役に立つ。
これからもいろいろと協力してもらうこととしよう。
※1 この『用が無い』と似た言葉に『要が無い』があり、この使い分けに偶に悩みます。でも『用』と『要』の意味をよく考えれば納得がいくので、こんな話を聞くと中には呆れ果てる人もいるのではないでしょうか。
まあ、そんなふたつの言葉ですが、一応説明するとこんな感じです。
【用が無い】用いない。役に立たない。
【要が無い】要らない。有っても邪魔なだけ。
意味は違う言葉ですが、物を整理をするならば『使わない』ものは『要らない』ということで結局行き着くところは同じ結果。なのでほぼ同じ意味合いでよいみたいです。
因みに『不要』『不用』『無用』だと次のようになります。
【不要】要らない。
【不用】用いない。使わない。
【無用】使う機会がない。禁止である。
『不』と『無』では微妙に意味合いが違いますが、結局はこれらも使用する場面はほぼ同じようです。
※2 この『ひとえに』という言葉は、漢字だと『偏に』と書くそうです。ただ、日常使われる漢字ではないため平仮名表記が好いとのこと。
次のような間違いをすると意味が違ってくるので、あえて漢字表記する場合には注意が必要です。
【単に】単純に。
『単』は『ひとえ』とも読めるので誤変換に注意。
【一重】① 重複しないこと。②『単衣』、『一重瞼』の略。
元々『偏に』は、名詞である『一重』に、格助詞である『に』が付いたものらしいので、変に納得して間違えやすそうです。
【偏に】① 他に理由や原因が無いさま。そのことを強調する場合に使われる。② ただそのことだけをするさま。
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※この後書き等にある意見、蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




