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純、リトルキッスの活動方針に悩む?

 学校における水着写真盗撮事件は片付いたのだが、事務所のほうはそうもいかないようだった。

 リトルキッスに水着撮影の話が浮上してきたのだ。

 今まではなんとか躱せてきてたのになんで…。

 …って、考えるまでもないか。


「ちょっと、どこを見てるのよっ、このスケベっ!」


「い、いや待て、それは誤解……じゃないか」


 残念ながら誤解ではなく、意図的にオレは佐竹の胸元に目をやっていた。だからこの佐竹の指摘は間違いじゃない。


「なによ、えらくあっさりと認めたわね」


「別に疚しい理由で見たわけじゃないからな。

 恐らくだけど、今回の話が出てきたのってコレに関係があったりするんじゃないですか、聖さん」


 と、そんなわけだ。こんな方向で話が進むのは好ましくないので、さっさと相手を変えることにする。


「まあ、それも無いとは言えないかな。最近の早乙女純の成長はいろいろと話題になってるから、それで話が出てきたのだろう。

 で、君達としてはこの話をどう思う?」


 って、ちょっと聖さん。またこっちに振るんですか⁈


「うん、確かに純ちゃんの○っぱいって、凄く成長したと思う。

 ねえ、純ちゃん、それ、どうやったの?」


 いや、美咲ちゃん、今はそういう話をしてるわけじゃないんだけど。

 あと、オレ達男性の前でその手の話は止めてくれ。


「ちょっと、止めてよ美咲ちゃん。

 それに今はそんな話をしてるわけじゃないでしょ。

 で、やっぱりそれの話って断わるわけには…」


「オレとしても、それは不要だと思う。

 そこまでファンに媚びなくっても十分な人気は有るだろ。

 だいたい今までだってその路線だったんだし、なんで今さらそんなことしなけりゃならないんだか。

 少なくともふたりが嫌がるんなら、無理してまですることは無いだろ。

 ま、オレ個人としても、大事な友人にそんな真似なんてしてほしいとは思わないしな」


 いや、誰だってそんなものだろう。親しい人間のそんな姿なんて誰が見たいってんだ。


「それは助かるわ。やっぱりそういう恥ずかしいのはできれば避けたいところだから」


 ま、そうだろうな。それでこそ貞淑な淑女ってものだ。って、これ二重表現になるのか?


「そう言えば純ちゃんって、前からそういうの嫌ってたもんね。

 でも、今ならそんなに恥ずかしがることもないと思うよ。だってそんなにぐ…」


「はいはい、そういうのはもういいから」


 それに対して美咲ちゃんは相変わらずで奔放だ。

 てか、よっぽど佐竹のソレが羨ましいのか、ずっとそのことばかりだよな。

 今もまたそれで、佐竹に口を塞がれてるし。


 そんな奔放な美咲ちゃんだが、決して淫奔というわけではない。てか、天衣無縫で純真無垢な美咲ちゃんにそれは似合わない。……はずなんだけど、なんか最近オレの中では、そのイメージが崩れつつある。いったいどこで穢れたのやら…。


 まあともかく、ふたりともその気は無いってことで、そしてオレにもその気は無い。


「ってことなんで、これからもそういうのは無しってことでお願いします」


 そんなわけで、オレ達三人で聖さんへと頭を下げた。


「ああ、解った。こっちとしても君達に無理強いをする気は無いし、それではそれで構わないよ」


 さすがは聖さんだ。ものわかりが良くて助かる。


「はあ…、全く、相変わらず聖さんは人が好い。

 じゃあとりあえずは今まで通りの路線でやっていくことになるわけですね」


「ああ、そうなるかな。そんなわけだからみんな、これからもよろしく頼む」


 と、聖さんが締めたことで、この話は終わりってことだな。

 でもそうなると、やっぱりそれなりのことは考えておかないとならないだろうな…。


          ▼


 とはいえ、そうそう簡単に良案なんて思い浮かぶこともなく…。


「はあ、やっぱり今まで通りってことになるわけか…」


 そう、今まで通り。リトルキッスは海よりも山。

 水と戯れ(はしゃ)ぐよりも風の(そよ)ぐのに身を委せる、そんな優美さだってアリなはずだ。ってか、そっちのほうが貞淑なイメージで好ましい。

 だてに『(しな)やか』とか『(たお)やか』と同じ『嫋』って漢字が使われているわけじゃないってわけだ。

(そよ)ぐ』?

 それも有るには有るけど、それは嫋ぐと違って表外読みだから。……まあ、リトルキッスにはそっちのイメージも無いわけじゃないけど。


 ともかくだ、リトルキッスはいろいろな意味で『穢れの無いアイドル』、これがオレの想い描く理想である。否、(おも)い描くと言ってもよい。オレの想像し創造を願うアイドル像ってのはこれを理想としているのだ。


「へえ~、それが純くんの理想の女性像だったんだ」


 背後から現れたのは香織ちゃんだ。どうやら今のを聞かれていたらしい。周囲には気をつけていたつもりだったのに。


「いや、そういうのってオレだけってわけじゃないだろ?

 だいたい世の男連中の全てがスケベな欲望を女性に向けてるわけじゃないってんだ」


 いや、そりゃあさすがに完全否定ってのは難しいけど、でもそれを常時剥き出しにして向けてるやつばかりってわけじゃない。そういうのはそういう時だけで……。

 って、と、ともかくだ、そんな自身の感情を制御する理性を持たないやつばかりってわけじゃないのだ。少なくともオレは絶対に違う。


「ふ~ん、まあ私は純くんが相手だったら構わないけど。ってよりもいつでも大歓迎よ♡」


 と、ここからまたいつもの抱擁と、そしていつもの頬擦りに……の前に頬へのキスをかましてくれたけど。


 香織ちゃん、そういう誘惑行為は止めてくれ。いつもなら軽く流せないこともないけど、そういう台詞のあとだと話が変わる。

 いや、半ば冗談ってのは解ってるけど、もう半分が本気なのは間違いないだろうからな。間違っても「ありがとう」みたいな台詞で返すわけにはいかない。そうなればそのまま、間違いが起こる可能性を否定できない。

 否、当然オレは拒絶する。するけどしかし、香織ちゃんは……。

 うん、そんな可哀そうな勘違いをさせるわけにはいかないのだ。

 …って、ヤバっ、想像してしまった。友人相手になんてことだ。

 煩悩退散、色即是空、空即是色…。


「もうっ、純くんったらっ…」


 悪いが香織ちゃん、オレにその期待に応える気は無いんだ、いい加減に諦めてくれ。



 ということで、今後もリトルキッスの活動方針は今まで通りってことになったのだった。


 ……悪かったな。オレだって全知全能の神様ってわけじゃないんだよ。ああいうチートは非現実(漫画)だけだ。

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