佐竹弟と怪しいバイト -まさかの目的-
ジュンさんが変なことを言い出した。
「なあ、お前ら、アイドルとかの芸能人ってやつらのことどう思う?」
女の子達にはまだ言ってないけど、ジュンさんは星プロの関係者だ。
姉ちゃんによると彼の言動にはなんらかの意味があるって話だけど、まさか…。
否、ないな。思わせ振りに思うのは変な期待があるからだろう。
でもこの人、リトルキッスや御堂玲とは中学以来の親しい付き合いだって言うし、もしかして彼女達と会えたりするのだろうか?
いや、仮にそうだとしても、その目的は?
態々俺達を雇ってまで彼女達に会わせる?
やはりわけが解らない。
いや、可能性としてはさっき頭を過ったあれだけど、そんな都合のいい話なわけがない。彼女達の付き人だなんて…。
「ええっ⁈ もしかして、リトキスとかに会わせてくれるの⁈」
俺と同じことを思ったのだろう、浩司がジュンさんに訊ねた。
素直なやつだ。
「ええっ⁈ どういうこと⁈ ジュンさんってリトキスと知り合いなの⁈」
「それって本当⁈ もしかして御堂玲とも会えたりする⁈」
事情を知らない女の子達は当然ながら困惑中だ。
いや、浩司同様に期待してる?
因みに今のふたり目の台詞はジュンさんにべったりの子だ。
これだけジュンさんに纏わり 着いておいてこの台詞って…。
芸能人はやはり別格ってことなんだろうけど、だからってこの状態でそれを言う?
「ちょっと、ふたりとも落ち着きなさいよ。ジュンさんは芸能人についてどう思うか訊いただけでしょ。
でも、ジュンさん、今のっていったいどういう意味なんですか?」
三人目の見た目だけはおとなしげな子が先のふたりを宥め諭す。
そして代わりに今のジュンさんの言葉の真意を問い質した。
俺も疑問に思っていたのでちょうどいい。
「それについては後で、まずはオレの質問に答えてからだ。だいたいのイメージでいいから訊かせてくれ」
残念ながら答えは一時据え置き。
でも、それはつまりなんらかの意図があるっていうことなわけだ。
「そりゃ、やっぱり華やかなスーパースターだろ。男女を問わず惹き付ける、誰もが憧れるカリスマ的存在だな」
答えたのは浩司だった。
内容は誰もが抱くテンプレなイメージ。
そのせいだろう、健次も女の子達も肯いている。
「確かにそんなイメージだけど、でもその陰じゃきっと苦労してるんでしょうね」
ただ、こんな意見もあった。
見た目だけはおとなしいあの子だ。
歌っている時のあの自己主張の強さを思うと嘘みたいだけど、こっちの方が本来の性格なのかも知れない。
「だろうね。実力主義の世界だって聞くし、才能の無い者にはまず無理だよな」
健次が彼女に同意する。
それは健次だけでなく他の者達も同意見なのはやはりさっきと同じだ。もちろんそれには俺も含まれる。
「ふ~ん。
憧憬だけでなくその苦労についても少しは理解できるわけか。
なら、とりあえずは合格かな」
ジュンさんがまた変なことを言い出した。
合格ってなんだよ? いったい何を試していたってんだ?
なにかしらの考えがあるのは解ってたけど、こうも秘密にされていては、なにが言いたいのか解らない。
「お前ら、芸能界に興味ない?
もしその気があるんなら、事務所に紹介してみようかと思ってるんだけど」
…………。
はあっ⁈
なに? これってこういうことだったわけ?
つまりこのナンパ紛いの仕事ってのは、新人アイドルのスカウト?
「え⁈ ちょっと、それってどういうこと?
もしかして親とかなにかに、そういうコネとかがあるわけ?」
「まさか。いくらなんでもそんなこと…。
でも、浩司くんはそれっぽいこと言ってたし…」
「もしそれが本当なら、いろんな芸能人の人に会えるってことだよね」
女の子達も混乱中。
冷静に考えれば怪しい話と疑うところだけど、本当であってほしいという願望がそれを考えないようにさせている……否、あえて考えないようにしているってのが正しいのだろう。
半信半疑を無理やり信じ込もうと、あれこれ理由を付けてみたり、そうだった場合の想像をしたりと頭の中が忙しそうだ。
本当ならまたとない話だし逃すには惜し過ぎる機会だからこうなるのも当然か。
「あ、佐竹弟、お前らもだぞ」
へ? 俺達も?
そんなわけで俺達を含めた六人はジュンさんのスカウトを受け、この日曜日に返答をすることになったのだった。
※1 ここでは『纏わる』を『まとわる』と読ませていますが、通常は『まつわる』と読みます。但し『纏う』『纏める』とも読むので『纏わる』は当て字というわけではありません。
なお、『纏』は常用漢字ではないので普通はひらがな表記です。
[Google 参考]
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




