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Problem Children

 夏休みも半ばを過ぎ、気付けば9月間近。

 新たなるアイドルプロジェクトは……微妙な進捗状況だった。

 良昭達BRAINの方はまだしも、女性ユニットWISHの方は相も変わらず。上昇志向が強いため、それなりのことは一応できるようにはなってきているのだが、その強過ぎる上昇志向が却って徒となり、協調性を失わせる結果となっているのだ。


「ちょっと、そこは私のパートでしょっ。もう少しバランスを考えなさいよ。それじゃ私が目立たないじゃない」

「そう言うこそ淳美こそメインパート無視でバランスなんて考えてないじゃない。よくそんなこと言えるわね」

「そうよっ、メインパートだからっていい気になり過ぎよ」


 あ~あ、またやってるし。


「あなた達ねえ、本当にちゃんとやる気あるの?

 せっかく純くん直々のスカウトを受けてのデビューだってのに。

 世の中にこんな幸運な子ってあなた達くらいなのよ」


 小森さんが溜め息と伴に注意を促す。

 そりゃ小森さんも呆れるはずだ。

 でも、恥ずかしいのでやめてほしい……ってわけにはいかないか。

 客観的な視点で見れば、プロデューサー直々のスカウトを受けておいてこんなことやっているなんて、馬鹿以外の何者でもないだろうからな。

 ……って、自分で言うのも複雑な気分だ。


「お前らな、毛利元就の『三矢(みつや)(おしえ) (※1)を知らないのかよ?

 そんなことやってるようじゃデビューなんて永遠に無理だぞ。

 だいたいお前らなんて三人揃って(ようや)く半人前なんだから、少しは身の程を知れってんだ」


 オレからも言って聞かせるべきだろう。どれだけ効果があるかは疑問だけど。


「ええ~、そんなことないでしょ。

 だって私達って、純さんが直にスカウトしたんだよ。だったら私達もトップアイドルになれるに決まっているじゃな~い」


 珠恵がいつものように愛嬌良く振る舞ってくる。


「そうよねえ。もう、純さんったら謙遜が過ぎるんだから」


 そしてかなえもオレに媚びるかのように(へつら)う。


「そうそう、純さんが付いているんだもん、そんなこと心配いらないでしょ」


 当然、望も同様にオレへの信頼依存のアピールだ。


 こいつら……、オレの言い聞かせをあえて無視かよ。


「お前らなあ…。オレのことを過信し過ぎだっての。

 言っとくけど、オレには売り物にならないものまで売るような真似はまず無理だからな。

 ましてや今のお前らみたいに熟れる前から腐ってるようなやつらなんて特にそう。

 まあ、それはオレに限らず、他の誰であっても無理だろうけどな」


 腐るといってもネガティブ志向になるという意味とは当然違う。こいつらの場合はむしろ逆。純な心が失われダメになる、性根が堕落しているという意味だ。

 レナ達の時もそうだったけれど、こいつらもスカウトされた時点でトップアイドルになったくらいに思っているようだ。ってか、珠恵がそう言っていたか。


「ともかく今のお前ら何者でもない。そんなやつらがアイドルとしての成功を語るなんて烏滸がましいにも程がある。勘違いしないことだ」


「努力ならしてます」


 反論かよ。

 かなえのやつ、この中じゃ少しは理性的な方だと思ってたけど、成功に目が眩んでいるせいだろう、己の自信を疑いもしない。


「確かにな。努力してるのは認める。技量の方はそれなりに上がってきているみたいだからな」


「それならっ…」


 オレの言葉を遮るようにさらに口を挿んでくる。

 だが、オレはそれを気にせず話を続けていく。

 否、諭そうってんだから気にせずってのは違うのか?

 ああ、違うな。こいつらには一度キツくいい聞かせる必要があるからな。


「残念ながらその努力ってのが偏っているんだよ。

 ユニットを組む以上チームワークってのが必要なのに、お前らときたら個人個人、自分のことしか眼中にないだろ。

 本来ならば相乗効果で互いに魅力を高め合うべきところを、お前らの場合は逆に潰し合ってんだから、どんなに努力をしようともそれじゃ全くの台無しだ。

 そんなやつらに誰が魅力を感じるものかってんだ。

 抑々(そもそも)アイドルってのは本来『理想像』って意味の言葉なんだよ。

 少なくとも国民的理想像ってのは、今のお前らみたいに仲間内で不協和音を奏でるやつらじゃないことは確かだ。見てても痛々しいだけで、不愉快にさえなってくるからな。

 自分だけが満足するのならともかく、誰もが憧れる本物のアイドルになりたいってのなら、なにが大切かよく考えないとな」


 これだけ言ってはみたけれど、果たして反応はどうだろうか。


「相変わらず言うことが辛辣ね。

 でも、言ってることは間違いじゃないし、甘い考えのこの子達には、偶にはこれくらいの言葉があってもいいのかも」


 オレが聞きたかったのは小森さんの反応じゃないんだけど。


「純さんってこんな毒吐くキャラだったんだ…」

「多分、本気で怒らせたらヤバいタイプよ、この人…」

「嘘。こんな可愛い顔してるのに、信じられない」


 うんうん、この反応。

 やはり締めるところは締めないとな。

 ナメられっ放しじゃ統率は執れない。時には威厳を示し秩序ってものを理解させることも必要だ。

 要するに目上に対する礼儀ってことで、これはその教育ってことだな。


 これで今度こそ理解してくれればいいのだけど。

 女の子の相手ってのは苦手だからなぁ…。

※1 実はこの『毛利元就が臨終の際、3本の矢を3兄弟に例え、3人が結束すれば強靭になると説いた』という『三矢(みつや)(おしえ)』の逸話はどうやら眉唾物らしいです。

 元就の臨終の際には隆元は既に亡く、元春は出陣中、いたのは隆景のみだったのだとか。

 ただ、『三子教訓状』というものが存在し、それを三人の息子達に遺したというのは確かなようで、この逸話はそれを元にしたものらしいです。

[Google 参考]


※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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