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佐竹弟と怪しいバイト -変な人じゃなくて理解不能-

 アルバイト2日目。

 この日もまた、やることが初日と変わらない。

 ファミレスの窓越しに通りを行く女の子達についてあれやこれやと話すだけ。




 3日目。

 やはりやることは同じ。

 ただ通りを見て、そして女の子について語るだけ。


「よし、じゃあお前ら、あの子達に声を掛けて連れて来てくれ。とりあえずは一緒にお茶しようって感じで構わないから」


 (ようや)く動きがあった。

 とはいっても、やることはただのナンパ。

 しかし、一緒にお茶をしようって、いったいいつの時代だよ。昭和かっ。



 浩司達と店を出てターゲットの女の子達を追い掛ける。

 居た。うまい具合に交差点で信号待ちだ。

 でも、なんて声を掛ければいいんだ?

 先程は時代錯誤かみたいなツッコミを心中でしたけれど、いざ自分がそういうことをするとなるとどう声を掛けてよいのか解らない。


 ……もしかしてジュンさんもこういうのが苦手?

 それで俺達を雇った?

 否、それだけのためなんて、そんな馬鹿なことはないか。


 気付けば浩司達がもう声を掛けていた。

 なんて風に声を掛けたのかは知らないけれど、女の子達の反応は悪くない。

 やっぱりこの手のことは浩司か。俺達の中で一番の女の子好きなだけはある。



 女の子達を伴いファミレスに戻って来た。

 その数は3人。

 タイプは違うけどどの子も明るく可愛らしい。


「この子がさっき言ってた子ね」

「わあ、可愛い。見た感じ中学生だよね?」

「え? でも、この子達さん付けで呼んでなかった?」


 女の子達がジュンさんについて感想を述べる。

 一応ナンパって形なんだから、評価みたいなことをするのは解るけど、でも、これってつまり値踏みされているわけだろ。肯定的っていうか好意的な反応だからそんな気にならないってだけで。

 いや、それよりも中学生って言わなかったか。

 確か姉ちゃんの話じゃ、ジュンさんって気難しくて性格が悪いってことだったけど…。


「悪かったな。でも一応この中じゃ最年長なんだぞ」


 あ、やっぱり少し勘に障ったようだ。


 対する女の子達の反応はというと…。


「ええ~っ⁈ 嘘ぉ~? この子私達よりも歳上っ?

 見えな~い」


 まずは意外という素直な反応。

 未だ信じきれないって様子。

 冗談だって言えば、やっぱりと返してくるだろう。


「やっぱり。もしかしてって思ってたんだよね」


 次に俺達の言動からなんとなく察していた子。

 三人いれば中にはこういう物事をよく見てる子ってのはいるものだ。


「そうだったんだ。ごめんなさい。

 でも、悪気があったわけじゃないんだからそんなに拗ねないでよ」


 最後は「可愛い」を連発していた子。

 勘違いを謝ってはいたけども…。


「でも、拗ねたところも凄くかわい~い。

 ねえ、抱きしめてもい~い?」


 いや、可愛いから抱きしめたいって…。

 やはり対応は変わらず。

 多分この子が一番遠慮がない。


「ちょっと、それは勘弁してくれよ。

 そういうのは香織ちゃんだけで間に合ってるから」


 あ、ジュンさんって彼女持ちだったんだ。

 そんなジュンさんだけど、結局は今の子に捕まってその胸に頭を(うず)めている。その様子はまるで仔猫 (※1)が愛でられているかのようだ。

 でも、これって彼女にバレたりしたヤバいんじゃ…。

 極秘案件だな。


 ジュンさんが解放されたのは、それぞれの自己紹介の話になってからだった。


          ▼


 簡単な自己紹介のあとはカラオケ店へと移動。

 これ、本当に仕事なんだよな。どうみても女の子をナンパして遊んでるようにしか思えないんだけど。

 でも、姉ちゃんの話だと、こんなわけの解らない行動にもなにかしらの意味があるってことみたいだし…。


「ほら、なにぼーっとしてんだよ。良昭の番だぞ」


 曲を女の子達と交互に歌っていたのだけど、いつの間にか俺の番が回ってきたようだ。


「あれ? もしかして私に見惚れてた?」


 こんなことを言ってきたのは、今歌い終わった子だった。ジュンさんに抱き着いてた子だ。てか、歌い終わった今もまたジュンさんにべったりだけど。

 そのジュンさんだけど、少し鬱陶しそうしてるように感じられるのは気のせいだろうか?

 彼女以外の女の子には興味無しってことか?

 でも、そんな風に割りきれるものだろうか? 俺にはそんな自信は無い。いや、それ以前にそんな彼女なんていないけど。


「はは、それよりも俺の番だよな」


 誤魔化し逃げるようにマイクを取る。

 そのタイミングに合わせたように、俺の選んだ曲が流れ始めた。


 曲は○ーズン·イン·ザ·サン。夏の定番といえばやはりT○BEか○ザンだろう。

 そんなわけで一応は歌い込んでいるつもりだし、人前で歌ってもそんなに恥ずかしくはないと思う。

 ただ、女の子の前でまともに歌うのは初めてだし不安だ。姉ちゃんの前でさえ鼻歌程度でしか歌ったことはないってのに。いつもカラオケは浩司達男連中とだから。


 因みに浩司は○崎豊の『I LOVE YOU』、健次はB○ØWYの『M○RIONETTO』。

 こいつら、女の子の前だからって格好付けやがって。

 ……なんて思っても、これは早い者勝ちだし、残念ながら俺のレパートリーにはそれらの曲は入ってない。これらの人気曲ってのは歌うやつが多いだけにそいつらと比較されたらと思うと、どうして選択し(づら)いのだ。特にこいつらふたりと比べられたくない。こいつら結構上手いから…。


 女の子達の方にもやはりこういう駆け引きはあるみたいだった。

 最初の子が『○リビアを聞きながら』を歌った時には自分が歌うつもりだったのになんて非難されたりしていたし。

 次の子の曲はリトルキッスの『ドキドキしようよ』。

 この春に映画公開と伴にテレビで放送された『冒険倶楽部へようこそ!』というアニメの主題歌だ。

 やはり人気アイドルの歌う人気アニメの曲は外せないってことだろうか。

 三人の中ではおとなしく (※2)慎重そうなイメージだったけど、案外そうとは限らないのかも知れない。

 で、最後の子は長谷川千鶴の『恋愛中毒』。

『あなたが欲しい』とか『あなた無しでは生きていけない』とか、相手を求め欲する台詞が多用された劣情を思わせる曲だ。いや、熱烈な慕情というべきだな、女性の歌う曲なんだし。

 ともかく、男性に対するアプローチ的には好まれそうなそんな曲。

 これ、やっぱりジュンさんを誘惑してるんじゃないだろうか。本気かどうかまでは解らないけど。


 こういう場面ではやはり性格が表れるな。

 解ったのは三人とも自己主張が強いってこと。

 まあ、女の子なんだし男性の前では良い格好をしたいってことだろう。


 あ、そう、それと、本当に最後のジュンさん。

 この人いったい何者だよ。

 彼が歌ったのは○イケル・○ャクソンの曲で、○リー・○ーン。

 あのハイオクターブの再現は、まるで女性が歌うかのようで…。

 それだけならまだしも、歌唱力の方も高く、なるほど芸能プロで働いているだけのことはある。てか、もしかしてこの人って、実は有名な実力派歌手だったとか…。

 この人、姉ちゃんのいう変な人というよりも、それを通り越して理解不能だ。


 そんな理解不能な人物は、歌い終わった後に、やはり理解不能なことを俺達六人に言い出したのだった。

※1『仔猫』とは『子どもの飼い猫』という意味。『子猫』と何が違うのか調べてみたところ、『子猫』とは『子どもの猫』という意味で、『人に飼われているか否か』という違いで使い分けするようです。

 因みに『小猫』は、ただの『小さな猫』という意味だとか。

[Google 参考]


※2 この『おとなしい』という言葉ですが、『大人しい』という一般的な表記の他に『温和(おとな)しい』とも書かれるらしいです。但しこれは当て字だとか。

 次のものは有名な小説での『おとなしい』の当て字の例です。(参照:「遊字典」角川文庫)

大人しい:夏目漱石『明暗』

温和しい:宮沢賢治『ボラーノの広場』

音無しい:横光利一『旅愁』

従順しい:樋口一葉『この子』

温柔しい:坪内逍遥『細君』

温順しい、穏順しい:島崎藤村『破戒』

沈静い:幸田露伴『五重塔』

[Google 参考]


※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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