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純と三人の女の子、そして三人のアルバイト達

 アルバイト2日目。

 この日もまた、やることが初日と変わらない。

 ファミレスの窓越しに通りを行く女の子達についてあれやこれやと話すだけ。




 3日目。

 やはりやることは同じ。

 ただ通りを見て、そして女の子について語るだけ。


「よし、じゃあお前ら、あの子達に声を掛けて連れて来てくれ。とりあえずは一緒にお茶しようって感じで構わないから」


 そろそろ良いだろうか。

 そう思ったオレは佐竹弟達を促した。

 本当は昨日のつもりだったけど、昨日はオレも佐竹弟達もこれって思うような女の子がいなかったからなあ…。



 佐竹弟達が帰って来た。

 女の子三人を連れて。

 タイプは違うけどどの子も明るくそれなりに可愛らしい。オレの好みとはちょっと違うけど一般受けはしそうな感じだ。


「この子がさっき言ってた子ね」

「わあ、可愛い。見た感じ中学生だよね?」


 思った通りの反応だ。いきなりオレの品定めかよ。

 しかも可愛いって……、男にこの台詞は無いだろう。

 なんで女の子って男にもこんな言葉を掛けるのか、これって結構へこむのに…。


「え? でも、この子達さん付けで呼んでなかった?」


 それでも注意深い子もいるようで、ふたりにストップを掛けている。


「悪かったな。でも一応この中じゃ最年長なんだぞ」


 オレも中学生扱いは御免なので誤解を解いておく。


「ええ~っ⁈ 嘘ぉ~? この子私達よりも歳上っ?

 見えな~い」


 女の子達のひとりが驚きの言葉を発する。

 どうやら彼女達はみんなオレよりも歳下なようだ。

 これなら可愛いなんて言われることももうないだろう。まさか歳上にまでそんなことは言わないだろうし。


「やっぱり。もしかしてって思ってたんだよね」


 この台詞は先程のふたりを制してた子だ。この中じゃブレーキ役って立ち位置なのだろう。


「そうだったんだ。ごめんなさい。

 でも、悪気があったわけじゃないんだからそんなに拗ねないでよ」


 オレが歳上と解ったせいか、可愛いなんて言ってくれた子が謝ってきた。

 解ればいい。オレも子どもってわけじゃなし、いつまでも根に持つような……って、拗ねないでよ?

 ちょっと待て。それってどういう意味だ。


「でも、拗ねたところも凄くかわい~い。

 ねえ、抱きしめてもい~い?」


 なあっ⁈

 な、なんだそれは⁈

 反省したんじゃなかったのか?

 この子いったいなにを考えてるんだ?


「ちょっと、それは勘弁してくれよ。

 そういうのは香織ちゃんだけで間に合ってるから」


 断わってはみたが無駄だった。

 彼女は遠慮なくオレを抱き着いてきて、オレはその胸に頭部を(うず)めることに。

 オレは仔猫か何かかよ。

 やはりこの手の女の子は苦手だ。


 自己紹介を言い出すことで(ようや)く解放された。

 やはり理由付けは大事だ。これがなければまだ(しばら)くは、否、下手すればずっとあのままだったかも知れない。事実彼女は未練がましそうな表情をしているし、それを隠す様子もまるでない。


          ▼


 それぞれの自己紹介を終え、軽く話をしたところでファミレスを出て、カラオケへと繰り出した。

 これまでのオレ達の行動を傍から見れば間違いなくナンパだ。

 それだけに佐竹弟は不審そうにしている。

 確かにこれを仕事と言われれば疑問に思うだろうし困惑もするだろう。

 ただ、そのことについて訊ねてこないのは、多分オレの行動になんだかの深意があると真意を測っているためだろう。

 こういうところはさすがに佐竹の弟だな。


「ほら、なにぼーっとしてんだよ。良昭の番だぞ」


 ただ、姉の方にはこんな抜けたところは無いのだけど。


「あれ? もしかして私に見惚れてた?」


 友人に指摘されただけでなく女の子からも揶揄されて……って、おい、またかよ?

 他人のことを考えてたせいでその隙を突かれ、彼女に腕を取られてしまった。せっかく歌うからってことで解放されていたというのに。


「はは、それよりも俺の番だよな」


 それに対し佐竹弟は、これ幸いと誤魔化すようにマイクを手に取り逃げていく。

 くそっ、要らないところで目先が利く。


 そんな佐竹弟の歌はまずまずのレベルのものだった。

 この中じゃ一番の低レベルだけどそれでも巧い部類に入る。

 つまり他の五人もそれなりにレベルなわけで…。


 まあ、あくまでも素人レベルだけどな。

 目的のためには少しその鼻を折っておくのも良いだろう。


 オレの番が回ってきた。

 少しだけ本気で歌ってみるか。


 曲は○イケル・○ャクソンの○リー・○ーン。

 ハイオクターブを駆使して歌う。


 ……ちょっとやり過ぎたか。少し早乙女純が入ってしまった。

 まあ、気付かれた様子はないし恐らく大丈夫だろう。

 それよりもそろそろ頃合いか。

 歌い終わったオレは本題を繰り出すことにした。


「なあ、お前ら、アイドルとかの芸能人ってやつらのことどう思う?」


 最初に食い付いてきたのは、佐竹弟の友人の浩司だった。


「ええっ⁈ もしかして、リトキスとかに会わせてくれるの⁈」


 なんとも欲望に素直な反応で期待感を隠す様子は欠片も無い。

 まあ、こいつらはオレが星プロ関係者だと知っているわけだし、この反応も不思議はないか。


「ええっ⁈ どういうこと⁈ ジュンさんってリトキスと知り合いなの⁈」


 一方、事情を知らない女の子達は当然ながら困惑中だ。


「それって本当⁈ もしかして御堂(れい)とも会えたりする⁈」


 いや、浩司同様に期待してる?


 今の台詞はオレに(まと)わり着いている女の子のものだった。というか今もオレの左腕にべたりと(すが)り着いている。

 この状態で御堂玲の名を口にするとはなんとも太々(ふてぶて)しい。相手は女の子だけど、ここはあえて漢字表記。せめてもの当て付けだ。

 特に身体が太っているわけじゃないけど、その頭の中は間違いなく図太い。


 まあ、単に御堂(れい)は別格ってことなんだろうけど、彼女に対してこれって感情があるわけじゃないけど、それでもやはり面白くない。


「ちょっと、ふたりとも落ち着きなさいよ。ジュンさんは芸能人についてどう思うか訊いただけでしょ。

 でも、ジュンさん、今のっていったいどういう意味なんですか?」


 少し大人しめな子がふたり宥めを諭す。

 そして大人の言葉の真意を(ただ)してくる。


「それについては後で、まずはオレの質問に答えてからだ。だいたいのイメージでいいから訊かせてくれ」


 だが、今はまだその段階でない。訊くべきことが残っている。


「そりゃ、やっぱり華やかなスーパースターだろ。男女を問わず惹き付ける、誰もが憧れるカリスマ的存在だな」


 答えたのは浩司だった。

 その内容はテンプレ的なもの。誰もが抱く理想のイメージだ。


「確かにそんなイメージだけど、でもその陰じゃきっと苦労してるんでしょうね」


 誰もが肯いている中で、こんな答えもあった。

 注意深い感じのあの女の子だ。


「だろうね。実力主義の世界だって聞くし、才能の無い者にはまず無理だよな」


 佐竹弟の友人の健次だったか、彼が彼女の意見を肯定する。

 そしてやはり他のやつらも皆賛同と肯いている。


「ふ~ん。

 憧憬だけでなくその苦労についても少しは理解できるわけか。

 なら、とりあえずは合格かな」


 ならばそろそろ良いだろう。

 オレは本来の目的、本題に入ることにした。


「お前ら、芸能界に興味ない?

 もしその気があるんなら、事務所に紹介してみようかと思ってるんだけど」


 「「…………」」


 場の全員が沈黙した。


「え⁈ ちょっと、それってどういうこと?

 もしかして親とかなにかに、そういうコネとかがあるわけ?」

「まさか。いくらなんでもそんなこと…。

 でも、浩司くんはそれっぽいこと言ってたし…」

「もしそれが本当なら、いろんな芸能人の人に会えるってことだよね」


 女の子達は皆混乱中。次々と疑問を噴き出す。

 佐竹弟達男連中も困惑しているみたいだけど、こちらはあくまでも他人事。

 だけどオレにはそれで済ませる気はない。


「あ、佐竹弟、お前らもだぞ」


 なにを言われたか理解できずに、揃ってぽかーんと間抜け面を曝す佐竹弟達。

 直後、彼らが女の子達と同じような反応を示したのは言うまでもないことだろう。

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