修学旅行 高校編 -福岡県-
今回福岡県ということで、太宰府天満宮、菅原道真公をネタにしてしまいました。
今頃になって罰当たりだったと少し後悔しています。
作中でも言っているのですが、祟りとか無ければ良いのですが……。
ごめんなさい、道真公。どうかお許しください。
9月末、我が校では修学旅行が行われる。
二年生の行事なので、今年はオレ達が対象だ。
行き先は福岡県、山口県、広島県で三泊四日の予定。
西日本の修学旅行の定番の一つなのだが、順番は広島県からではなく逆コース。
そんなわけで9時発の便で羽田から飛び立ち福岡へ。
到着はおよそ11時。
クラスごとに列を組み飛行場からバス乗り場へ。
周囲からの視線が凄い。
まあ、当然といえば当然か。うちのクラスには美咲ちゃんに天堂がいるのだから。一応、早乙女純の佐竹もいるのだけれど、解らないよう姿を変えているためそっちに注目がいくことはない。
美咲ちゃんと天堂がファンサービスとばかりに手を振って応じる……なんてことはなく、ごく普通の一般人のように素通りする。
これはデビュー当時からのリトルキッスの流儀だ。
仕事とプライベートをはっきりと分けるという意思の表明である。
当初こそいろいろと言われたけれど、今ではすっかりと定着しているため、熱い視線は浴びれども、それでなにかが起きるとかいうことはない……はず。
さすがに地元じゃないだけに断言できはしないけど、リトルキッスのファンはそういうところがしっかりとしているのに定評があるしきっと大丈夫なはずだ。
反して香織ちゃんの方は、手を振ってファンに応えている。
できれば自粛してほしいところだけど、こればかりは仕事の一環でもあるので、部外者が口出しするわけにはいかないだろう。
ただ、あくまでもこれは学校行事。そこのところを弁えて、支障のない程度に抑えておいてほしいところだ。
まあ、その辺の匙加減についてはオレなんかより熟知しているとは思うけど。
アイドルいえばもうひとり、そういえば鳥羽もいるんだった。
鳥羽の方は果たしてどうなっているのだろう。
ここからじゃ様子は窺えないので心配だ。
交際相手の小鳥遊と馬鹿なことやってなけりゃいいけど。
▼
バスに乗り移動する。
今回のバスガイドさんもなかなかのやり手だ。
地元の歴史や文化についていろいろと解り易く説明をしくれる。
福岡といえば西の玄関口として古来より栄えていたこととか、それ故に元寇の際には戦の最前線として矢面に立つことになったこととか。
大陸相手の交渉といえばまず間違い無く博多だったというわけだ。
それが変わったのは世界が大航海時代に入ってから。キリスト教の船が九州各地に現れたことによりその状況が変わったのだ。
それにより……。
「そういうのはガイドさんに任せとけばいいから、アンタが出しゃばらなくていいの」
く…、修学旅行だというから、せっかく予習してきたのに…。
▼
着いたのは太宰府天満宮。
学問の神さまとして有名な菅原道真公を祀る全国の天満宮の総本宮だ。
境内には天然記念物のヒロハチシャやクスの木、梅、花菖蒲があり、四季折々の風情が楽しめるとのことだけど、学生達にとっては、特に受験を控えた者達にとっては合格祈願が第一で、とてもではないけどそんなところに気の回る余裕の有る者は少ないだろう。
もちろん誰もがそんな風とは限らず、ただ神頼みすればその御利益で受験に受かった気になる馬鹿な受験生もいることだろう。ただ、そんなやつはやはり風情とかその手のことには興味は無いだろうから、それらを楽しめるのはそんなこととは無縁なただの観光客ってことになる。
これって果たして好いことなのか、それとも悪いことなのか、その判断は微妙に思える。
「そんなことどうでもいいだろ。
神社だの寺だのいったところで御利益が無ければ用が無い。ましてや俺達の学校はエスカレーター式で進学ができるんだから、受験なんて関係無いしどうでもいいし。
これが縁結びの神様とかだったならまた話は変わってくるんだけど、学問の神様じゃなぁ…」
……河合のやつ、なんて罰当たりなことを…。
「お前、なんて罰当たりなことを。
道真公がなんでこうして祀られてるのか知らないのか?
この人はな、政争に敗れた後、この地に左遷されて、失意のうちに亡くなったんだ。
ただ、その際の怨みは凄まじく、彼を陥れた人物達にその呪いが次々と襲い掛かり、大勢の者が亡くなってるんだ。
特に清涼殿落雷事件は有名で、藤原清貫ら7人が落雷で死亡している程だ。
この神社ってのは、彼を神に祀り上げることで、その祟りを鎮めようってことで建立されているんだよ。
そんな祟りの激しい神様に、こんな言葉を吐くなんて……。
おお、桑原、桑原」
因みにこの桑原ってのは、彼の邸のあった京の桑原の地には落雷が無いという謂れによるものだ。
「それはアンタも一緒でしょうがっ!
選りにも選って、大宰府で道真公をネタにするなんて、なにを馬鹿なこと考えてるのよっ! 不謹慎にも程があるでしょっ!」
由希の雷が落ちた。
桑原の呪文も由希の雷には無力だったらしい。
おのれ、河合め。余計な巻き添えを食らってしまったじゃないか。
ごめんなさい道真公。決して悪気が有ったわけじゃ無いんです。
そんなわけだから、どうか祟らないでください。お願いします。
※作中にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




