修学旅行 高校編 -広島県 観光リベンジ 前編-
広島市内のホテルで一泊。
そして新しい朝が来た。希望の朝……だと思いたい。
昨日の原爆資料館はショックだった。お陰で他に何を見たのかが思い出せない。
正直思い出したくはないが、決して忘れてはならないことだ。
今日の予定は午前8時30分から午後2時までが自由時間。多分昨日の埋め合わせのためなのだろう。
よし、昨日のリベンジだ。
いつものメンバーで繰り出す。
クラスやグループでの行動ではないので今日は香織ちゃんも一緒だ。
あ、でも、鳥羽はいないか。
恐らくは小鳥遊とデートってところだろう。あまり目立つようなことをしなければいいんだけど。
「さて、オレ達はどうするかな」
平和公園以外だと広島城くらいだろうか。
足を延ばせば宮島とかか。
さすがに呉は無理だよな。
行くならやはり市内だろう。
縮景園? 広島東照宮?
へえ、そんな所も有るんだ。
地元野球の球団本拠地も駅からそんなに遠くない。
「ちょっとそれは微妙じゃない?
○ープファンって地元意識が強いから、下手なことを言ったりすると大変だよ」
いや、斑目、全く違うとは言わないけど、それはどこでも同じだろう。
「流川とかもヤバいかも。だってあそこって……」
由希もかよ。
「お前らなあ、そんな地元の人間に喧嘩を売るようなこと言ってんじゃねえよ。
斑目は極端だし、由希はヤクザ映画のイメージに影響され過ぎだって。それを言うなら東京だって新宿や歌舞伎町はどうなんだって話だっての」
まあ、確かにそういう人達の集う事務所ってのは多いらしいけど…。
「確かにね。でもそこってそういう飲み屋街なわけなんでしょ。あえて女の子が好き好んで行くところじゃないんじゃない」
まあそうかも知れないな。
調べてみたところ、アレなお店も多いみたいだし。
つまりここは大人の男性のための町ってことなんだろう。
佐竹じゃないけど積極的に赴くところじゃなさそうだ。
「ここは縮景園あたりでいいんじゃないかな。
四季折々の豊かな自然が楽しめるってことみたいだし、風情が有っていいと思うよ」
ここで意見をまとめに入ったのはやはり天堂。
ここからはすぐ近くだし、とりあえずはここか。
「私は平和公園をもう一度見ておきたい。
昨日は資料館のせいで、せっかくいろいろと見ていたものが全て塗り潰されちゃったし」
天堂の意見に異を唱えたのは意外なことに向日だった。御堂玲の熱烈なファンであるこいつがこんな反応をするなんて…。
「ん~、確かにね。私も賛成。
このままじゃ何を見にここまで来たのか解んないものね。やっぱり見るべきものはちゃんと見ておかないと」
由希がそれに賛同する。
こいつのこれは、まあ納得。こういうけじめには厳しいやつだからな。
「そうだね。ふたりの言う通りだ。
縮景園よりもまずは平和公園巡りのやり直しだね」
天堂が前言を撤回する。
こいつもこういうことには真面目だから、これもやはり納得だ。
そして天堂がこう言うならば朝日奈も当然それに従う。
「ちょっとっ。それじゃ私に自分の意思が無いみたいじゃないのっ。
私だって今回のことじゃ思うところが有ったんだから、単に連られただけなんてこと失礼なこと思わないでよ」
朝日奈もか。
いや、朝日奈だけでなくこの場の全員が同意見だった。もちろんオレも例外でない。
「よし、それじゃリベンジだっ」
こうして平和公園の巡り直しが全員一致で決まった。
▼
「うっわあ、本当にボロボロだな。よくこんな状態でもっているよな」
まずは平和公園の代名詞原爆ドーム。
世界遺産にも登録されている原爆ドームは、原爆投下時に広島県産業奨励館と呼ばれており、とてもモダンでおしゃれな建物だったのだとか。
それも今じゃ河合の言う通り骨組みだけで見る影も残っていない。
二度とこのような惨状が起こらないようにとの願いを込めて、あえてこんなな状態で保存されているということだ。
次は原爆死没者慰霊碑だ。
相生橋へと迂回し、平和の時計塔、平和の鐘、平和の石塚等を巡る。
中でも原爆の子の像は原爆で亡くなった子ども達の慰霊碑で原爆の放射線により白血病で亡くなった少女がモデルなんだとか。ここに有る折鶴は世界中から送られて来た物だと言う。
原爆の子の像から南に行けば平和の灯だ。
遠くからでもはっきり見える炎。
これは核兵器がこの世から消えるまで燃え続けると言い、特別な日には特に火量が増えると言う。
燃え続ける炎は原爆犠牲者の魂のようにも見えるなんて言うけれど、きっとそうに違いない。
平和の灯から平和の池、そして広島平和都市記念碑へとやって来た。
これは原爆死没者慰霊碑で、式典等でお馴染みだ。
なるほど、ここの祭壇からは原爆ドームが窺える。
きっとこれはそういう意図で造られたのだろう。
続けて南へと歩くと一際大きな建物が。
うわぁ……、昨日の原爆資料館だ…。
いや、こんな不謹慎なことを思っちゃいけない。
いけないんだけど……。
ダメだ。やはりアレは……。
広島平和記念資料館本館の前には噴水が有る。これは祈りの泉と呼ばれている物。
高く噴水が上がり、太陽を背中に虹が。
「はは…。まさか噴水なんかでほっとするなんてな。
ここは刺激が強過ぎる。
まあ、ここはそういう場所なんだから当然といえば当然だけど」
見れば誰もがオレと同じ感じだ。
普段から元気な美咲ちゃんや香織ちゃんもここではそんな気力が失なわれている。
……と思ったんだけど…。
元安川を渡り北上する。
対岸から見る平和記念公園もまた……というつもりだったんだけど、美咲ちゃんの目的は別だったようで……。
「なんで広島くんだりまで来て○ニメイトなんだよ」
とはツッコミを入れてみたものの、気分転換にはいいかも知れない。
オレ達がいても大した騒ぎにはならなかったのは、平日の昼前という時間帯だったお陰なのだろう。
とはいえもうじき昼時だ。そんなに時間に残されていない。
「程々にしとかないと、まだ回るところだって有るんだぞ」
本当のところはそれだけでなく、やはり騒ぎになることだ。
せっかくの自由時間なのにこんなことで無駄にできない。最悪集合時間に間に合わない可能性も出てくるしな。
▼
○ニメイトを出て北に歩く。
かつての市民球場跡地はひろしまゲートパークと呼ばれる市民公園となっていた。
ただ、当時の名残というべきものも残されている。
衣笠祥雄の世界新記録記念碑が設置してある勝鯉の森の前に旧球場で使われていたベンチが有ったり、グラウンドのピッチャマウンドとホームベースが有った場所にも記念碑が有ったり。
きっと○ープファンには垂涎の聖地となっていることだろう。
もちろんそれ以外のものだって有る。
カフェやレストラン、グッズショップ、ジム等商業施設も多種多様だ。
「お、おい、あれって、もしかしてリトキスじゃねえ?」
「ああ、それにあいつって御堂玲だよな」
「それにあのちっこいのにくっついているのって、加藤香織だよな?」
「ええっ⁈ マジ⁈ じゃああの噂ってマジってことか⁈」
昼時に差し掛かったせいだろうか、オレ達に気付いたやつらが出始めたようだ。
てか、誰がちっこいのだ。他人の気にしていることを言いやがって。
……って、あれ?
なんかこいつら、どこかで見たような気が……。
※作中にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




