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純、憂鬱を引き摺る

「はあ……」


 オレは溜め息を吐いた。


「ちょっと、いい加減にしなさいよ。見ている方まで暗くなってくるじゃない。

 そりゃ、気持ちは解らないでもないけどさ」


 由希がオレを責めてくる。ただ、いつもの威勢の良さは無い。本人も無理を言ってるという自覚があるからだろう。


「だったら止めなさいよ。気が滅入っている人間に対する態度じゃないでしょ」


「ごめん」


 そのせいか珍しく他人に咎められている。

 そして素直に謝るなんて光景が。


「でも、マスコミにも困ったものよね。未成年に対する配慮もしないなんて、いったいどういうつもりなのよ」


 由希を咎めた香織ちゃんはというと、その憤りを隠すこともなくマスコミへの非難を口にしている。


「別にそれは……確かに鬱陶しいけれど、一応は受け入れたわけだし、それに珍しがって騒ぐのも今の間だけだろうから、そこまで気にしてはいないし心配してくれなくても大丈夫だ」


 さすがにこれ以上周囲に心配を掛けるわけにはいかないので心配無用だと伝える。


「ごめんね、純くん、私達のために」


 美咲ちゃんが謝ってくるけど今さらだ。


「前にも言っただろう。これは覚悟の上だったんだし、それにオレの責任というか義務なんだ。だから謝ることなんてないんだよ」


 それに美咲ちゃん達のためならば、こんなことなんてことはないってんだ。


          ▼


 香織ちゃん達の心配してくれたマスコミの問題、つまりプロデューサーJUNに纏わる問題なのだが、リトルキッスの写真集の発売に伴い、やはり拡がりをみせていた。


「調べてみた結果だが、どうやら講文社から漏れていたらしい。そしてうちでも、上の方が一枚噛んでいるみたいだ」


 織部さんの言うには、いわゆる写真集発売の際の話題作りの一環ということらしい。

 いずれはバレる正体なんだから、相応しい時を選んでということなんだとか。


 契約違反と抗議してやりたいところだけれど、元々はオレが自分から明かした正体なんだから今さらだし、この度の一件における損失補填的な処置だと言われれば当にその通り。そういうオレの弱みに突け込まれているからそれは無意味どころか、却って恥を掻くことになる。


 ……残念ながら、これはオレ自身の意見じゃなく、織部さんに諭された内容だ。

 結局オレは煮え湯を呑む思いでこの妥協を受け入れた。


          ▼


 一週間が経った。

 世間の騒ぎようはより大きくなったかのようで、事務所にはいろいろな反響が寄せられた。

 多くはオレに対する評価と期待。

 つまり話題の若き有望株と繋がりを持とうというわけだ。いや、自分でいうのもなんだけど。

 ともかくそんなわけで、オレへの仕事の依頼が次々と寄せられてきている。

 基本リトルキッス専属で、その他についてはこちらの都合と希望に合わせてという契約形態にしておいてつくづく良かったと思う。

 いや、それでも去年からはフェアリーテイルの面倒を見ることになったし、今年は新たに二組のユニットを追加。まあ、後者は自分でやったことだけに文句は言えないのだけれど。

 そんなわけで、依頼の多くは事務所を通して断わっているわけだ。


 こんな反響の中で事務所がそれを認めたのは、当然ながら新ユニットのことがあってからだ。これらを抱えている状況でさらに仕事なんて言い出さないくらいには事務所側も良心的。

 もしかすると、香織ちゃんのことがあるからかも知れない。つまり下手をすると、リトルキッスとの契約を打ち切り、香織ちゃんの所属するライバル事務所へ移籍するんじゃないかと怯えているという可能性だ。

 日頃はデメリットに感じる香織ちゃんとの交友だけれど、こういうことで役立つとは。世の中何が幸いするか解らないものだ。


 で、今挙げた二組の新ユニット、BRAINとWISH。

 BRAINの方はこの度のクイズ王大会の放送に伴い本格的に活動を開始した。

 とはいっても、いきなりそんなに仕事なんて入ってくるわけもなく、現在クイズバラエティー番組の準レギュラーに使ってもらえないか打診中だ。

 後は曲を使ってくれたゲームの発売に合わせたCDの発売。

 とりあえずこいつらの活動予定はこんなところだ。

 なんてったって現役高校生なんだから学業こそが優先だ。

 と、こんな風に仕事量を調整していることもあり、こいつらの活動は順調だ。


 WISHの方は……。

 ヤバい、考えたら頭が痛くなってきた。

 こいつらは依然として以前述べたまま。相変わらずの問題児振りだ。

 一応、歌や振り付けといったものはしっかりと身に付けていっているみたいだけど、残念ながらそれはあくまで個人のもの限定みたいで、やはり協調性に問題を残したままなのだ。

 ユニットじゃなく、個人でのデビューを考えたくなる程にそれは酷い。

 もし当人達にそう言おうものならば一も二もなく飛び付くだろうこと間違い無い。そこまで仲間内でのライバル意識が強いのだ。

 だが、彼女達にその実力は無い。三人揃って(ようや)く一人前に手が届くかどうかというその程度だ。

 なのでデビュー曲こそ用意したけれど、その後の目途が立たないのだ。


 もう、いっそのことこのままデビューさせてしまおうか。個人レベルなら一応それなりにはなってるし、多少の誤魔化しは利くだろう。

 ただ、売れるかどうかはまた別だ。恐らくは売れることは無いだろう。

 できればやりたくはないのだけれど、こいつらには失敗が必要なのかも知れない。一度痛い目に遭わなければきっと理解できないタイプなのだろう。

 ただ、その手のタイプってのは一度性根が入ったならば、その後間違うことは少ない。


 ……仕方がない。それでいくことにしようか。


 ああ、憂鬱だ。

 なにが悲しくて自分から進んでこんな失敗をしなくてはならないのか。


 こいつら、後で絶対に泣かせてやる。

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