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今年もやってきた学園祭

 10月末の土曜日。今年も学園祭がやってきた。

 うちのクラスの出し物は今年も雑貨店。

 一度楽を覚えた後では他の店なんてやってられないってことだろう、今年は全員一致であっさりと決まったのだった。


 そんなわけで、今年もオレは開店準備に勤しむ。


「なにが開店準備に勤しむだ。今年も商品の陳列なんて楽な作業をしてるくせに」


 そういう河合は今年も商品の運び役だ。


「そうは言ってもじゃんけんで決まったことだしなぁ。まあ、恨むんなら自分の勝負運の無さを恨むんだな」


 今年はどさくさ紛れではなくちゃんとした手順での役割分担だ。非難を浴びるいわれは無い。



「くそっ、ひとりで楽しやがって。

 俺はしばらく休むからな。接客は任せた」


 一通り作業が終わったところで、河合が力尽きたように椅子に(もた)れた。


「お疲れさん。まあそれくらいなら(しばら)くは面倒みるから任せとけよ」


 さすがにオレも鬼じゃないので、それくらいは労ってやることにする。罪悪感は特に無いけどやっぱりな…。



 ………………。


 ……誰も客が来ないな。

 あれから来たのは同じ店番の斑目と佐竹くらいのものだし…。

 やることが無いのは楽かもしれないが、しかしこうも(ひま)だと退屈で時間を持て余してしまう。


「去年も同じこと言ってたよね。

 でも、去年はレナちゃん達が来てくれたんだよねえ…。

 ねえ男鹿くん、今年もあの子達って来てくれたりしないのかな?」


 斑目の言う通り、去年はあいつらが遊びに来てたけど…。


「どうだろうな。今年はあいつも受験生だからなあ。

 多分、今頃は来年の受験に向けて忙しくしてるだろうから、今年は来ないんじゃねえの?」


 普通に考えれば、まずないだろうな。あいつらもそんな馬鹿じゃないはず。


「そっか。そりゃあそうだよね。あ~あ、残念」


 すっかり斑目もあいつらに馴染んだみたいだ。

 ……って、こいつ、そこまでの付き合いだったか?


「案外息抜きに来たりするかもよ。

 長いことあなたや美咲さん達に会ってないでしょ。

 だからせっかくのこういう機会は逃さないんじゃないかしら」


 言われてみればもう随分と経つもんな。

 とは言っても、美咲ちゃんとはちょくちょくと電話とかメールでやり取りをしているみたいだけど。


 そんな会話を交わしていたところ、今日一番の客がやって来たようだ。


「純先輩、お久しぶり~」

「お久しぶりです。…って、あれ? 咲さんは?」


 噂をすれば影が差すっていうけれど、まさか本当に現れるとは。

 しかもこんな狙ったかのようなタイミングで。


「なんだお前らかよ。せっかく客が来たかと思ってたのに。

 まあいいか。ちょうどお前らの話をしてたところだしな」


 客じゃないのは残念だけど、久しぶりだし、そこのところはまあ好しとしよう。


「あの、ところで咲さんは?」


 しかし、オレのことよりも美咲ちゃん(そっち)かよ。全く、ミナのやつは相変わらずだ。


「あ、ああ、それは……」


「……ああ、別に用事があるんですね」


 オレが言い淀んでいたところ、ミナもそれで察したようで気まずそうに話を引っ込めた。


 ……美咲ちゃん、後輩に気遣われているぞ。


「あの……、もしかして、あなたが例の早乙女純先輩のそっくりさん?」


 一方で気遣いのできてないやつも。

 否、レナに代わってならば気遣いなのか?

 この佐竹への質問は、ふたりの腰巾着二人組の片割れの……ええっと、なんだっけ? 名前が思い出せないや。


「大宮だよっ!

 全くこの先輩は…。俺達のことなんて眼中に無しかよ…」


 ああ、そうだった。確かそんな名前だった。

 腰巾着一号、二号くらいにしか思ってなかったからどうしても覚えてなかったんだよな…。


「初めまして。佐竹順子よ。

 美咲さん達とはクラスメイトってこともあって仲好くさせてもらってるわ」


 佐竹が自己紹介をする。

 そういえばこのふたりはもちろんのこと、レナ達とも佐竹自身としては初対面だったっけ?

 ただ、よろしくとは言わないところをみると、恐らくは気分を害しているな。

 多分、早乙女純のそっくりさんという認識で接してこられたことが原因に違いない。

 まだ毒を吐いてない分だけ友好的に接してる方だろう。



 せっかく来たのだからと今年も彼女達はオレ達の店で買い物をしていく。

 今年も彼女達はオレ達の店で買い物をしていく。

 今年も……。


「もうっ、解りましたからっ。

 ちゃんと買っていきますから止めてくださいっ」


「いや~、悪いな、なんだか無理強いしたみたいで」


 今年も彼女達はオレ達の店で…。


「だからもうそれはいいですって!

 それともまだ足りないってんですかっ」


 いや、そういうわけじゃないのだが……って、こいつら、この店の目玉のリトルキッスの直筆サイン入りグッズを購入してやがる。


「い、いいじゃないですか、それくらい。これでも一応、私達はお客さんなんですよっ」


 レナの言うことは尤もだ。

 しかしなあ……。リトルキッスの妹分なんいわれるようになったってのに、なんで今さらそんな物を欲しがるんだか。

 こいつらの考えることは時々意味不明だ。


          ▼


 オレ達が店番から解放されたのは昼前だった。


「去年はお前ら、俺に店番を押し付けてさっさと逃げ出したんだよな」


 ち、覚えてたか。

 ただ、そんな河合も他のやつに後を押し付けてたみたいだったからオレ達を非難できる立場じゃないはずだ。


「立場だよっ! 俺はお前らから直接被害を受けた被害者だからなっ!」


 ああ、うん、確かに。でもそんな細かいことをいつまでもねちねちと気にするやつはモテないぞ。


「あなた達そんなことしてたんだ」


 そんなことを言う佐竹だが、その口調はオレ達を責めるというよりも呆れた感じだ。

 まあ所詮は他人事だし、どうでもいい話だからな。


「しょうがないだろ。昼からは香織ちゃんとの約束が有るんだから。オレは斑目と違って無罪だっての」


 まあ、約束といっても、断わる間も無く殆ど一方的に押し付けられたわけだけど。因みにそれは今年もだ。


「ちょっと、人聞きの悪いこと言わないでよ。

 私だってこの子達の案内のためだったんだからっ」


 反論する斑目だけど要はそれを口実にしただけだ。


「へっ、ふたりとも最初から逃げる気満々だったくせによく言うぜ」


 それは違う。オレの場合は決まっていたことだけど、斑目の場合はその場の機転だ。なんせ案内を言い出したのはレナ達じゃなく斑目の方からだったんだからな。

 だから斑目の方は間違いなく有罪だ。オレと一緒にしないでくれ。


「ふ~ん、つまり河合くんは出遅れて、斑目さんに先を越されたわけね」


 まあ、そういうことだろうな。

 もし斑目が言い出さなかったなら、河合が同じことをしてただろうからな。佐竹の言う通りに違いない。


「そ、そんなことよりも、早く行かないとお昼の部が始まっちゃうよっ」


 斑目のやつ、誤魔化しやがったな。

 まあ他人事だし別にどうでもいいけどけどな。

 それよりも、香織ちゃんが待ってるし、さっさとステージへと行こう。


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