続 クイズの出題役ってのはやはり重要な役らしい
なんかしんどいと思っていたら、どうやら風邪をひいたみたいでした。読者の皆様も体調管理には気をつけましょう。
佐竹の提案によりやって来た高校生クイズ王大会の撮影現場。
そこでは出場者達により熾烈な争いを繰り広げられている……のだが、実はその問題を読み上げているのは美咲ちゃんだったりする。
当然ながら美咲ちゃんにその内容が理解できているわけもなく、ただ読み上げるだけになるわけなのだけど、専門用語だけでなく少し難しい漢字が使われていたりもするみたいで、その読み上げさえも拙くどもりまくりだ。
なのになぜか番組のプロデューサーは佐竹の方と交代させることもなくあえてそのまま。恐らくは美咲ちゃんの個性だからあえてそのままってことだろうけど、それに付き合わされる解答者達にはさぞや迷惑なことだろう。そのせいで実力はありながらも脱落したと思われるチームも少なくはない。
美咲ちゃんには残念だか、これでまたお○鹿タレントイメージに説得力が増すことになるだろう。
本来は観戦に来たはずだったのだが、なりゆきでこうしてクイズの出題役を引き受けることになったオレ達。そのなりゆきに関しては割愛するとして、ではなんでオレ達がこんなところにやって来たのかというと、今日一日することがなく暇だったため佐竹の提案に乗ったから……って、これは先に述べたか。
じゃあなんで佐竹がこんなことを言い出したかだが、それは知り合いに参加者がいるからってことだった。
「ねえ、もしかすると知り合いってあの子達?」
美咲ちゃんが佐竹に問いかけた。
それは集賢学院高校という東東京代表の男子三人組のチームだった。
多分美咲ちゃんは、オレ達の地元の学校だからと推測したのだろうけど、ちょっと短絡的じゃないだろうか。他の都道府県に住む親戚とかって線だってあるだろうに。
「ええ、まあね」
ただ、その予想は外れではなかったようだ。
「おおっ? 集賢学院チームには純ちゃんの知り合いのいる模様。これは純ちゃんの期待に応えるべく、彼らには是非ともがんばってほしいところです」
ふたりの会話を耳敏く 聞き付けた司会者が早速こんなことを口にする。
「「ええっ⁈ マジ?」」
「…嘘? あれって姉ちゃん? 否、そんなわけが……」
まさかの事態に驚くふたりと、それ以上に困惑するひとり。
そりゃそうだ。なんてったって早乙女純が他所で活動している間、彼の姉はその身近に居たはずだろうからな。つまりふたりが別人物であることを間違いないと知っている人間なんだから、こんな風に言われて混乱するのも無理はない。
「ええ⁈ 嘘? あれって佐竹さんの弟くんっ?
でもなんで純ちゃんが弟くんのこと知ってるの?」
美咲ちゃんの方も驚いているみたいだけど、その驚きは彼らとはまた別のもの。
まあ、どちらも早乙女純と佐竹姉弟の関係についての疑問ってことには違いはないんだけどな。
……てか、そうか。知り合いってのは佐竹の弟だったんだ。
「そりゃあね……、あの子は私にとっては天敵なわけだし。だったら、まずは敵を知るためにいろいろと調べてみるものでしょ。
まあそんなわけだから、彼についてはこっちが一方的に知っているだけよ」
佐竹が美咲ちゃんの疑問に応じる。
けど、なにもそんな風に説明しなくても…。
「あ、ああ、そうなんだ……。
純ちゃんって、佐竹さんのこと、そこまで苦手にしてたんだ……」
案の定、美咲ちゃんは気まずそうだ。
まあでも自身の正体に纏わる話だしそれも仕方がないか。
実はこの台詞は、佐竹と早乙女純を極力会わせないようにするために作り上げた設定に基づいたものだ。
佐竹は早乙女純の上位互換なんて異名を持っているので、これ幸いと早乙女純自身もそれを認め、それゆえに劣等感を与えた人物として苦手意識を持っているということにしたのだ。
そんなわけで、早乙女純に佐竹の話は基本的に禁忌ってことになっている。
「うわぁ……。話には聞いていたけど、マジで早乙女純って姉ちゃんのこと苦手にしてたんだ…」
「でもまさかの天敵呼ばわりって、いったいお前の姉ちゃんって……」
「なんだ、別の人物かよ。まあそうだよな。
でも、そこまで早乙女純に言わせる姉ちゃんって…。
なあ良昭、今度その姉ちゃん紹介しろよ」
美咲ちゃん達の会話が届いたのだろう、佐竹の弟が若干ひきぎみになっている。
そして一緒のメンバーふたりも。
否、ひとりは違うか、あんな軽薄なこと言ってるし。
ざわついているのは知り合い?と言われた当事者だけでなく、他の人間達も同様だった。まあ所詮はどれも興味本位な話に過ぎないのだけどな。
当然ながら、小森さんに頼んでこの部分は放送ではカットしてもらえるよう、番組プロデューサーに掛け合ってもらった。
さて、それでは撮影再開。例によって美咲ちゃんが拙く問題を読み上げる。
「問題『となりのきゃくはよくかききゅふ…きゃききゅ……かきくうかきゅ……』」
ピンポ~ン。
美咲ちゃんの辿々しさに憐れを感じたのか、それとも単なる先走りか、一チームが解答ボタンを押した。
「6回」
なんかよく解らないが、恐らくは特定のワードを数えるタイプの問題と考えたのだろう、彼らの導き出した答えはこれだった。
ブーッ。
当然ながら答は外れ。
お手付きで今回の解答権は失われることとなった。
そして再び美咲ちゃんが問題を読み上げ始める。
「『となりのきゃくはよきゅかききゅうきゃくだっ、きゃくがきゃきむきゃひきゃきゅぎゃきゃききゅう……』」
なんだろう、えらく読み上げる者に対して悪意のある問題に思えるのは。
実際、美咲ちゃんは何度も舌を噛みながら、必死でなんとか読みきろうとがんばっているけど…。
ピンポ~ン。
「『隣の客はよく柿食う客だ。客が柿をむきゃ飛脚が柿食う。飛脚が柿むきゃ客が柿食う。お客も飛脚もよく柿食う客飛脚』」
二チームめが解答するがこれもまた外れだった。
どうやら早口言葉『隣の客はよく柿食う客だ』のフルバージョンを問う問題と捉えたらしい。
ってか、これってフルだとこんな風になるんだ…。
「『となりのきゃくはよくかききゅうきゃくだっ。きゃくがきゃきむきゃひきゃきゅぎゃきゃききゅう……』。さて、何回『きゃ』って言ったでしょう」
なんとか問題を言いきった美咲ちゃん。否、正しくは正しく言えてないんだけど、さすがにそれを指摘するのは酷だろう。
で、この問題の正解だが…………12回か。
ピンポ~ン。
遂に佐竹の弟達がボタンを押した。
「12回」
解答はオレと同じ12回。
残り物には福があるの言葉じゃないけど、どうやら慎重に問題を聞くって作戦が功を奏したようだ。
ブッブー。
え? なんで? オレもちゃんと数えたけれど、決して間違ってはいないはず。
「正解は…………18回」
え? 嘘っ? いったいどこで数え間違えた?
再び数え直してみる。
因みに正解の解答だが、美咲ちゃんが間違えて発音したりどもったりした『きゃ』も含めてとのことだった。お陰で今の問題は正解者なしってことらしい。
おい、出題者。やっぱり悪意ありじゃないか。
あえて美咲ちゃんに問題を読み上げさせたのって、こういう理由だったのかよ。
こんな感じな出題が少なからず含まれていたため、その日のクイズ大会は大荒れ。用意した問題の方が先に尽きるんじゃないかと心配する程のありさまだった。
なお、佐竹の弟達だが、残念ながらここで敗退。
その一因は明らかに美咲ちゃんだ。
いや、でも一番の責任はそんな美咲ちゃんを採用した番組プロデューサーだ、美咲ちゃんを責めるのは酷だろう。
だから恨んでくれるなよ、佐竹弟。
※1 この『耳敏い』は『耳聡い』とも書きます。
『敏い』と『聡い』はどちらも『感覚が鋭い』という意味で使われますが、微妙に意味合いが違うらしいです。
【敏い】理解や判断が的確で早い。熟語に『機敏』『敏腕』等がある。
【聡い】賢い。熟語に『聡明』等がある。
とりあえずここでは『敏感』ってことで『耳敏い』としてみました。
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




