アイドルステージ本番 -今年はサプライズゲストで…-
今年もアイドルステージには特別ゲストが呼ばれていた。
予想通り瑠花さんだ。
去年も来てたし今年もという、そんな期待に応えたわけだ。
でも、実際はやはり香織ちゃんが心配だったんだろうな。この学校にはライバル事務所のトップアイドルの美咲ちゃんがいるわけだし。
他にも御堂玲や鳥羽がいたり、序でに如月姉妹の母校だったりもするし。……って、これは別にいいか。
これに香織ちゃんひとりで対抗しなければならないんだから厳しいのは間違いないだろう。
「それに男鹿くんみたいなイレギュラーだっているもんね」
「るせえ、余計なお世話だっての」
斑目の言っているのは去年のフェアリーテイルの一件のことだろう。
フェアリーテイルの飛び入り出演を断わられた腹癒せ混じりに、タイミングを合わせてオレ達のクラスで出した店の手伝いをしてもらったあの時のことだ。
それでだろうか、今年の瑠花さんは同じ事務所の新人アイドルを連れてきている。
いや、瑠花さんにそんな権限は無いだろうから恐らくは事務所側の対応策か。
でも、そういう目的ならば連れて来るべきは無名の新人じゃなくてそれなりに知名度のある者であるべきだと思うんだけど。
いや、うちの事務所がBRAINやWISHをデビューさせているからそれに対抗するつもりで連れて来たのかも知れないな…。
ふむ、それならば。
「お前ら、去年のリベンジをしてみる気はないか?」
オレはレナ達に問い掛けた。
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「突然どうもすみません。オレ、『JUN』って者なんですけど不躾ながらお願いが有って参りました。
実はこいつらの飛び入り出演を頼みたいんですがお願いできませんか?
一応それなりに知名度も有るはずなんで、迷惑にはならないと思うんですが」
レナ達を伴い舞台裏へと趨いたオレは去年と同じ台詞を口にした。
「なっ⁈ あなた達はっ!」
現れた人物は去年と同じ運営委員。
反ってきた台詞は去年と違う驚きの声。
「あ、あ、あなた達、いったいここに、な、なんのようがあって来たのよ⁈」
はは…、去年のことを覚えてるのだろう、すっかり動揺し捲っている。
「それは今さっき言ったはずなんだけどな。
こいつらフェアリーテイルの飛び入り出演を頼みに来たんだけど、やっぱり今年も駄目なのか?」
面白いので、少し意地悪く言ってみた。
「そ、それは……。
ちょ、ちょっと待っててっ。今から相談に行ってくるからっ。
お願いだからっ、勝手に変なことしないでよっ」
うん、やはり面白い。
「うわぁ……。この人、未だに根に持ってたんだ……」
「うん、私も多少は思うところはあったけど、でもさすがにこれはちょっと気の毒になってきた」
ん? なんだ?
なんでこいつら、引いてるんだ?
去年はあれだけ憤慨し捲ってたくせに、わけの解らないやつらだな。
結果、フェアリーテイルの出演許可が下りた。
なんだかさっきの運営委員の顔色が変な感じだけど、まあ気にすることもないだろう。
「そこは気にしてあげなさいよ。いくらなんでもあれは可哀そう過ぎるでしょ」
瑠花さんがオレを諭してくるけど、なにか問題があっただろうか?
「ところでこの曲を選んだのってわざとなの?」
「はあ⁈」
わざとって……。
今、舞台上ではフェアリーテイルのふたりが歌っている。
曲は『Trick or Treat』。去年、ハロウィンに合わせて作った曲だ。
今日が10月最後の土曜日で10月31日がハロウィンなんだから別に怪訝しいことなんてないはずなんだけどな。
「本当にそれだけ? なにか裏が有ったりしない?」
オレの説明に納得がいかないと、なお不審そうに訊ねてくる瑠花さん。
なぜだ⁈
『Trick or Treat』って『ご馳走してくれなきゃ意地悪するぞ』って、そんな意味合いの子どもの言葉のはずだろ?
てことはなに? まだなにかオレ達が要求していると思われてるってわけ?
『Live or Die』なんて、そんな恫喝みたいに思わなくったって…。
「そんなの疚しいところがあるからそんな風に思うだけだろ」
全く、酷い言い掛かりだ。
「はあ……。あなたって本当に女の子相手でも容赦が無いのね」
瑠花さんが溜め息を吐いた。
なんだよそれ。こっちの方こそ心外だ。
~♬
trick or treat? (お仕置き? それともおもてなし?)
smell my feet? (足の臭いを嗅ぎたいの?)
give me something good to eat? (それよりも何かいいコトしてよ)
~♬
フェアリーテイルの歌声が聞こえる。
オレ達の下卑たやりとりなんて関係の無い、ただ無邪気なだけの歌声だ。
歌詞はちょっとアレだけど、でもこれはハロウィンの定番の台詞。なにも怪訝しいことは無い。
オレ達がこんなやりとりをしているうちに曲は終わり、そしてフェアリーテイルの出番は終わった。
満足そうな舞台上のふたり。
周りがなんと言おうとも、やはりこれで好かったと思う。
これで去年のリベンジは果たした。
さあ、それじゃあ、行くとするか。
「ちょっと、待ってよ、純くん。まだ私の出番が残ってるんだからっ」
あ…。そういえば香織ちゃんの出番がまだだった。
オレ達がこの場をあとにした のはこれより一時間の後だった。
※1 ここではこんな訳をしておりますが、一応は歌の詞ということで、それに応じた意訳としております。
ただ、実際にハロウィンでは、
『trick or treat,(お菓子くれないといたずらしちゃうぞ)
smell my feet,(私の足のにおいをかいで)
give me something good to eat.(何かおいしいものをちょうだい)』と言うらしいです。
『treat』『feet』『eat』の韻をふんで、テンポよくリズミカルに言うのが可愛らしくてよいそうです。
[Google 参考]
※2 ここでは『あと』と平仮名表記しておりますが、漢字に直すと『後』となるそうです。作者としては『跡』とばかり思っておりました。というか、正解の解った今でも違和感が残り、どうにも納得しきれておりません。そんなわけでここでは妥協で平仮名表記としております。
『あと』という漢字は次のように使い分けするようです。
【跡】何かが行なわれたり、通過したりしたしるし。
【痕】きずあと。
【後】後方。時間的、または空間的に後ろに位置するものや、順番が遅いこと。
[Google 参考]
『足跡を残す』で『跡にする』でよいと思っていたのですが、『後方に見る』で『後にする』だったようです。
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




