始動、新たなるアイドルプロジェクト
新人のスカウトは無事成功を収めた。
半ば騙し討ちみたいな感じだったけど、変に身構えられるよりもマシ。その人間の本来の姿を知りたかったのだから仕方がない。
作り上げそれを演じるってのも、それはそれでありなのかも知れないけれど、それではどこかでボロが出るものだ。それなら自然体の方が楽だろう。
まあ、それでも周りのイメージにより制限を受けることも少なくはないのだけど。
先日事務所と契約を終えたばかりの新人達を改めて眺める。
オレが直にスカウトし、そして育て上げることになる連中だ。
まずは男性三人組ユニット『BRAIN』。
佐竹良昭、伊達浩司、最上健次の三人。
芸名は無く、本名での活動だ。
クイズ王大会で見つけた三人組だけに、芸名は不要、却って邪魔だ。
知性派アイドルとして売り出す予定で、来年もそのまま大会に出場してもらうつもりでいる。
このようにイメージができているだけに改めて活動方針を考える必要も無く、ある意味楽な連中だ。
デビュー曲も既にできており、パズルゲームのイメージ曲として仕様されることがほぼ決まっている。
『Cool It Down』、我ながら良い曲ができたと自負している。
続いて女性三人組『WISH』。
高部望こと望月知子、倉沢かなえこと叶淳美、高橋珠恵こと玉城真美の三人。
『W○SH*』というのが既に存在していたらしいけど、彼らは現在活動中止中、実質解散みたいな状態だというし、こっちは『*』が付いていないし、大丈夫だよな……多分…。
「どこかで聞いたような名前だな」
やはり織部さんに指摘された。
「まあ大丈夫だろう。もう二十年近く昔のことだし」
聖さんもまた気になることを言う。
ただ、聖さんの方はそこまで心配はしてない感じだ。
この手のことに疎いオレの命名だけど、聖さんが問題視していないのならばきっと大丈夫なのだろう。
今回もいつものようにその場の思い付きに任せての命名だからなあ…。
まあでもきっと大丈夫。これがダメなくらいならリトルキッスにも苦情がきてるだろうし。
それにデビュー後に知ったのだけど、リトルキッスも昔、同名のアイドルユニットが存在していたらしいから。
「あの、ちょっと気になっていたんですけど、ジュンさんって、もしかするとあの『JUN』さんのことですか?」
佐竹弟……良昭が聖さんに問い掛けた。
「あ、それそれ、それは俺も気になっていたんだ」
「言われてみればそうだけど…。嘘? マジで?」
浩司と健次も気付いたようだ。
「えっ? なに? どういうこと?」
一方WISHの三人組は全く解っていない様子。
「なんだ、聞いていなかったのか?
まあ、僕も知ったのは彼らのマネージャーを任されてからなんだけど」
そう言ったのはBRAINのマネージャーとなった晴海欽也さん。
因みにWISHの担当は小森さんだ。もちろんフェアリーテイルが復帰するまでの暫定だけど。
「おおーっ、凄ぇーっ!
マジで? マジでーっ⁈」
「はは、マジなんだ。俺達って凄い人にスカウトされてたんだ」
「姉ちゃん……」
彼の言葉にBRAINの三人は確信を持ったようで、三者三様の反応をしている。
「ちょっと、どういうことよっ。私達だけ除け者にして納得してないで教えなさいよっ!」
痺れを切らせた望月が良昭達に喰って掛かった。
「まさか『JUN』の名前を知らないってのかよ。
あのリトルキッスやフェアリーテイルを手掛けた名プロデューサーだぞ。
ジュンさんはその『JUN』だったんだよっ」
「「えっ? ええ~っ⁈」」
呆れる浩司の説明に三人が驚きの声を上げた。
う~ん、見事に綺麗に揃ってる。
「そ、それって、私達もリトルキッスみたいな国民的アイドルになれるってこと?」
「御堂くんとか、他のアイドルとも仲良くなれたりもできるのよね」
「あんた、ジュンさん狙いじゃなかったの?
だったら、私がもらってもいいのよね」
そして妄想を垂れ流す。
全く、呆れた連中だ……ってちょっと待て、なんか変な台詞が混ざってなかったか?
まあともかく、こうして新たなるアイドルプロジェクトが始動したのだった。




