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佐竹弟、怪しいバイトへと赴く

 姉ちゃんから紹介されたアルバイトを受けることにした俺達は、指定された待ち合わせ場所へと向かっていた。その場所はなぜか都内のとあるファミレス。普通こういうのって事務所とかって思ってたんだけど、どうやら今回の仕事は現地集合ってことらしい。


「相手ってどんな人物なんだろうな? 確かクイズ王大会の時に目に留まったって話だろう。てことはその時にその場に居たってことだよな」


 健次じゃないけど言われてみればそうだよな、でもその時にその場に居たそれらしい人物といえば……。


「あ、もしかして、あの美人のお姉さんじゃないか?

 ほら、スタッフ達が忙しそうにしている中で、ずっと俺達の方を見てた」


 そうそう、そう言えば居た。

 しかし、浩司のやつよく覚えてるよな。俺なんて言われなければ思い出せなかったってのに。


「そう言えばそんな人物が居たな。傍には中学生くらいのやつを随えて。

 あれって多分マネージャーだよな」


 健次も俺と同じとばかりに直ぐには思い出せなかったみたいなこと言ってるけど、でもその割にはよく見てたようでその時の様子まで思い出せている。


「ああ、そうだろうな。

 ってことは、俺達ってそのマネージャーの目に留まったってことか。

 なあ、もしかすると俺達、これをきっかけに本当にあのリトルキッスとお近付きになれたりするかもよ」


「それってあの女性の傍に居たやつみたいにか?

 でもあれって、ふたりのうちどちらかの弟なんじゃないの?」


「ああ、シスコンの弟が姉の尻を追い回すってやつな」


「ちょっと待てよ。なんでふたりしてそこで俺のことを見るんだよ、失礼な」


「いや、だってなあ」

「そうそう、隠さなくっても気持ちはよく解るって。

 俺だって早乙女純似の姉ちゃんなんてのがいたら、絶対にベタベタと甘えまくってるだろうからな」


「俺はそこまでのシスコンじゃねえっ!」


 ぐ、ふたり揃って…。

 特に浩司のやつ、いくらなんでもそこまでしねえって。


「でも姉弟なんだから心配するのは普通だろ。まあ、浩司の言うのはちょっと異常だけど」


 健次のフォローにほっとする。冗談で揶揄されているだけってのは解っていても、やっぱりこういうのは不安になる。せめて周りに女の兄弟がいる友人がいれば違うのかも知れないけど。こいつらはそれに該当しないからなあ…。


「ええ? でもこういうのって憧れない?

 特に血の繋がらない義理の姉に甘やかされたり、義理の妹にお兄ちゃんって甘えられたりとか」


「お前だけだよ、そんな病んだこと言うやつは」


 他のやつの姉や妹がどうかは知らないけど、うちの姉ちゃんはそんな可愛らしいもんじゃない。見た目こそあれだけど、その言葉は痛烈だ。偶に優しい言葉をかけることがあるかと思えばどこかに毒を含んだ感じだし。うちの姉ちゃんなら仮令(たとえ)それが義理でもきっと態度は変わらないと思う。


「お前は美人の姉ちゃんのいるからそういうことを言えんだよ」

「だな。こういうのは恵まれたやつには解らないよ」


 浩司だけでなく普通と思ってた健次まで。

 こういうのって一部の特殊嗜好のやつにウケるだけなんじゃないのかよ。

 なんだか世の中病んでるなぁ…。


          ▼


 指定されたファミレスへと着いた。さて約束の人物は……。

 あれ? 例のマネージャーのお姉さんはどこだ?


「お? 来たか。こっちこっち」


 え? なに? もしかして俺達を呼んでるの?


 相手は見た目中学生くらいの男子。って、まさか?


「お前ら佐竹の弟とその連れだろ?」


 マジか? いや、でもこうして俺の名前を知ってるってことは間違いないってことだろうし…。


「ええっ? もしかして? てかマジで?」


 ただ、やっぱりなあ。健次も信じられないといった様子だ。


「いや、でもこんな子どもがかあ? どう見ても中学生とかだろ?

 あ、そうだ、今は担当が席を外してるだけで、本当は……」


 それは浩司も同じで、そしてそこから導き出した推測もまた同じ。ただ、それを言葉にしようとして、それは途中で遮られた。


「悪いがここにはオレひとりで、お前達を呼んだのはこのオレだ。

 にしても口の利き方を知らないガキどもだ。こんなんでよくクイズ大会をあそこまで勝ち抜けたもんだ」


「否、嘘だろ?それ。だってお前みたいな…」


「待て、浩司。恐らく彼は俺達よりも歳上だ。姉ちゃんの知り合いって言ってたし、多分間違ってないはず」


 慌てて浩司を制止する。俺の予想が正しければ、彼は…。


「ああっ、思い出したっ! こいつってあの時、あのお姉さんと一緒に居たやつだ」


 浩司が再び口を出す。せっかく割って入ったのが台無しだ。

 でも確かに。言われてみればあの時の人物によく似ている。恐らくは同一人物で間違いだろう。健次も俺達と同意見みたいだし。

 だとするとやはり、この人物は…。


「でもなんで…。普通こういうのって大人の人の仕事だろ」


 健次が訊ねた。

 それは俺も気になっていたことだけにあえて止めはしなかった。


「ん? ああ、それか。

 それについてはちょっと事情があってな。

 それよりもまずは自己紹介だ。お前らもオレのことが気になっているみたいだしな。

 オレはジュン。そいつの姉のクラスメイトだ。

 リトルキッスのふたりとは中学の時からの付き合いで、その縁で星プロからいろいろと頼まれたりしてる。今回の仕事もその関係だ」


 やっぱりな。姉ちゃんの知り合いっていうからには、こんな見た目でも姉ちゃんと同じ歳だろうと思ってた。

 でも、あの姉ちゃんと親しいからには、この人も結構変わり者に違いない。

 いや、実際にそうか。ちょっと見ただけの俺達にこうして仕事を任せようってんだから。

 まあ、こういう業界だけにそんなことも普通にあるのかも知れないけど。



 俺達の方の自己紹介が終わったところで、いきなり彼が言い出した。


「それじゃ早速仕事に入ろうか。

 なあ、お前らあの子達どう思う?」


 は? なに? これって仕事の話じゃなかったの?


 彼はガラス窓から見える女の子三人組について問い掛けてきたのだった。

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