純、ホワイトデーのお返しを渡す
漸く厄介事が片付いた。
ホワイトデーのお返しもなんとか渡し終わり、みさ姉も無事新居へと引っ越していった。
え? 香織ちゃんへのお返しはどうなったかって?
そこはホワイトチョコをお返しに……ってのは……。
したよ。それもキャンディの『リトルキッス』と一緒にな。
このホワイトチョコの意味合いは『嫌いじゃないけど友達で』だからな、当に持ってこいじゃないか。
キャンディの方は『長く続く愛』ってことだけど、こっちは商品名が『リトルキッス』でリトルキッスのイメージアイテムだ。早乙女純をライバル視している香織ちゃんには宜い当て付けになるんじゃないかな。
まあ、遉にそんな毒を含んだ品だけじゃ失礼ってか可哀そうなので、一応他にも用意はしたぞ。
見た目の可愛らしいノートだ。
これなら手頃な値段だし、特に重たい意味合いとかは無いはずだからな。そしてなによりも実用的。
香織ちゃんって自分で曲の作詞をしているみたいだからな。多分喜んでくれるんじゃないかな。
ってか喜んでほしい。
だってなあ…。
男のオレがあんな女性向けの可愛いい物を買うなんて、抵抗感しかないからな。まあ当然だけど、早乙女純の格好で購入した。
と、そんな思いでのお返しだけど、香織ちゃんの反応は……。
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「嘘、本当にお返しを貰えるの? 嬉しいっ!」
ホワイトデー当日、オレは予定通りに香織ちゃんにバレンタインのお返しの品を渡した。
で、そうすると、まあいつものお約束の展開だな。
突進、抱擁、頬擦りのコンボだ。そして仕上げに頬への口付け。
……って、ちょっと待てっ。なんかいつもより激しくないか? それも回数が増えて2回3回と何度も。
「うっわぁ……、本当に接吻痕って残るもんなんだな…」
え? マジ?
なんとか香織ちゃんを引っ剥がしはしたのだが、今回はいつも以上に激しかったようで……。
「参ったな、これで人前に出なきゃならないのかよ…」
「ちっ、見せ付けてくれた上でその台詞かよ」
「はは、確かにね。
でも、それだけ嬉しかったってことでしょ。なんてったって、あの男鹿くんが珍しくデレたわけだから」
「おいっ、なんだよっ、そのデレたってのはっ!」
河合じゃないけど、遉に今回のあの反応に周囲が怯くのも理解できる。てか、オレでも怯く。否、なによりもそれを受けたオレ自身がかなり恟々 としている。
この想いに背くのが匈く恟ろしい 予感でいっぱいだ。
果たして泣くのか怒るのか、どちらにしてもオレにその対応は難しい。
だと謂うのに……。
「えっと、デレるってのは……」
「誰もそんなこと訊いてねえっ!」
くそっ、ここでまだボケるのか斑目め。
「ははは、いつもの男鹿と逆パターンだな」
河合も、変なツッコミを入れんじゃねえっ!
「あ、照れてる。でもデレると照れるって語感が似てて面白いよね」
くそっ、向日、お前もかっ。
「それよりも、何を贈ったわけ?」
珍しく日向と同調すること無く、空気を読んだかの如く話を変えてくれた朝日奈。
恐らくは、オレを弄ることよりもそっちの方に興味が有っただけだろうけど。
「ああ、お菓子とちょっとした日用品、あとは貰い物のキャンディだな。
まあ、女の子の趣味ってのはよく解らないから、良し悪しについては勘弁な」
遉に予防線は必要だろう。一応の言い訳ってわけだ。
だってある意味悪意有る品物が混ざっているからな。ってかそれがメインだ。
「ねえ、開けても可い?」
まあ、こう訊ねてくることは折り込み済み。だからこその先程の予防線だ。
「あ、これが返事なんだ?」
おい、こら、斑目。またしてもお前かよ。
宜い加減空気を読んでくれ。
まあ、これに悪意が有るわけじゃないってことは、最近の付き合いで解ってきたけど。
つまりこいつは天然の馬鹿ってわけで、まあ天堂の対極に位置する存在だな。
……いや、本当に悪意は無いんだよな。こいつって偶にそう謂うことも平然とするし…。
「そっか。これが純くんの返事なんだ」
どうやら香織ちゃんにも、このお返しの意味合いは通じたようだ。
って、そりゃそうか。だって香織ちゃんだもんな。
香織ちゃんみたいな恋する乙女が、この手のことに疎いなんて、そんなことあるわけがないもんな。
「うん、解ったわ。
でも、諦めなくっても可いのよね。
だってホワイトチョコの意味って、『好きだけど清い関係で』ってことでしょ?
つまり以前から純くんが説ってたように、今はまだってことだものね。
確かに未成年なんだから節度の有る付き合いが望ましいのは間違い無いし、ちょっとお堅い感じはするけど、でも、私はそんな純くんが好きなんだから、今はまだ我慢するわ。
ってことだからこれからもよろしくね♡」
ははははは……。なんだよ、またしても完敗かよ。
否、それでもなんとか友人の線引きは守れたわけだけども。
でも、香織ちゃんの掌の上なんだよなあ。
つまりお情けの防衛で引き分け。だから事実上は完敗なわけだ。
はあ……。果然りオレって恋愛偏差値低過ぎだよなぁ…。
※1『恟』と『匈』どちらも悪予感がするという意味合いです。
『恟々(きょうきょう)』とは『びくびくと慄くさま』で『恟』は『恟れる』と読みます。『匈』は『匈』『匈い』と読み、やはり『匈々(きょうきょう)』という言葉が有ります。意味は『どよめき騒ぐさま』ってことで『恟々』と同じ意味合いです。というか同じ意味となっていました。
まあ『匈』と『忄』で『恟』なんですから、意味も似てくるのも当然ですね。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




