DETECTION?
先日の学園祭以降、再び周囲が騒がしくなってきた。
「ねえっ、男鹿くんっ、遂に香織ちゃんと付き合い出したって本当⁈」
と、こんな感じに。
「なにわけの解んないこと言ってんだよ。見ての通り香織ちゃんとは今まで通りの関係だよ」
変な誤解は受けたくないので当然ながら否定する。
「いや、そんな状態で言われても解んねえって。
てか、お前らの普段を知らないやつが見たら、絶対肯定って取るぞ、それ」
うぐっ、確かに…。
今のオレの状態といえば、なにも変わらぬ普段通り。
ただ、その普段通りってのが、河合の指摘通り普通じゃない。
だってなぁ……。
隣では香織ちゃんがオレの左腕を抱いて肩に頭を預けている。
「確かにこれじゃ、なにもないなんて言ったところで誰も信じるわけないわよねぇ」
だよなぁ…。
朝日奈じゃないけどこれじゃ説得力は無いよな。
「で、実際のところはどうなの?
まさか本当に香織ちゃんと付き合い始めたとは思わないけど」
向日は半信半疑ってところか。
「ちょっとっ、まさかってどういう意味よっ!」
「まあ、朴念仁の純だもんねえ」
香織ちゃんの抗弁に応えたのは由希だった。
誤解がないのはのは良いとしても、理由がそれってのはないだろ。
「でも、香織ちゃんの甲斐甲斐しさにほろりときて、遂に陥落ってこともあるかもよ」
朝日奈は向日とは逆で懐疑的。
確かに香織ちゃんの健気さには感じ入るところはあるし、何度となく絆されかけたこともある。でも、それでもやはり、友人以上って気にはなれないんだよなあ…。
オレって由希の言うように、本当に朴念仁なんだろうか…。
いや、そんなことよりも、ちゃんと誤解を解いておかないと。それに噂の出どころも気になる。
「さっきも言っただろ。香織ちゃんとは今まで通りの関係だよ。
それよりもどこからそんな話が出てきたんだよ?」
「えっ? だって男鹿くん、この間の学園祭の時、香織ちゃんと仲好く一緒にクリームソーダを飲んでたんでしょ? 大勢の子が見てたって話だよ」
……あ、あれかぁ…。
「仕方ないだろ。でかいのがぽんと出てきたんだから。
でも、そんなに気にすることか? 高が一緒の物を飲んだってだけだろ?」
ストローの飲み口だって別々だったし、間接キスとかそんなわけでもないんだから、なにもそんなに騒がなくたっていいじゃないか…。
「じゅ、純くんの裏切り者~っ!」
罵声を残し走り去っていく美咲ちゃん。
そしてそれを見て勝ち誇ったように笑う香織ちゃん。
なんでだよ。女の子ってやつはこれだからわけが解らない。
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「ねえ、いい加減なんとかならない?」
その日、仕事を終えた後、佐竹が辟易としたように訊ねてきた。否、訴えてきたというべきか。
なにをといえば、先程先に帰って行った美咲ちゃんのことだ。
いつもの美咲ちゃんからの早乙女純への告げ口についてである。
オレと早乙女純をくっ付けようとする美咲ちゃんからすると、好意で世話を焼いてるつもりなんだろうけど、でも当事者のオレ達には全くその気は無い。悪気があっての行動でないから正直対応に困るのだ。
「と言ってもなあ…。
美咲ちゃんって、結構思い込みが激しいだろ。だからあれってどうしようもないんだよなあ。
だいたいなんとかなるくらいなら、今までだって苦労してないっての」
「そうよねぇ…。
ごめんなさい。今まで他人事と思ってたけど、こうして自分の身に降り掛かってくると、あなたの苦労がよく解るわ」
オレの言葉に佐竹も納得したのか、珍しくしおらしい反応が返ってきた。
「「はあ~……」」
オレ達は揃って溜め息を吐いた。
「どうしたんですか、ふたりして溜め息なんて」
そんなオレ達に声を掛けてきたのは新人アイドルBRAINの健次だった。
彼らBRAINも今日一日の仕事を終えてこれから帰り支度である。
「もしかしてまたWISHのことですか?
でも最近は随分とマシになってきたって話だったと聞いてますけど」
続けて浩司が問い掛けてくる。でもその心配は今回は的外れ。
てか、あいつら同期のこいつらにまでこんなこと言われているのかよ。
そりゃああいつらも奮起もするわけだ。恐らくは余程の屈辱だったのだろう。
でも、これでこいつら、あいつらには間違い無く嫌われたな。
「ああ、あいつらのことじゃない。
浩司の言うようにあいつらも漸く少しはマシになってきたからな。
でも、オレがそう言っていたってあいつらには言うなよ。これでいい気になられたら、せっかくの苦労が元の木阿弥になるからな」
一応誤解は解いておく。あんなあいつらじゃあるけど、それでもいわれのないことで責められると思うとさすがに気が引けてくるからな。
「それじゃなにがあったんですか?
俺達なんかじゃ頼りにならないかも知れませんけど、それでもよければ話してくれませんか?」
良昭が改めて訊いてくる。
人付き合いの悪い姉とは大違いだな。
「まあ、その…、実はだな……」
まあ、せっかくなんで差し障りの無い範囲で話してみた。
一応は頭脳派の連中だ、いくらかの参考くらいにはなるだろう。
「ああぁ、悪いけどそういうのはちょっと…。
てか、さすがは純さんだ。俺もそういうことで悩んでみてえ」
くそ、浩司のやつ。他人事だからって好きなことを…。
「すみません、俺もこういうことには疎くって。なにぶん俺も浩司と同じでそういう経験が無いからさ…」
「こら、健次っ。余計なこと言ってんじゃねえっ!」
健次も同じか。…ていうかなに? こいつらこれでモテてないの?
頭が良くてそこそこのルックス、これって結構女の子受けすると思ってたんだけど。
「俺も同じです。
まあ所詮は俺達、男ですからね。女の子の機微なんてとてもじゃないけど解りません」
良昭もか。期待してたわけじゃないけれど、やっぱり俺達男じゃなあ…。
「あ、でも、せっかくなんで帰ったら姉ちゃんにでも相談してみますんで、結果は姉ちゃんに訊いてみてください」
なあっ⁈
「ちょ、ちょっと待てっ。それだけはやめてくれっ!」
冗談じゃない。この問題の当事者にそれを訊ねるなんてとんでもない!
いや、でも、こいつは知らないんだから仕方がないんだけど、しかし…。
「ええ、それはダメっ。それだけはやめてっ」
佐竹もオレと一緒になって良昭を止める。
「え? なんで? こういうことってやっぱり訊ねるんなら女性でしょ?
大丈夫ですよ。ああ見えてもいざって時には頼れる姉ですから」
いや、普段ならそうかも知れないけど、今回ばかりはそれは違う。
「わ、悪いけど、私、あの人って苦手なのよ。だからそれだけは絶対にやめて」
佐竹が例の設定を持ち出したことで漸く良昭も納得してくれた。
ふう…、これで一安心だ。……だよな、良昭。間違っても帰って今の話を持ち出すんじゃないぞ。
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結局なにが解決したわけじゃないけど、ひとつだけ収穫があった。
「しかし『Love Detection』に『Love is Mystery ~恋愛考察~』か…」
皮肉にも今回の件からのインスピレーションで新曲がふたつできたのだ。
でも、『Love Detection』といっても別に『恋愛発覚』ってわけじゃなくて、『探す』ってつもりだったんだけど…。
じゃあ『Love Detective』で恋愛探偵か?
否、それじゃただの自虐的皮肉だ。『探る』なんて思うから『暴く』なんてイメージになるんだ。『愛を見つける』のイメージなんだから、ここは『Love Detection』のままでいこう。
『Love is Mystery ~恋愛考察~』はこのままだな。どうせオレにとっては恋愛なんて、いくら考えたところで謎のままだ。
……ちっ、どっちもやっぱり自虐だな。
まあいいや。どうせ他人には解るわけのないことだしな。
もう夜も遅いし、とっとと寝よう。
※作中にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




