小森マネージャー代理、撃沈される
今回登場する写真家の采女。冗談で付けた名前ですが、この名字は実在の名字で、岡山県等で見かけられるようです。
恐らくは朝廷に女官を斡旋していた人達、もしくはその役職の采女司等の末裔ではないでしょうか。
因みに采女とは朝廷に使える女官で主な仕事は毒見役等。実質は、まあアレな女性です。なので基本みんな若い美女揃いです。采とは採と同義らしいので。あとは有力者の娘を人質にってところでしょう。要するに朝廷ハーレムの構成員達のことですね。
と、いうことでこの写真家の采女の名字は、美少女の斡旋者という由来です。作者の偏見かも知れませんがグラビアの写真家ってそんなイメージが有りませんか?
なお、全国の采女さんごめんなさい。上にはこんなことを書いてますが、采女さん自体を貶める意図は皆無です。あくまでも名字の由来の考察とこのキャラに対する皮肉です。
そんなわけでもう一度改めて、お詫びします。ごめんなさい。
「あれってフラグだったんだ…」
これは前話のサブタイトルと同じ台詞で、前話の美咲ちゃんの最後の台詞だが、ここでも同じその台詞を吐いた。
眼前には呆然とする佐竹と美咲ちゃん。
それを見てため息を吐く小森さん。
そしてオレは途方に暮れた。
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例の撮影の当日を迎え、オレ達はとある南国へと来ていた。
その日は好天に恵まれ、燦々と夏の太陽が大地を焦がすかのように照り付けている。
「うん、太陽SunSunだね」
時折吹く風は涼やか……なんてことはなく、やはり熱気に包まれより暑さを際立たさせる。
でも、それでも肌には気休めくらいにはなってくれてないだろうか。
「ちょっと純くん?」
いや、男のオレが肌を気にするなんて女々しいことを言うなって思うかも知れないけれど、美咲ちゃん達だっているのだ、気を遣ったって怪訝しいなんてことは無いだろう。この激しく照りつける太陽は、最早肌を灼く ってレベルを通り超し、炙るの炙く って漢字だろうか……じゃなくって感じだろうか。
「純くんってばっ」
いや、危ない、炙くなんて言おうものなら「女性を食用肉と一緒にするなっ」って怒られるに決まってるからな…。
『炙』という漢字は『月』と『火』ということで、特に肉を火で炙ることを意味するのだ。つまり某ゲームでお馴染みのアレのことである。
「うわぁ~ん、純ちゃ~んっ!」
じゃあ、ここはなにを当てるのが相応しいだろう。
「あえて当てるならそこは焦がすの焦く かしら。ってよりも普通に肌を焦がすでいいでしょ。
だいたいなんで女性の日焼けの心配から、○んがり肉なんて連想するのよ、失礼じゃないっ」
美咲ちゃんめ、援軍を呼んで来たか。多分無視を決め込んだことへの報復だな。
あと、焦がすだったらもうとっくに使っている。
「誤解だって。もし本当にその気なら燔の燔くを当ててるっての。調理の焼くならそっちだろ」
もしくは煠く ってところかな。これも浅鍋での加熱調理に関する漢字だし。
「ねえ、純ちゃん、今のヒモ…ヒモ…」
「『ひもろぎ』ね。解り易く言うとお供え物の食べ物のことよ。で、今の漢字を使った『燔く』だと火で焼く調理法ってことになるのかしらね。他にも別の漢字も有るけど…」
「な、なんだよその目は。まだなにか言いたいことが有るってのかよ」
いや、なんでこっちを見てるんだよ。別に睨んでるってわけじゃないけど、なんか変な圧力が隠れてるようで背筋に冷や汗が流れるんだが…。
「さあ、着いたわよ」
ここで都合好く目的地へと到着。
ふう~、助かった。
小森さんの後に従い宿泊先のホテルへと入っていく。今回はこういう仕事なため織部さんは美咲ちゃん達に遠慮をしたようだ。で、この春からフェアリーテイルが活動休止中ということで比較的手の空いている小森さんが代わりとなったわけだ。
チェックインを済ませれば、愈々仕事の打合せ、憂鬱となるグラビアの仕事が待っている。
え? オレは嬉しいんじゃないか、鼻の下を伸ばしてんじゃないかって?
生憎オレはそんな男じゃねえんだよ。いかに思春期の男子だからといっても、自制心くらい持ち合わせているってんだ。
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打合せも終わり撮影現場に訪れた。
それじゃ早速準備だと、美咲ちゃん達が着替えに向かう。水着は相手側が用意をしてくれているそうだ。
「ちょっと、何よこれっ⁈」
「嘘っ、こんなの着るの?」
佐竹と美咲ちゃんの声だ。まさかとは思ったけれど、悪い予感が当たったらしい。
オレはふたりの元へと駆け付け……はしないぞ。そんなことすれば間違い無く痴漢扱いだ。
ラッキースケベ? そんな漫画やなんかのお約束なんて馬鹿な展開は御免だ。オレは自身の人間性、その品性を疑われるような真似はしたくない。ただでさえ○っぱい好きなんて変な嫌疑を掛けられているってのに、これ以上汚名を被るなんて全く御免蒙りたい。
代わりにふたりのほうがやって来た。
それに小森さんがつづく。
どうやらまだ着替えてはいなかったようだ。
「いったいなにがあったんだ?」
予感はつくけど一応訊く。恐らく何かが有ったんだろう。ふたりをひかせる何かが。
「有った。凄く恥ずかしい水着が」
「アレはないよ、あんな…あんな小さな布きれなんて…」
……ははは、余程に酷い物だったらしい。このふたりがここまで言葉少なく、そして力の無い台詞を零すほどに。
「ええ、さすがにアレは酷過ぎます。抗議しましょうっ!」
そんなふたりに反するように、小森さんのほうは憤りを隠さずにいる。
「あ、待ってくださいよ小森さん」
オレ達は小森さんを追いかけた。
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「いったいどういうつもりですか⁈
あんな過激な水着を着ての撮影なんて聞いてませんよっ!」
小森さんが雄々しく責めかかる。
おおっ、なんて頼もしい。
「ちょっと、落ち着いてくださいよ。
確かに多少は刺激が強めかも知れませんが、その分大人の魅力アピールにはもってこいでしょう」
相手の担当者が小森さんを宥める。
だが、その序でに自分達の正当性を主張するのも忘れていない。
なんとも強かな人物だ。
こうセットにして物事を言われたら反論するのが大人気無く感じられるから不思議だ。
一見 …否、一俔 ? ともかく一聞すれば理を尽くした発言に思えるが、しかしその実のところは自分達の都合を押し付けるだけでこちらへの配慮は皆無なのだ。こんな一方的な会話を話し合いなんていえるのだろうか。
そんな理由だ、小森さんそんな戯言に耳を貸す必要なんて無いからな。
「ふん、馬鹿らしい。こんな無駄話なんかする暇が有るならさっさと撮影に入るべきだろう。
抑々グラビアってものは、そういうものだと知らないわけじゃないだろうに。
これだから女子供とは話にならないってんだ。本当に全く馬鹿らしい」
これが例の大物写真家・采女好司か。くそ態度のデカさが気にいらねえ。明らかにオレ達を見下してやがる。
「なっ⁈ で、ですが…」
小森さんも負けず、反論を試みる。
否、みようとした。だが…。
「ですがもなにも無い。だいたい契約では一切をこちらが取り仕切ることになってるはずだ。そうだろう講文社さん」
「え、ええ、そういうわけなんで星プロさんもそれでお願いいたします」
うわぁ…、この担当、完全に采女に圧されてるよ。
「ふん、まあ今さら嫌とは言わんだろう。
仮にも契約を済ませておきながら、急に駄々を捏ね反古にしようなんて無責任なことを事務所側が許すわけが無いだろうからな。
いかに無知な女風情でも社会人ならそれくらいの責任くらいは理解しているだろう?」
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結局小森さんは撃沈となった。
不甲斐ないって責めたいところだが、事務所の信用という圧力が小森さんを屈伏させしめたのだ。
ここで話の冒頭に戻る。
「あれってフラグだったんだ…」
美咲ちゃんが辛うじて言葉を零す。
眼前には呆然とする佐竹と美咲ちゃん。
それを見てため息を吐く小森さん。
そしてオレは途方に暮れた。
※1 いろいろと『やく』という言葉を出してみましたが、基本的には『焼く』でOKです。『肌を焼く』には、意味合い的に『灼く』も使われたりします。
【焼く】火で物を燃やす。
【灼く】熱で表面が熱せられる。かなりの高熱です。
【炙く】炙る。火に当てます。特に肉など。
【焦く】火や熱で物を焦がします。
【燔く】火で燃やす。火の粉が飛び散る感じです。作中にあるように、肉を火の上に翳して焼くという意味も有ります。
【煠く】底の薄い鍋や鉄板を使って焼きます。
『煠』には『茹でる』『煮る』『油で揚げる』等といった意味合いも有るようです。
【炮く】包み焼きです。
【燬く】原形を失うほどの超高火力で焼き尽くします。
【妬く】嫉妬に身を焦がします。
他にもまだ漢字は有るようですが、それらは割愛させていただきます。
なお、火力の強さ的には、焼く<灼く<燬く なのだそうです。
※2『一見』といえば『一目見て』と文字通りの言葉ですが『聞く』という言葉にかけても良いのでしょうか? 調べてみても不明でした。
不安なので『一俔』に変えてみて『一度様子を俔う』としてみました。『俔う』つまり『探る』ならば『見る』だけでなく『聞く』やその他のことも含まれるってことで…。
で、それでも不安なので『?』を追加し、結局そのあとに『一聞』となったわけです。
ところで『一俔』って実際にある言葉なのでしょうか?
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




