こんな予定調和はイヤだ
香織ちゃんが激怒した。
まあ、この子の気性だ、それも仕方のないことだろう。
直接というわけではないがその原因はオレにある。
「そんなことないわ。悪いのはあの子達なんだもの。
ああ、思い出すだに腹立たしい。
あの子達、よくも、よくも純くんの顔に泥を塗るような真似を……。絶対に許さないんだからっ!」
ああ、まただ。
オレを宥めてたかと思えば、再び怒りを露にしている。
「まあ、あれじゃ仕方ないわよね。
せっかくのデビュー曲の披露だってのに、それがあんなお粗末じゃ。
ねえ男鹿くん、あの子達、もう少しなんとかならなかったの?」
と、斑目の言う通りの酷さだったのだ。
誰がって?
身の程知らずの三馬鹿娘、WISHのやつらのことだ。
生収録の音楽番組で見事に不調和具合を曝した三人組。
歌も振り付けも自己主張が激しくバランスがまるで取れていない、幼児のお遊戯レベル。そんなものがテレビで世間に流されたのだ。
当然、テレビだけで済むわけもなく、ネットでも拡散し大炎上。
各メディアにおいても同様で、稀に見る酷さと批評されている。
こうなるだろうことは解っていたとはいえ、こうまで予想通りとは。否、予想以上の酷い反響だ。香織ちゃんが激昂するのも無理はない。
「本当、よくあの場で抑えてたものよね。今にも喰って掛かるんじゃないかって心配だったんだから」
佐竹が香織ちゃんを宥める。
あの場を直に見ていたからにはそういう気にもなるのだろう。
「そうだよね。言っちゃ悪いけど、あれはちょっと酷かったし、あれじゃ純くんの面目まる潰れだもん、香織ちゃんが怒るのも当然だよ。
正直、純ちゃんと香織ちゃん、絶対にどっちかが後でなにか言い出すとばかり思ってたし」
はは、確かに。どっちもそういうキャラだからな。
まあ、早乙女純の方は佐竹に代替わりしてるから反応は違ってくるのだけれど、それを知らない者からすれば、美咲ちゃんの言うように思うだろう。
「当然よ。
って、なんであなたがそんな見てきたようなことを言うわけ?」
あ…。
そういや、あの場に居たのは早乙女純で、佐竹じゃないことになってんだよな。
佐竹のやつ、やらかしたな。
「それは良昭から聞いてるから。
ほら、良昭達もあの場に居たでしょ」
確かにうちの二組の新人ユニットの紹介ってことで、あいつらWISHだけでなく良昭達BRAINも出てたからな。巧く機転を利かせたものだ。
「え? どういうこと? 良昭っていったい誰のこと?」
ああ、香織ちゃんは知らなかったのか。
いや、香織ちゃんだけじゃないな。他の連中も同じみたいだ。
「佐竹さんの弟くんのことだよ。
BRAINは佐竹さんの弟くんとその友達のユニットなの」
「「ええ~っ⁈」」
美咲ちゃんの説明に一同の揃った声が一堂に響いた。
いや、高が教室に一堂は大袈裟な表現だったか。
「嘘っ、そんな話聞いてない」
「もうっ、それなら教えてくれてもいいじゃない」
「本当だよ、なんで教えてくれなかったの?」
斑目をメインに据えて、朝日奈、向日が続く。
先ほどの驚きの合唱といい、続く言葉の列び具合といい、実に見事に調和が取れている。
せめてあいつらもこのくらい……。
目的さえ一致すれば、決してできないことはないはずなんだけど。せっかく潜在能力はそれなりに有るってのに。
まあ、増長するだけだから本人達の前では言わないけど。
「だって私には関係の無いことでしょう。
そんな他人頼りのことで目立とうなんて恥ずかしいことできないわよ」
佐竹の返答は相変わらずの味気無いどこか皮肉に塗れたものだった。
まあでもこれはこいつのキャラだし今さらか。
これも調和ってことになるのだろうか。
▼
一週間が経った。
あれからWISHの連中といえば……。
「ちょっと、そこはもう少し抑えなさいよ。コーラスがメインより目立ってどうするのよ」
「解ってるわよ。それよりもあんたこそメインなんだから、もう滑舌をしっかりとしなさいよ。
あんたがそんなんだから私達がそれを隠すようにしてるんじゃない。文句を言うなんて筋違いだわ」
「そうよ、こっちは仕方なく我慢してるんだから。
だからちゃんとそれだけの働きをしてもらわないと割が合わないんだからね」
残念ながら仲が好いとはいえないけれど、それでもなんとか協力し合おうという姿勢がみられるようになってきた。
まだ協調というよりは同調に近い感じだけれど、それでも自主的に力を合わせたようという気になったというのは大きな進歩といえるだろう。
ただ、漸くでこれなんだよなあ…。
いや、それでも前進は前進だ。仮令この程度のレベルだとしても認めてやるべきだろう。
でも、払った代償を思うと……。
うん、やっぱりこいつらいつか泣かす。
褒めてはやるけど、それでも泣かす。
叱るべきところは叱る、褒めるところは褒める。両方が有るなら両方をやる。それはそれ、これはこれというやつだ。
特にこいつらにはそれが必要とよく解った。
こいつらの教育には身を以て体験させることが必要なのだ。
ただ、それでオレもダメージを受けるのはなあ…。
うん、やはり泣かす。
女の子だけどそれでも泣かす。
オレはそういう男なのだ。
多分これが予定調和。
そういうことにしておこう。
そうでないと辛過ぎる。
はあ……。なんか憂鬱になってきた。




