アイドルステージ本番 -今年は特別ゲストに…-
オレ達に波瀾を齎すかに思えたミスコンだったけど無事終わった。
正直ああいうのは勘弁してほしい。いきなり佐竹を拐っていくからなにごとかと思ったじゃないか。
彼らとしてはドッキリとかそんな感覚だったのかも知れないけれど、される側のことも考えるべきだ。少なくとも洒落にならないようなことは自重するべき、というかやるべきじゃない。後で主催の同好会と運営の責任者である運営委員会に苦情を入れてやる。
そんなミスコンの結果だが、男性部門の優勝者は御堂玲、準優勝者は羽鳥翔。女性部門の優勝者は加藤香織、準優勝者は佐竹順子。
佐竹が連れ去られた理由はこのためだ。
やはり主催がアイドル同好会というだけあって、受賞者はやはり現役アイドル。本名でなく芸名での受賞がその表れだ。
そんな理由だから佐竹の受賞も早乙女純のそっくりさんという扱いだったものと思われる。
お陰で表彰から戻ってきた佐竹は不機嫌そうで、その言葉の端々から不満の猛毒が溢れ出し捲っている。
いつものように不用意な発言をしてその地雷を踏み抜いた斑目なんて、すっかり怯えて涙目だ。
誰かなんとかしてくれよ。
せめて天堂がここにいれば…。
うん、同好会と運営委員会には絶対に苦情を入れに行こう。
ミスコンの結果についての話だけれど、実は選外の票ってのも有ったようで、それについても発表された。エントリーされていないのに入っていたという無効票だ。
なんでこんなものを発表するのかっていうと、やはりエントリーされている者が美男美女の全てじゃないって不満が出てくるためだろう。
具体的には美咲ちゃんとか。
「ううぅ……。納得がいきません。まさか咲さんが、あんな女に遅れをとるなんて…」
「まあ、一応ここはアウェーみたいなもんだしな」
ミナの言うように美咲ちゃんの得票数は香織ちゃんの得票数には届いてはいなかった。やはりこの学校に瑠花さんがいたことの影響だろう。一応上級生達にとっては香織ちゃんは彼女の後継者みたいな位置付けみたいだから。
「てことは、来年にはこの状況はひっくり返るわけですね。
そうですよね。あんな卑劣な贔屓さえ無ければ、正々堂々の勝負だったら咲さんが負けるわけなんてあり得るわけないですよね」
確かにアウェーではなくなるかも知れないけれど、それはミナの贔屓目の評価だ。なんてったって香織ちゃんの人気だって本物なんだから。
おっと、愈々ステージが始まるようだ。
そして壇上に現れたのは……。
「あっ、やっぱり今年も来てたんですね」
それは斑目の言うように瑠花さんだった。
「みたいだな。まあ香織ちゃんがいるしな。
それに生徒会には親しい後輩もいるだろうし、そういうところから頼まれりゃ、やはり断わりづらいだろうからな」
「それにまたなにかやらかしそうな後輩もいるしね」
斑目のやつ、さっきまでのことが嘘だったかのようにもう復活してやがる。
ゲストは瑠花さんだけではなかった。
女の子三人組が一緒だ。
「あれは今年デビューしたエルダーシスターズだね」
「ぶふぉっ! げほっ、げほっ」
おい、斑目。それは何の冗談だ。思わず吹き出してしまったじゃないか。
「ちょっと、男鹿くん、いったいどうしたのよ」
不思議そうに問い掛けてくる斑目。本当に解ってないのか?
「それ、冗談じゃなくて本当なの?
もしかしてあの子達ってバラドルなの?」
佐竹もオレと同じことを思ったらしい。
そうだろう。あれじゃバラエティ向けアイドルというよりも女お笑い芸人だ。
「え? ううん、そんなんじゃないけれど。なんで?」
やはり解っていなかったか。
一方で解ったのであろうレナなんて必死で笑いを怺えている。
「エ、エルダーシスターズって……。
ぶっ…、うくくく……」
否、怺えられていないな。
「ええっ、なんで⁈
あれって『お姉さん』って意味なんでしょ⁈」
やはり解ってない斑目。
「ぷふぅっ! そ、そういうことだったんだっ。
それじゃ、純先輩やレナちゃんが笑うのも当然だよ。
ま、まさかアイドルに『ババァ』だなんて。
ぷっ、くふふ…。
あ、あり得ない……っぷ、くくく……」
そう、そうなのだ。エルダーとは年長者という意味の言葉なのだ。
この命名者はきっと古いタイプの人間なんだろうな。
確かに男性には歳上の女性の母性に対する憧れを抱くものだ。それはオレも解らないでもない。
でも最近は歳下の女性に甘えられたいなんて男性が多いみたいだ。生憎オレには理解し難い話だが。懐かれるのは悪い気はしないけど、それに伴う厄介事は煩わし過ぎる。
話が逸れた。
命名者の意図としては包容力のある姉的存在ってつもりだったのだろう。だが、今需要が強いのは妹的存在の方なのだ。
……でも、今、大東で人気のある女性アイドルって、どちらかというとリーダーシップを執れるタイプの女性だよな。瑠花さんとか香織ちゃんとか。
なるほどそれで歳上路線ってことなのか。
オレ担当の女性アイドルって年齢のせいもあって妹イメージがあるからな。まあ、最近のリトルキッスは早乙女純のイメチェンもあってその路線を脱却しつつあるところだけど。
もしかするとそれに対抗って意図もあるのかも知れないな。
エルダーシスターズの歌唱力は思ったよりも高かった。振り付けの方もなかなかで、その連携 もよくできている。
漸くそれがそれなりになり始めたWISHとは同じ新人でありながら大違いだな。
次の出番は鳥羽達サンダーバード。
一年とはいえ先輩なんだ。無様な真似はするんじゃないぞ。
※1 この『連携』という言葉ですが、似た言葉に『連繋』『連係』そして『連系』なんてものがあり、頭が混乱するばかり。それぞれの意味は次のようでした。
【連携】互いに連絡をとり、協力して物事を行うこと。
【連繋】何かと何かの間につながりがあること。
次の『連係』と同じ意味です。
『連携』との違いは『共同作業をするとは限らない』ことと『関係の密度が高い』ということらしいです。
【連係】他と密接な関連をもつこと、切れ目なく続くこと。
戦後の常用漢字の改定までは『連繋』と表記されていたそうです。現在は『連係』が一般的。
【連系】太陽光発電の発電設備を電力会社の送電線や配電線に接続して運用することを『系統連系』というそうです。専門用語。
[Google 参考]
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




