Wish are Japanese Goblins?
今年もやってきたタレント人気ランキング。
去年は花房咲が1位、早乙女純が2位という快挙で遂にその頂点に登り詰めたわけだが、果たして今年はどのような結果になっていることだろうか。
「やっぱり見るんなら下からだよね」
「私達何位くらいに入ってるかな」
「純さん直々のスカウトを受けた私達だもの、きっと期待してもいいはずよね」
突如横から割って入ってきたWISHの三人。こいつら…。
いやそれよりも、なんだ、この変な自信は?
そりゃあオレが直にスカウトはしたけど、それだけだぞ?
「ええっと、100位 吾妻響也……って、なんだよ、これ男の方じゃないか」
余計な横槍が入ったせいで男性側のページを開いてしまったようだ。
まあいいか、それならこのままこっちの方から見ていこう。
「あ、本当だ。って、この人サンダーバードの人だ」
え? そうなの。
「あなた、付き合いのある人のことくらい覚えておきなさいよ」
美咲ちゃんの声に振り向いたところ、代わりに佐竹のツッコミを受けた。
「あっ、鳥羽くんの名前もあるっ!」
美咲ちゃんの言葉に今度はパソコンの画面の方に首を戻す。
確かにあった。93位 羽鳥翔。
「92位もサンダーバードの稲葉さんね」
へえ、この稲葉飛鳥ってのもそうなんだ。
もしかして他にもいるのかな?
………………あれ? あれから美咲ちゃん達の反応がない。これってもしかして……。
……恐らくはランキング外なんだろうな。鳥羽も90番台だったし。
まあまだデビューして一年なんだし、こんなもんなのかも知れない。
「あ、隆さん達の名前だ。隆さんが28位で、功さんが26位か…」
ふたりとも前に見た時よりも、また順位が落ちてる。……やっぱり芸能界って厳しいな。
「あ、天堂くん、今年は6位だ」
美咲ちゃんが天堂の名前を見つけたようだ。
…って、こいつ……。
やっぱり天堂は規格外だ…。
とりあえず男性部門は見終わったし、愈々今度こそ女性部門だ。
「ねえ、私達何位くらいかな」
「純さんのプロデュースなんだし、きっといいところにいるはずだよね」
「あれ? どこ? なかなか見つからない」
……またかよこいつらは。いったいどれだけ身の程知らずなんだか。
普通、デビューしたてのアイドルなんてそうそうランクインなんてしないもんなんだよ。香織ちゃんでさえ一年で100位近くがやっとだったってのに。
「あ、ミナちゃん達の名前だ」
美咲ちゃんの言葉に……って、こればっかりだな。
まあともかく、そんなわけで画面を見る。
あ、あったぞ。ええっと……。
40位 赤坂レナ、41位 青山ミナ。
順位は少し下がってるみたいだけど、ふたりとも去年とほぼ同じか。
そんなレナ達フェアリーテイルだけど今年度に入ってからはその活動は基本休止中だ。
「あっ、あった、私達の名前。
はぁ~……、良かったぁ。正直心配だったのよね」
佐竹が安堵の声を漏らした。
まあ、それも仕方がない。なんてったって、こいつにとっては初めての経験だもんなあ。
しかもトップアイドル早乙女純の二代目としてだ。相当な重圧を抱えていたのに違い無い。
で、その順位はというと……。
「あ、本当だっ。しかも私達今年も1位と2位だよっ!」
1位 花房咲、2位 早乙女純と美咲ちゃんの言う通り、佐竹だけでなくオレも肩の荷が降りた気分だ。
いや、降ろしちゃいけないか。あくまでもこれは今年の結果だ、まだこれからだってあるんだから。
それ以外のオレの知ってるの人物だと、まずは香織ちゃんが今年も3位。さすがはリトルキッスのライバルだ。
さすがといえば瑠花さんが4位、それに千鶴さんが5位。……って、千鶴さん、今年も瑠花さんには及ばなかったか…。
「な……無いっ! 私の名前がどこにも無いっ!」
「嘘っ⁈ 私の名前もっ⁈」
「ちょっと、どういうこと⁈ この子達はともかく、なんでメインの私の名前まで無いのよっ⁈」
……こいつら、まだやってるし…。いい加減現実を認めろっての。
いや、それ以前に…。
「当たり前でしょ。あなた達がデビューしたのってついこの前じゃない。いくらなんでもそんなに早くからランキング入りなんてあり得ないわよ」
うん、佐竹の言う通り、普通はそんなことはあり得ない。
「あっ、そっか。まだ私達ってデビューしたばかりなんだもん、さすがにそんなにすぐってわけにはいかないよね」
「それもそうよね。そういうことなら納得だわ」
「じゃあ来年かぁ…。ああ~、せっかく楽しみにしてたのになぁ」
おい、佐竹、こいつらはっきり言わないと解らないみたいだぞ。お前の言葉を自分達の都合の良いように解釈してて、本来の意図に気付きもしない。あまりにも簡単過ぎることなのにな。
「……お前ら、あんなデビューの仕方をしといて、なんでそんなこと考えられんだよ。面の皮の厚い恥知らず、厚顔無恥ってのは当にお前らのことだってえの。
はあ……。まさか『WISH』なんて名付けたのが、こんなに皮肉になるなんてなぁ…」
「え、どういうこと?」
美咲ちゃんが不思議そうに訊ねてくる。
まあこれはいつものことだ。
いや、今回はちょっと違うのか? 見れば眉を顰めて 不審げだし。
「『wish』が『希望』って意味なのは知ってるわよね。じゃあ同じ意味合いの言葉の『hope』との違いって解る?」
佐竹が美咲ちゃんに解説する。否、WISHの連中も含むのか?
まあとりあえずは様子を見るか。
「えっ? それってそんなに違いなんてあったっけ?」
美咲ちゃんの代わりに答えたのは望だった。
「さあ? あんまり考えたこと無いよね。授業でもそんなこと言わないし」
続いたのは珠恵。
まあそうだろうな。所詮学校なんてそんなもの。とりあえずは最低限の知識さえあればよいっていうことで、実践なんて考えてなんてないだろうからな。否、実際は学校にもよるのだろうけど、少なくともこいつらの学校じゃそこまでの拘りは無いのだろう。オレもカレンのやつと会うまでは、そんなことなんて考えてなかったしな…。
「う~ん、よく考えたらwishってあまり使わないわよね。大抵はhopeかwantだし…。
『hope』は『~だったらなと思う』、
『want』は『~が欲しい』、
『wish』は……『神様へのお願い』かな」
ふむ、かなえのやつなかなかやるじゃないか。
……それに引き換え美咲ちゃんはやっぱり混乱中か。まさか歳下の子にまで劣るなんて…。
「ええ、おおよそそれで合ってるわ。
『hope』はこうあってほしいという願い。物よりもできごとに対してっ感じかしら。
『want』はそれがより直接的で具体的。そのせいか日常ではよく使われやすいんじゃないかしら。何かが欲しいとかしてほしいとか。
で、本題の『wish』なんだけど、これは願いというよりも祈り。『hope』との違いは実現性の高さの差ね。
『hope』は日常的で現実的な事柄の実現への願い。
対して『wish』は日常では起き得ない非現実的な奇跡を願う祈り。
つまり彼はあなた達のアイドルとしての成功の成就は『実現不可能な高望み』だったって言ってるわけ。
多分、彼はあなた達に随分と期待していたんでしょうね。それだけにその分、失望も大きかったってことよ」
さすがは佐竹だな、オレの心中をここまで的確に当ててくれるとは。
まあ、オレならば序ででdesireについても触れてるところだけど。
実際こいつらの場合、やる気だけはあるからな。『渇望』って意味なら『Desire』ってのがこいつらには当て嵌まる。否、強欲だからGreedか。
はは、一瞬スラングのGoblin Mode が頭に浮かんできたけど、それを言ったらこいつらどんな顔をするだろう。
自己中心的で強欲なところなんて当にそう。これで怠惰でずぼらなら、本当にゴブリンのイメージそのままだ。
「もうっ、純ちゃんってば、なにもそこまで言わなくってもいいじゃないっ。そりゃあ、純くんならそれくらい……ってか、もっと酷いこと言いそうだけど」
美咲ちゃんが佐竹を諌める。でもその内容は否定しない。
いやそれよりも、さりげなくオレを貶す体でそこから気を逸らさせるなんて、そんな器用な芸当をいつの間に…。
「全く、美咲ちゃんってば余計なことを…。
まあでも、だいたいそんなところだ。
でもこの『WISH』ってユニット名をただの皮肉で終わらせるか、それとも周囲からの羨望を集める希望の象徴となるか、そこはお前達次第だな」
うん、いい具合に纏まった。さすがに貶したままで終わりってわけにはいかないからな。
まあ、こんなやつらだけど、それでも最近はマシになってきたことだし。
こうして偉そうなことを言ったからには、オレもそれに見合う努力をしないとな。
それに来年はフェアリーテイルだって活動再開だ。
はは、来年も大変だ。
※1 この『顰める』には二通りの読み方があり『眉』の場合は『顰める』です。『顰に倣う』の故事の『ひそみ』はこちら。
もうひとつは『顰める』と読み『顔』の場合は『顰める』です。他にも『顰めっ面』等と使われます。[Google 参考]
漢字で書ければ誤魔化しが利きますが、難しい漢字ですし楽に平仮名で書きたいところ。でもその場合は『ひそめる』か『しかめる』か正しく使わないと顰蹙を買う可能性が…。読者の皆さんはどっちで書きます?
※2 この『Goblin Mode』というスラングは2022年の英国のソーシャルメディアでの流行語だそうです。
意味合いは作中にあるように『社会規範や期待を拒絶し、悪びれずに身勝手で怠惰で欲張りな行動をすること』。当に『ゴブリンのように』ってわけですね。
[Google 参考]
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




