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純、改めて誓う

 光陰矢の如しとは唐時代の詩人である()(えき)の記した游子吟(ゆうしぎん)の光陰如箭を由来とする言葉だが、この喩えに偽りはないようで時の経つのは実に速い (※1)。本来は早い (※1)と表記するそうだけど気持ちの上ではやはり速いと言いたくなる。

 なんでこんなことを言うかといえば、この最近の忙しさ故だ。

 さすがは12月。師走なんていうだけのことはある。

 師走の語源は文字通り、法師が奔走するってことらしい。平安時代の『仏名会』という儀式が由来で、歳末には仏さま方の名前を唱え、一年間のうちに作ってしまった様々な罪障を懴悔して周るという法要をしていたんだとか。

 また、平安末期の色葉字類抄(いろはじるいしょう)によると『師馳す』が民間語源と説明されているともいう。

 他にも諸説はあるけれど、どれをとっても歳末は忙しいってことには変わらないわけだ。


 いや、本当に多忙だった。

 年末年始向けのバラエティー番組に、CM撮影、雑誌の類のインタビュー。それでなくっても普通にシングルCDの収録が有る。

 今年はBRAINとWISHがデビューしてるから、その分去年よりもハードだし…。


「なに言ってんのよ。実際にその仕事をしてるのはアンタじゃなくって美咲ちゃん達でしょ」


 除夜の鐘の鳴り響く中、由希からのツッコミが入った。


 今日は12月31日、大晦日。例年の如くいつもの面子で鐘突きへと向かっている。

 はあ……、本当に時間の経つのって早いよなぁ。


 それにしても由希のやつ、なにも知らないくせに好き勝手なこと言いやがって。

 そりゃあ由希の言うことに一理はある。しかし、だからといってオレがなにもしていないわけじゃない。


「馬鹿言うなっ。こっちはこっちでそれを支える裏方としていろいろとやることがあるんだよっ!」


 なので当然反論する。

 言われっ放しは癪に障る。


「ごめんね、純くん。いつも苦労ばかりかけて」


 ほら見ろ、美咲ちゃんに余計な気遣いをさせてしまったじゃないか。


「あっ、いや、それは構わないって。だいたいそれがオレの仕事なんだし、美咲ちゃんが気に病むことなんてないって」


 ともかく美咲ちゃんのフォローだ。


「あ~、そういえばそうだったのよね。アンタがなんかやってるのは気付いていたけど、まさかプロデューサーなんてやってたとはねえ」


 由希がオレの話に乗ってきた。

 よし、ここから話の流れを変えていこう。


「うん、それ、私も初めて聞いた時は凄くびっくりしたんだよね。しかも知らされたのは千鶴さんからだよ。

 純ちゃんは既に知ってたってのに私には知らされていなかったんだから。本当酷い話だよ」


 美咲ちゃんもこの流れに乗ってきたしちょうどいい。


「はは、確かに僕も初めて聞いた時は驚いたよ。

 でも純ちゃんも言ってたけど、まだ純くんは未成年の学生だからね、あまり名前が拡がり過ぎると本来の学業の妨げになる心配があるしそれは仕方がないよ」


 そして天堂も乗ってきた。しかもオレへのフォロー付き。さすがは天堂、相変わらず空気の読める男だ。


「まあ、それも今じゃ微妙になってきたけどな」


 とは言っても、やはり天堂の挙げた理由もあって、事務所側はそれなりの対応をしてくれている。

 業界にはJUNとしてのある程度の情報は流れてしまったけれど、それでもオレ個人としての情報はこれまで通りに秘匿されたまま、お陰で最近では騒ぎも落ち着きを見せ始めている……と思う。


「それも仕方がないんじゃない。リトルキッスにフェアリーテイル、それに今年からはBRAINにWISHでしょ。

 でも、それだけ周りから期待されてるってことなんだから、そこは素直に喜んどきなさいよ」


 由希からのフォローが入った。

 といっても(なだ)(すか)し諭すといった感じだけど。


「うん、そうだよね。私も期待してるから。だから来年もよろしくね、純くん」

「ああ、僕も応援しているよ」


 由希の言葉に美咲ちゃんと天堂のふたりも続く。


 はあ……。まあ、こんな風に期待されたからには応えないわけにはいかないな。否、違う。オレが美咲ちゃん達の期待に応えたいんだ。

 よし、それじゃ来年もがんばるか。


 除夜の鐘の響く中、改めて誓うオレだった。

※1『早い』と『速い』の使い分けですが、一般的に、『早い』は『時間的』な観点、『速い』は『スピード』の観点とされているそうです。[Google 参考]

 因みに幼少期の作者は『早い』の上位互換が『速い』だと思ってました。


※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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