女性が水着を着る心理とは?
美咲ちゃん達の水着選びが漸く終わった。
いや、本当にしんどかった。
語源といわれる心労とか辛労とか、うん、どちらかといえば前者の心労だな。ともかく精神的に非常に消耗してしまった。
「情けないわね。男の子がこれきしのことで音を上げるなんて」
小森さんがオレを咎めてくるけど、これは男だからこその気疲れだ。同じ女性ならこんな気疲れはしないっての。
「でも、せっかく買ったんだから実際に着てみたいところだよね」
いや、そんなことを言うけど美咲ちゃん、買う前に試着は済んでるはずだろ?
「そうね。少し恥ずかしいけど、それでもやっぱり誰かに見てほしいってのはあるものね」
え? そうなの?
まさかの意外な佐竹の一言だった。
でもそれじゃあ、以前の水着盗撮の件ってのはなんだったんだよ。これじゃ写真を没収された奴らって…。
「はあ…。本当にあなたってなにも解っていないのね。
そういうのは相手が誰でもいいってものじゃないの。
心を許した親しい相手だからこそ見てもらいたいって思う、まあ自分のアピールの一環なわけね」
佐竹が呆れたようにオレに説明をしてくれた。
ふむ、なるほど。
つまり自分のアピールだからこそ相手を選ぶってわけなのか。
それじゃ隠し撮りに怒るのも当然だ。だって無許可の盗み撮りなんだからな。
いや、それだけじゃないな。相手を選べないってのはもちろんのこと、それが変な角度からの撮影だったりすると、もう目も当てられない惨事だろうことに違いない。
「なるほどな、よく解ったよ。
でも、なんとも呆れた話だよな。
要はチヤホヤされたいから、妥協で露出をして媚を売ってるってわけだもんな。
うん、よ~く解った。
やっぱりリトルキッスにこの手の仕事は不要だな。
リトルキッスにそんな安売りは似合わない。
だろ? ふたりとも」
水着になるってことの意味合いが、こうして改めて理解できたと、オレはふたりに確認をとる。
「その解釈には微妙に抵抗が有るけれど、まあ概ねはそんな感じかしら。正直言って複雑だわ」
「私も同じ。深く考えたことなかったけど、多分純くんの言う通りだと思う。認めたくはないけれど」
うん、やはりこの解釈で間違い無いようだ。
「はあ…。まあ子どもの考えなんだし、こういう結論に落ち着くのも当然か…」
ん? なんか小森さんの意見は違うらしい。
でもなにが?
「ううん、解らないなら今はそれでいいわ。
ただ、あなた達も本当に恋を知ればなにが違うかは解るはずよ」
……それって…。
「それってつまり、アレですか?
要は相手に対する欲情アピーろぶぉぉ……」
小森さんへの回答途中でいきなり頬を抓られた。
「解ったからと言って言葉に出す必要はありません」
ど、どうやらそういうことらしい。
てかなんだよ、小森さん。なにもこんな乱暴な…。
いや、よく考えたらこれは立派なセクハラ発言だった。反省だ。
「と、ともかく、さっきも言ったようにオレのプロデュースにこんなアダルトさは必要ない。
そういうのは落ち目のアイドルがすればいい。
ってか、そんな仕事を受け始める必要が出てくる前にアイドルは廃業するべきだろうな。変に起死回生なんて考えるからそっち方面の沼に嵌まるリスクを背負うことになるんだし。
まあ、業界一位のリトルキッスにそんな話は無縁だけどな」
オレのプロデュースにその手のものはあり得ない。
知り合った女性をそんな目に遇わせるなんて、とてもじゃないけどオレには無理だ。
こんな業界にそんな綺麗事が通用するわけがないと嘲笑われるだろうけど、それでもこれだけは絶対に避け通すつもりだ。
そう、これはオレが預かる女性アイドル達への最低限の義理である。
もしそれが無理なようならお互いに仲好く引退だ。
「ところで明日以降の予定はどうします?
こうして水着を買ったところでやることはすっかり無くなってしまったと思うんですけど」
今後の予定について代理マネージャーを務める小森さんに尋ねてみた。
「そうですね。撮影の日は四日後ですし、それまでの間はすることも無いわけですから、しっかりと休んで英気を養う のが良いのではないでしょうか」
あ、本当にすることが無かったんだ。
つまり待機期間はそのまま休暇ってことになるわけだな。
「じゃあせっかく買った水着なんだし、それでどこか泳ぎに行きたい」
早速美咲ちゃんが希望を述べた。
どうやら買ったばかりの水着を着るのを楽しみにしていたようだ。
「そうね、ひとまず水着を試してみるのもいいかもね」
佐竹も美咲ちゃんの意見に賛成を示した。
多分、佐竹も美咲ちゃん同様で、例の水着を着るのを楽しみにしていたんだろうな。女性ってのは結構着道楽なところがあったりするみたいだし。
「それでは例の撮影場所なんてどうでしょう。あそこなら今は遊んでいる状態ですし」
あ、そうなんだ。
まあでも、借り受けてそのままってんならばそういうことになるわけか。
こうして誰からも反対意見が出ることもなく、小森さんの許可が出たことにより、貸し借りでの海水浴が決定となったのだった。
※1 たまに『鋭気を養う』と書かれることもありますが、『英気を養う』が正解です。
『英気』とは『気力』のこと。対して『鋭気』とは『やる気』のこと。なので養うのは英気となるわけです。
因みに『鋭気』が使われるのは『鋭気を挫く』といった場合のようです。
[Google 参考]
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




