佐竹弟と怪しいバイト話
なんとか今日も投稿することができました。
そんな今回の話は佐竹弟、良昭の視点となります。
「はあ…、結局今年はダメだったか。まさかあんな落とし穴があるなんて思いもよらなかった…」
「あら、なにをそんなに落ち込んでるのよ、珍しい」
「なんだよ、珍しいって。俺にだって偶にはそういうことはあるって。姉ちゃんとは違うんだよ」
全く、こっちは多感な高校生なんだ、センチメンタルになることだってあるって。
因みにこうは言ったけど、姉ちゃんだってそれは同じ。ちょっと前までは早乙女純に間違えられて辟易する毎日だったから。
周囲からそんな目で見られ続けた姉ちゃんの出した答は森越学園への転入だった。そこは本物の芸能人も結構通う学校で、早乙女純のパートナーである花房咲も通っている。
いや、それって余計に間違えられて大変なことになるんじゃないかと心配したんだけれど、そんな環境なら周囲も芸能人には馴れてるだろうし、ただそっくりなだけの人間にそこまで興味を示すこともないってことで、実際に現在はその目論見通りになっているらしい。
「それでなにを落ち込んでたわけ?」
「ちょっとクイズ王大会のことで。
ってそう、そう言えば、そこであのリトルキッスに会ったんだよ。
いや、しかしびっくりしたよ。早乙女純って本当に姉ちゃんそっくりで。以前はスレンダーでボーイッシュなイメージだっただろ。それが最近いろんな意味で女らしくなってきてるから、発育のいい姉ちゃんに余計そっくりででってってって…、痛いっ、耳を引っ張るなって」
「あんたが変なこと言うからでしょ。全く、これだから男の子ってのは」
そんなことを言う姉ちゃんだけど、その反応はどこだとはいえないけど少し微妙な感じだった。
でもなんでだよ。これが唯一の識別法のはずなのに。…ってそりゃそうか、仮にも姉ちゃんだって女だもんな、こういうのは姉弟でもセクハラになるか。
「でも、リトルキッスって本当にテレビのイメージ通りなんだな。あの花房咲のあれって絶対に天然だよ。あと、それに対する早乙女純のツッコミも見てて面白かったな」
「あら、そんな場面なんてあったかしら。確かにあの子が出題役だったけど、それに対してのツッコミは司会者とかに任せていたはずで、精々それに相槌を入れてただけなのに」
え?
「ちょっと、なんで姉ちゃんがそんなこと知ってんだよ? まるでその場で見てきたみたいなこと…」
「それは、ほら、前にも言ったでしょ。あの子とはちょっと付き合いがあるって。だからそういう話も聞くことがあるのよ」
ああ、そういうことか。そういえば確かに言ってたっけ。転校初日に花房咲と同じクラスになって、そこで仲好くなったって。つまりそこからの伝ってことか。
「はあ…。そう言えばそうだったよな。
全く、なんて羨ましい。普通、芸能人の友人なんてそうそうできやしないってのに」
「まあ、確かにね。
でも、きっかけさえあれば結構仲好くなれるものよ。彼女達だって普段は私達と同じただの高校生なんだし」
ただの高校生ねえ…。マジかよ、信じられねえよ。
だってあれだぜ、アイドルってのはいわゆる理想の偶像だろ、それが普通の高校生なんてこと本当にあり得るのかよ?
「あら、信じていないのね。
だったら、そうね、いい話があるんだけど」
なんとも怪しい笑顔と伴に、姉ちゃんがやはり怪しい話を持ち掛けてきた。
「はあ⁈ 星プロ関係のアルバイト⁈
なんで姉ちゃんが……って、そういや花房咲と友達だって言ってたもんな、つまりその関係か。
でも、どんな仕事かは知らないけど、それって俺達なんかでいいわけ?」
「ええ、いいっていうよりもその人からの指名なの。
どう? 無理にとは言わないけど受けてみる?」
指名ってどういうことだよ? なんで俺が、ってか俺達が。
姉ちゃんの話によると、どうやらあのクイズ大会で俺達のことが目に留まったってことだけど……、でもそれがどう関係するってのか理由がさっぱり解らない。なんとも話が怪し過ぎる。
でも、花房咲と親しい姉ちゃんの紹介なんだよなぁ。だったら信用はできるはずだし…。
「解ったよ。せっかくの姉ちゃんの紹介だしな。
但しどうするかはあいつらの返答次第だぜ。
で、どんな仕事なわけ? せめてどんな仕事かくらい言ってくれないと、あいつらへの説明に困るんだけど」
結局姉ちゃんの紹介ってことで、受けてみるのもありかも知れないと、あいつらに相談することに決めたんだけど、だったらこれくらいは訊いておかないと。
「ごめん、そこは教えてもらってないの。
でも、相手は私のよく知ってる人間だし、信用してもいいはずよ。……多分」
なんだよそれ。姉ちゃんも内容を知らないって。そんなんでよく他人に仕事を紹介しようなんて思ったもんだ。
まあ、よく知ってる相手だっていうし、そこは一応信用しても……いいんだよな? なんか最後にぼそりと呟いたのが気になる。
それでもやはり、あの星プロに関わる仕事という誘惑は大きく、健次も浩司もあっさりと了承。特に浩司のやつは「これをきっかけに誰でもいいからアイドルの子と仲好くなって…」なんて下心丸出しという浅ましさ。
そりゃあ俺だって、あわよくばなんてこと思ってないかって言われれば全くないなんて否定はできないけど、でもあれはなあ…。
ともかくそんなわけで、俺達は姉ちゃんから紹介された仕事を受けることにしたのだった。




