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男が女性の買い物に付き合うとこうなる

 小森さんの提案によりオレ達の方でも水着を選ぶこととなった。

 で、現在その水着を購入するべくその手の店へとオレ達は来ているのだが…。


「あ、これ可愛い」

「このデザインも捨てがたいわね」

「これもいいわね。セクシーさが有りながらも、それでいて下品過ぎないって、こんなのそうそう無いもの」


 と、こんな感じで美咲ちゃん、佐竹、小森さんと女性達が次々と水着を手に取りを選んでいるわけだ。

 そんな中、オレはその傍らで待機中。

 って小森さん、それ、小森さんの水着選びじゃなくって美咲ちゃん達ふたりの水着選びだから。


 しかし気まずい。正直言って非常に気まずい。

 あんなツッコミで気を紛らわそうにも、とてもじゃないけど紛らせない。

 いつもの現実逃避がままならない。


 なにが気まずいって、女性専用の品を扱う店の中に男がひとりという場違いさだ。

 しかも化粧品とかじゃなくって水着である。下着じゃないってことがせめてもの救いだが、それでも大同小異に違い無い。

 幸い、特に変な目で見られてるとかは無いと思うんだけど、それでもどこか責められているような気になって、周囲の女性客達の視線が気になるのだ。

 たとえ疚しいところが無いとはいえ、それでもこの背徳感からはどうしても逃れられなくてつらい。


「ねえ純くん、これなんてどうかな?」


 そう言いながら美咲ちゃんが自分の前にその選んだ水着を当てて見せてくる。

 それは白色の生地に向日葵のデザインされた可愛いらしいビキニだった。もちろんあの写真家(カメラマン)の趣味で用意された例の水着のような過激な物と違い、しっかりと布地の広さのある物だ。


「うん、可愛いらしくて良いんじゃないかな。多分凄く似合うと思うよ」


 頭の中でその水着を纏った美咲ちゃんを想像してみる。


「ちょっと純くんっ、そんな本当に想像しなくてもいいからっ」


 美咲ちゃんに慌てて制止され、オレもその具体的想像を中止した。


「いや、訊いてきたのは美咲ちゃんだろ。

 まあ大雑把な感じの想像なんでそれで勘弁してくれないか。それでもダメって言われるとなんとも評価のしようがないしさ」


 オレの言い分に美咲ちゃんも渋々ながらも納得してくれた。

 念のため、言い分であって言い訳じゃないからな。


「本当かしら? 案外言い分と書いて言い(わけ)なんて当て字になってるんじゃない? あなたってそういう文字遊びが好きみたいだから」


 なんだよそれ?

 それって分けるってことで、建前と本心で思考を同時に分割してるっていう意味か?

 つまり漫画やなんかでお馴染みの並列思考ってことかよ。


「違うの?」


「んなわけねえだろっ。全くもって心外だっての」


 おのれ、佐竹め、なんてことを言ってくれる。

 …そりゃあ絶対に違うって断言できるかって言われるとちょっと自信は揺らぐけど、でもオレの本心の大部分はそんな疚しさなんて持ち合わせていない。


「ふふ、冗談よ。あなたがそんな人間じゃないことはよく知ってるわ。

 だってあなたって、女の子に対してはどうしようもない程のヘタレだものね」


 ぐはっ! く…くそ、佐竹め。確かにその通りだよ、ちくしょう。

 でもだからって、なにもそんなところで信用しなくてもいいじゃないか。


「ぷっ…。ははははっ。

 確かに純ちゃんの言う通りだよね。

 でも、それが純くんのいいところなんだからそんなに気にすることないから」


 それに美咲ちゃんも、それってオレに対するフォローのつもりなのか?

 誤解の解けたのは良かったけど、でも結局は美咲ちゃんも佐竹と同意見ってことじゃないか。


「そんなことよりも、もう少し真面目にやってくれよ。男の身でこんなことに付き合わされてるのって、気まず過ぎて凄くつらいんだから」


「あら、そんなことじゃ将来困るわよ。彼女ができれば買い物に付き合わされるだってあるんだから」


 オレの泣き言にダメ出しをしてきたのは小森さんだった。そしてその意見に佐竹が、さらに美咲ちゃんまでもが肯いている。


 いや、そういうもんなの?

 だってこれって女性用の品の買い物でしょ?

 それなのに男を付き合わせたりするもんなの?

 羞恥心は?


「はあ…。あなたってそういうことにとことんなまでに疎いのね。

 女の子ってのはね、好きな男の子にはそういうことを相談したいものなのよ。そして褒めてもらいたいの。

 だからそんな男性をこういう買い物に誘うのよ。そうでなければ、あなたのいうようにこの手の買い物なんかに付き合わせるなんてことはしないわ」


 いや、まあ、それはそうなんだろうけど。でも、それって相手がそういう対象の場合だけだろ。なんで今がそれに当たるんだよ?


「もうっ、純ちゃんってば。そういうことはこういうどさくさ紛れに言うんじゃなくて、もっとちゃんとした状況で伝えないと」


「残念だけど違うわよ。あくまで一般論を語っただけどねよ。

 そりゃあまあ、嫌いってわけじゃないけれど、でもそれはあくまでも友人として。

 それにだいたいその理屈だと、私だけじゃなくあなたもそれに該当することになるんだけど」


 え? ははっ、まさか。


「え? ちょっ、それは誤解だよっ。

 純ちゃんを差し置いてそんなこと考えたことないよっ」


 差し置かなければあるのかよ⁈

 って、美咲ちゃんに限ってはそれはないな。どう考えても美咲ちゃんはそういうものとは無縁だろう。


「差し置かなければあるんだ」


「無い。無いよ。無いってばっ!」


 佐竹の一言に美咲ちゃんが動揺しまくって…、これは明らかに錯乱状態だな。じゃないとさすがにオレもショックである。

 いや、別に美咲ちゃんに対して特別な感情が有るってわけじゃないけれど。でも、それでもな…。


「冗談はそれくらいにして、本当、いい加減に決めてくれないか」


 もう、本当に勘弁してほしい。

 何度も言うけど、男のオレがこの場に居るのは本当に気まずくてつらいのだ。


「そうね、冗談はこれくらいにしておいて、そろそろ本気で決めないとね」


「へ? 冗談?

 もうっ、純ちゃんってば揶揄(からか)うなんて酷いよっ。私は本気で純ちゃんの心配をしてるのにっ」


 佐竹が冗談と認めたことで美咲ちゃんの混乱も治まったようだ。

 ってか、未だにオレと早乙女純をくっつけようと思ってるんだ。

 以前は絶対に無理だったけど、でも、今後はその可能性もあるんだよなあ。まあ、オレも佐竹もお互いにそんな気は毛頭も無いけれど。


「それは余計なお世話ってのよ。

 前から言ってるでしょ。私はこういうことを焦って決めるつもりは無いの。だから相手はじっくりと考えて選ぶし、そう簡単に浅はかな決断をするつもりも無いのよ」


 これはオレが前から言っている早乙女純の台詞である。そしてそれは早乙女純としてだけでなくオレ自身としての価値観であり本心だ。

 でも、なんでだろ、なんか佐竹自身の言葉みたいにも聞こえてくる。


「もうっ、純ちゃんってば相変わらずなんだから」


 そのせいだろう、美咲ちゃんもすんなりとそれを受け入れた。


 ふう…、これで漸く話が前に進む。

 さっさと水着を選んでもらって早々にこの場を立ち去ろう。

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