せっかく褒めてもらったのに…
すみません、遅くなりました。そして今回の話もかなり短めです。事情によりしばらくは更新が難しい状態なため、次回も恐らく日にちが開くこととなり、できたとしても今回みたいなこととなると思われます。
写真選びは問題無く進んだ。こちらとしてもいくらかの妥協は覚悟していただけになんとも拍子抜けだ。否、実際のところはこの企画自体が不本意なものだっただけにそれ自体が妥協といえないこともないのだけど、それさえ除けば全て順調。まあ本来の契約内容が通っただけのことなのではあるのだけど、こう思えるのも采女のことがあったからかも知れないな。
否、思えるではなくそれは事実か、あれ以降相手側の講文社の態度はこちらに諂びるかのような低姿勢だし。
そんな状態だからだろうオレの撮影した例の写真をおまけで付けるという案もすんなりと採用となった。
でも、携帯での素人撮影の写真だけに本来に通るとは思わなかった。
「はは、そこまで気にしなくても大丈夫ですよ。あくまでもこれはおまけのプライベートな写真なんですから。なのでたとえそれが素人による携帯撮影だったとしても、付いてくるってだけでファンとしては大喜びですよ」
まあ、宮内さんがそう言うからには、一応は大丈夫なんだろう。
「でも、それなりにちゃんとしたものを選ぶ必要はあるけどね」
許斐さんがオレの撮影した携帯画像を見て笑う。
「い、いや、さすがにそれを使おうなんて言いませんよ。それは撮影ってよりもただふざけていい加減にシャッターをきっただけですから」
そういうことなんでそのピントぶれまくりの画像を見て笑うのはやめてほしい。
いや、多分解ってるだろうことは解ってるけど、それでもやっぱり恥ずかしいから。
「はは…。でも、被写体の表情は凄くいいよね。ぶれで暈けてるのが残念だよ」
「でも、まともに撮ったものは結構いい感じですよ。こういう自然な表情はやはりプライベートならではってところでしょうか。技術はともかくこの表情は我々じゃ引き出せないでしょうね」
「まあそこはそんなに気にしなくても。最近の携帯のカメラ機能はオートフォーカスとかが搭載されてますし、それなりのものは撮れますからそっちはそこまで問題は無いでしょう。
それよりも、評価するべきはこのセンスですね。表情もですけど、撮り方ってのをよく心得てます。構図は良いし、光の加減もよくみてる。角度だってちゃんとしているし。誰に何をどのように伝えるか、そういうことを弁えてよく考えられています」
そんなオレの撮った画像だが、まともに撮った物についてはなかなかの好評価だった。否、もしかすると高評価かも。なんてったってプロの写真家がセンスがあるなんて褒めてくれてるんだ…。
「いやぁ、なんかプロの許斐さんにそんな風に褒められるなんてたとえお世辞でも恥ずかしいです。でも本当ですか?」
嬉しくてつい問い返してしまう。だってこんな風に具体的なんだぞ、その気にもなるってもんだろう。
「ああ、センスはあるんじゃないかな。さすがは若くしてやり手プロデューサーなんて言われるだけのことはある」
いや~、本当マジで嬉しい。これを機に真面目に取り組んでみようか。
「悪いとは言わないけど、あくまでも素人としてはって話よ。一見具体的に褒めているように聞こえたかも知れないけど、どこがどのようになんてことは言ってないでしょ」
すっかり有頂天になりその気になっていたオレだが、打ち合わせの終了後に佐竹からこんなツッコミを食らった。
なんだよ、せっかくのいい気分だったのに。
「二兎を追う者は一兎をも得ずって言うでしょ。やるべきことが多いんだから、今のところは後の趣味程度に考えておくことね」
確かにな。佐竹の忠告は尤もか。残念だけど今のところは諦めよう。
※この作中にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




