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修学旅行 高校編 -山口県 お土産-

 修学旅行2日目、今日は萩のホテルに宿泊だ。

 夕食までの間は入浴と自由時間。但し入浴時間は決められているし、自由時間もホテルからの外出は不可。それどころか移動範囲や利用可能な施設も制限されている。

 まあその代わり、外部からの接触もできないように計らわれているわけだから、文句を付けることもできない。これで無用なトラブルを避けられるんだから、ここは我慢するしかないわけだ。

 で、その間風呂以外になにをするかといえば……、まあ精々が土産物を買うか部屋で適当に時間を潰すかだよな。

 そんなわけで、オレは買い物へと向かった。


 風呂を終えた美咲ちゃん達と合流し土産物売り場へ……と向かう前に、この度の旅行の引率者たる教員達の元へと向かう。

 なぜかって? まあ、いろいろと融通を利かせてもらうためかな。恐らくは無理かも知れないけれど、ダメで元々、許可が出れば儲けものだ。


「それで本当に許可が出るんだから、お前みたいなのって得だよな」


「なわけないだろ。いったいどれだけの数がいると思ってんだよ」


 河合のやつ、勝手なことを言ってくれやがる…。


「しかし男鹿も大変だな。学生なのにこんなところまで気を遣わなければならないなんて」


 一方、買い物に付き添ってくれている教師はオレに対し同情的だ。


「まあ仕方がないですよ。今後の付き合いも考えると、やるべきことはちゃんとやっておかないと」


 JUNの正体が割れるまでは、こんなこと考える必要もなかったんだけど、割れたからにはそうもいかないからなあ…。


「でも、萩って何が有るんだろうな?

 萩焼とかが有名だけど、まさかそんな物をひとりひとりになんてわけにはいかないし…」


 博多では随分と使ったけれど、あそこは解り易くて選ぶのが楽だった。とりあえず明太子とかで良かったから。


「どうやら、夏みかんが特産品みたいね。

 ほら、マーマレードとかジュースとかいろいろと有るみたいよ」


 佐竹の言葉を受け、オレもそちらに目を向ける。

 おおっ、プリンに洋菓子の詰め合わせか。

 夏蜜柑の丸漬けなんて物まで有る。

 どれどれ。「夏みかんの皮まで、蜜に漬け込んだ萩のお土産です。大正5年創業以来、伝統の製法を守り続け、熟練の職人が全て手作業で5日間かけて製造。夏みかんの皮の風味とほろ苦さをそのままに、上品な甘さに仕上げています」か。

 う~ん、美味そうだ。自分用にひとつふたつ買っていこう。 


「お? 見蘭牛なんて物も有る。

 って、()っけ~。解っちゃいたけどオレには無理だ」


 へえ~、そんな物も有ったのか。

 でも、河合のやつじゃないけどオレも無理だな。

 こんなの買うやつってのは余程の金持ちに違いない。

 ……でも気になる。買うか…?


 とりあえずいくつかの配る用の土産物を見繕う。

 まあ、配るといっても、実際は送付なのだけど。

 結局先程の見蘭牛だが、買ってしまった。

 といっても贈り先は聖さんと織部さん、序でに小森さんと晴海さん、藍川さんにも。

 聖さんと織部さんにはいろいろと世話になっているし、藍川さんも兄貴が世話になっている。小森さんと晴海さんはこの度の新人アイドル達のマネージャーとしてやはり苦労をしてもらっているし。特に小森さんは相手があのWISHだしなあ……。

 後の人達は普通に菓子の類で十分だろう。但し格差があることは秘密だ。千鶴さんとか、弥生さんとかはゴネそうだから。


「ちっ…、お大尽さまが…。見せつけてくれやがって」


 河合が妬みを向けてくるけど、オレだって好きでこんな散財をしているわけじゃない。

 これ、個人の自腹だぞ。オレ、まだ未成年の学生なのに。

 そんなオレの抗議だけど、情無用で否定された。


「その割には自分用にもいろいろと買っているみたいじゃない。同情の余地なんて無いわよ」


 なぜ解った?

 見ればツッコミんできた朝日奈だけでなく向日(ひゆうが)達までもが首を縦に振っている。

 そんな素振りなんて全くしたつもりは無いってのに…。


「ベ、別にいいだろ。オレの場合、自分で稼いだ金であって親とかの脛を齧ってるわけじゃないんだから誰に迷惑を掛けてるわけじゃなし問題無いはずだ。

 こういうのは、基本的に各家に対する経済的事情とかへの配慮によるものなんだろうからな。

 幸いこれは半ば仕事みたいなもんだし、それを兼ねてってことなら十分例外として言い訳は立つはずだろ。それくらいの役得が無けりゃ、こんなのやってられないっての」


 なぜ他人にばかりいい目をみせなければならない。

 それならせっかくなんだから、オレも一緒でもいいじゃないか。


「全く、お前というやつは。

 建前を通そうってんなら、せめてそういう本音くらい隠そうとしろよ。

 こっちは周囲から贔屓だなんだなんて声が出ないか、内心冷々してるってのに」


 オレの本音の言葉に、付き添いの教師はただ呆れ、そして苦笑を漏らす。

 多分こっそりと渡しておいたリトルキッスの直筆サイン入りグッズが利いているのだろうな。彼の娘はリトルの熱烈なファンだって言っていたし。彼が親馬鹿っていういうか、娘馬鹿で良かった。



「ねえ、純くん、このお茶碗お揃いで買わない?」


 背後から声が掛かった。

 うげぇ、香織ちゃんか。

 今回はクラスが別だからってことで、あえて声を掛けてなかったのに…。


「…って、美咲ちゃんかよ。驚かすなよ。

 でも、なんでそんなこと思ったんだ? そういう台詞を口にするからてっきり香織ちゃんかと思った」


 香織ちゃんなら、夫婦茶碗とかそんなことを言ってきそうだけど、なぜ美咲ちゃん?

 まさか美咲ちゃん……。


「ええっ⁈ 違うよっ、誤解だよっ。

 これは私のじゃなくって純ちゃんのだよっ。

 夫婦茶碗なんだから、ふたつとも純くんが買わないと」


 なんだ誤解か。やはり美咲ちゃんは美咲ちゃんだ。

 しかしこの子も振れないな。言うことはちょっとズレたりするけど、その根本たる意思に振れは無い。

 でも、こういうお節介なのはいただけない。オレにはそんな気なんてまるで無いってのに。


 視線をずらせば佐竹が苦笑いしている。

 まさか見てるだけのつもりなのか?

 助けてくれる気は無いのかよ?

 他人事みたいに日和(ひよ)りやがって。お前だって二代目早乙女純だろうが。


 おっ? オレの視線に気付いたか……と思ったら視線を逸らしやがった。

 くそっ、やっぱりオレに丸投げかよっ。

 仕方がない、オレでなんとか対応するか。


「あのなあ…、前々からずっと言ってるけど、オレ達にはお互いにその気は無いんだよ。だからあいつにしてもそんな意味深な物を贈ってこられても困るだけだって。

 まあ、お互いがその気になることがあれば、その時はそれなりに考えるから美咲ちゃんが余計な気を回すことはないっての」


 これで納得してくれればいいんだけど。

 でも、今までが今までだしなあ。

 まあ、今が乗り切れればとりあえず良しか。


 …と思っていたら、意外な掩護射撃が。


「ねえ、気持ちは解るけどあまりとやかくと他人が口出しするのもどうかと思うわよ。

 仮にあなたの言うように早乙女純にその気があったとしての話だけど、あなたの余計なお節介でその関係が拗れでもしたら、それこそ三人の関係がギクシャクしたものになるんじゃないかしら。

 あなただって男鹿くんの気性は知ってるでしょ」


 なんだよ。その気があるんなら素直に援護してくれよ。

 そんな佐竹の援護はオレに対する毒を含むものだった。

 くそ、最後の一言が余計だっての。恐らくはオレへの八つ当たりだな。


「う~ん。そう言われると、確かにそうかも。

 ふたりとも素直じゃないところがあるし……」


 なあっ⁈ 美咲ちゃんまでっ!


 ……うん、解ってたよ。美咲ちゃんがそういうキャラだってことは。

 でも、それでもやっぱりショックだ。


「まあ、日頃の行ないを鑑みれば当然の報いね」


 そして由希の止めの言葉に一同が賛同するのだった。

 …って、オレの信用っていったい…。

 こいつら、全員後で覚えてろよ…。

 

※この作中にある情報や蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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