純、筋肉女にあう
今回のサブタイトルは、某時代劇の何話目だったかのタイトルのパロディです。
で、今回はその時に出演した漫画家ふたりの漫画の代表作をパロディにした内容となっております。ってか、殆どがそれで占めてしまいました。
ただ、有名な漫画なのですが、そのアニメって結構古いので、果たして解ってもらえるかどうかは不明です。
あのバレンタイン以降、香織ちゃんの攻勢はより激しく積極化したものとなってきていた。
とにかく暇さえあれば、オレの元へとやって来て、隙さえ有れば、オレへの胸元へと突進してきては抱擁し、頬擦りってんだから……。
「いや、それって以前からでしょ」
まあ、確かに斑目のツッコミの通りか。
あれ? もしかして、以前と依然として変わってない?
「あら、だったらこれでどうかしら」
なあっ⁈
そう言うと香織ちゃんは、オレの右頬へと接吻を噛ましてくれたのだった。
否、別に嚙み付いたってわけじゃないぞ、当然だけど。でも、油断すると本当に食われそうで怖い。
もちろんこれは譬喩なんだけど、でも本当に、譬喩でなしに食われそうな、そんな恐怖で身が震える。
くそ、斑目の余計な一言のせいだ。
オレが一睨みすると、斑目の奴は気不味そうに視線を逸らしてくれやがった。
先程の一言が余計な煽りとなったって自覚が有るってことで、罪悪感を感じたのだろう。
でも、助けてくれる気は無いんだな。オレは今にも香織ちゃんに一呷りにされそうだってのに。
「本当は喜んでいるくせに」
こら、河合っ。余計なこと摘ってくれるんじゃねえっ! これ以上香織ちゃんが勢い付いてくれたらどうしてくれるんだよっ。
「あら、本当? 嬉しい♡」
くそっ、二度目の接吻をもらってしまったじゃないか。
あの恋愛脳の小鳥遊の奴でもここまではしないってんだ。……多分。
否、それともしてるのか?
って、それは無いか。少なくとも人前では。
一応は相手がアイドルなんだし、その辺は自重してるよな、恐らく。
まあその分、陰で隠れて ってことは十分過ぎる程に考えられるんだけどな。
でも、ここまでってことは無いと思う。どう考えても香織ちゃんの方が過激だ。これ以上はR規制案件だぞ、きっと。
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ふうっ、酷い目に覿った。
昼休憩の終了間際。香織ちゃんの帰っていった後、オレは安堵の一息を吐いた。
最近はこんな感じなせいか、周囲からの風当たりの差が激しい。
オレを妬む男子達の視線は相変わらず殺気に塗れているし。……否、なんか絶望で泣きそうな奴が最近出てきているような気も…。お前ら、そこまで本気だったのかよ。相手はアイドル、つまり偶像に過ぎない存在だってのに。
まあでも、実際に目の前に、身近に在るってのは確かなんだし、強ちそうとも考い切れないってことなのかもな。でも、だったらそれこそ行動を起こせば良いだけじゃないのか? ……まあ、玉砕は間違い無しだろうけどな。
女子の方は、こちらは主に二通りか。
一つは香織ちゃんを妬む奴ら。
少数派だけど一応は在るには在るのだ。
基本は自分の恋愛が巧くいってない奴らだろうな。
まあ、自分で説うのもなんだけど、こうして目の前で睦戯着かれると、そりゃあ目の毒に違い無い。
もう一つは香織ちゃんを支持する女子達。
恋に恋する乙女としては、こちらの方が主流だろう。要はこんな風にありたいと謂う願望の結実した姿を香織ちゃんに俔たってことだろう。
でも、オレはまだ香織ちゃんの想いを受け容れたってわけじゃない。だから結果は悲恋だぞ。
って、だからこそ香織ちゃんを支持し応援するんだよな。つまり自身を香織ちゃんに重ねてるってわけだな。そりゃあ狂執的 にもなるってものだ。
で、どの勢力にも謂えることだけど、……正直、勘弁してほしい。お前ら他人のことよりも自分のことを考えろよって滴って諭してやりたい。
いや、もちろんそんなことはしない。そんな上から目線で接すれば、否、そんなつもりは無いのだけれど、間違い無くそう取られるだろうからな。そうなりゃ結果は明白だろう。
オレにはそんな被虐趣味は無いので、自ら進んでそんな余計な真似をする気は無い。まあ、向こう側から何かしてくるってんなら話は別だが。オレだってそれなりに今回のことに対する鬱憤は溜まっているのだからな。
「なにを偉そうなこと吐戯いているのよっ。
そんなに相手がほしいってんなら、アタシが相手になってあげるわっ!」
突如横からオレの頭へと手が伸びてきた。
そして堅り オレを掴む。
さらにそこから高く吊り上げてくれたそいつは、説うまでもなく由希である。ってかそんなことする奴って他には在ないよなあぅっっ……っつつ、割れる、割れる、頭が砕けるっ!
由希のアイアンクローに苦悶の悲鳴を上げるオレ。
それは延々と続くかと思われたのだが、然程もせぬ間に解放された。
「うぐぐ……、本当に砕けるかと思ったぅわあぁっ⁈」
……かと安堵の声を溢し掛けたオレだったけど、それは悪夢の序章に過ぎなかった。
背後から由希の追撃が迫っていたのだ。
オレの左足に自分の左足を絡める様にフックさせ、相手の右腕の下を経由して自分の左腕を首の後ろに巻きつけ、背筋を伸ばすように伸び上がり、そこからさらに両手をクラッチ。
ベネズエラ出身レスラーのサイクロン・アナヤが創始者と伝わる必殺技『アナヤズ・ストレッチ』つまり『肋折り』、要するに『コブラツイスト』である。名前の通り全身に絡み付いた手足は当に蛇のぅぉあ⁈
「ぐおぅっ、い、いでぶっ…」
今度は悲鳴さえ許されることなく、再び顔面を右手が襲う。つまりアイアンクロー式コブラツイストに移行したわけだ。
って止めてくれっ、これでも顔は売り物なんだっ。
遉にこれは本気でヤバい。必死の思いで振解こうとするが……、くそっ、なんて握力だよっ、全く首が動かないっ。
漸く解放され、地面に四つん這いとなったオレを、さらに背後から担ぎ上げる由希。
って、なに? まだ続くのかよ⁈
オレを仰向けにして頭上で抱え上げ、両手で顎と腿を押さえ込み、自分の頭を支点に相手の背骨を痛めつけてくる。つまり今度は『背骨折り』、しかも創始者がアントニオ・ロッカの『ロッカ・スペシャル』、『アンゼルチン式背骨折り』かっ。
よく「ただ担いでいるだけなんだから痛くないだろ」なんて滴われる技だけど、決してそんなわけがない。プロレスみたいな見世物ならそれも有るかもしれないけど、本気で掛ければそんなわけが有るわけが無い。
くそっ、背骨が折れそうだっ。
オレが儡然り としたところで再び解放されたわけだが、当然これで終わりってわけでは無いだろう。
オレの予想が正しければ、ここでトドメの一撃がくる。
そしてそれはその通りに実行された。
オレの肩へとその首許を掛けたかと思うと、両手両足を極めて背負い、体を反らせて痛めつけ?
『ゴリー・スペシャル』⁈
否、ゴリー・ゲレロのあの技は、相手を背中合わせにして上方へ担ぎ上げたあと、相手の左足首を自分の右太腿へ、相手の右足首を自分の左太腿に引っ掛け、さらにハイジャック・バックブリーカーの体勢で相手の右手首を左手で、相手の左手首右手で掴み、その状態で相手を内方向に締め上げることで背中と肩関節へダメージを与える技だ。
でもこれは…。
そう、この技はオレの両腿を掴んで担ぎ上げ、そのまま両足を拘束し……ってちょっと待て、おいっ、まさかとは思うけど……って、うわあっ、マジで跳び上がりやがった。
つまりコレは漫画のあの技だ。そしてこの一連の技の流れは、そのままその漫画のテーマ曲と同じ。
オレは完全にKOされながらも、意識の薄れつつある中でそんなツッコミを入れるのだった。
「ねえ、純くん、大丈夫?」
残念ながら、余り大丈夫とは虚勢えない。
身体中が軋んで今にもバラバラになりそうだ。特に背骨折りの二連発が堪えたのか、背中と腰が激しく悲鳴をあげている。
だと謂うのに、オレはこうして次の行動を余儀なく促されている。
「当たり前でしょ、いつまでもそうして寝てないで、早々と起きないと午後の授業が始まるわよ」
と謂うわけだ。RPGやなんかでお馴染みの蘇生だけれど、こうして考えてみると酷い話だよな。傷つき倒れた者達を無理遣り戦場へと送り返すわけだから。実際ナイチンゲールでそんなネタをやってた奴が在たような、在なかったような…。いや、どうでも縦いか、そんな話。
「あ、思ったより元気そう。
でも、あれって純くんの自業自得だよ。
そりゃあ、純くんの気持ちは理解できないわけじゃないし、それが間違いとは摘わないけど。
でも、だからって周りに気を遣わなくって可いってわけじゃないからね」
いや、ちょっと、なんだよ美咲ちゃん。
オレの味方をしてくれるんじゃなかったのかよ。
って、なんか皆してオレのこと睨んでるし?
「美咲ちゃんの諭う通りよ。
アンタがどんな不満を溜め込んでいるとしても、それで他人に抵たり散らして 可いってことにならないってこと。
次にこんな馬鹿なこと謂うようならこんなもんじゃ済ませないからね」
うぐぅ…。指摘されればそうかもしれない。
でもしかし、この行き場の無い感情はどこに向ければ良いってんだよっ!
……うん、久し振りに兄貴達向けの曲でも作ろう。
※1 本来は『蔭に隠れて』だそうです。ただ、『蔭』が常用漢字表に入らなかったため、『陰』が正しいことになったとのこと。
『影』と紛らわしく困りますが、違いが解れば案外使い分けは楽です。
【影】物体に日光が当たってできた暗闇。
【陰】物事の裏。こちらを説明する時の日の当たらない場所とか闇というのは、要するに喩えです。
そんなわけで、『陰に隠れる』ってのが正解です。
『影に隠れる』が使われるのは精々がファンタジーのスキルくらいのものなので、間違いを認めず、それを強硬的に主張する場合、痛い奴って謗りを受けるのが必然となります。(笑)
※2 ここでは『狂執的』としておりますが『狂疾的』とどちらの表現でいくか迷いました。『狂ったように執着する』ってことで『狂執的』としたのですが、『狂った病の如く』の『狂疾的』も捨て難かったもので…。
どちらも読み方は『きょうしつてき』のつもりなのですが『狂執的』は『きょうしゅうてき』が本当なのかもしれません。まあ、作者としては意味さえ通じてくれればどちらでも良いのですけどね。
※3 この『堅り』という読み方は『隠語大辞典』によるものです。他では見かけられなかったため一般的ではない可能性が有ります。なお、『薄紅梅 (泉鏡花著)』では『厳丈』と当てられているようです。って、「いや、有るじゃないか」ってツッコミはナシで。
因みに、『がっちり』と似た言葉に『がっしり』というものが有りますが、それぞれの意味は次のようなものでした。あと、『しっかり』はおまけです
【がっちり】
組み立てや結合の様子が密接でゆるみやすきまがないさま、また、そのため、骨組みや組み立てが確実で頑丈なさまを表わす。さらに、がっちり握って放さないという意から、抜け目がないさまも表わす。
【がっしり】
体格や建物などの構造を対象とし、強くて、堅固で、頑丈なさまを表わす。
【しっかり(確り)】
堅固で安定しているさま、また、確実、着実であるさまを表わすが、土台や構成、記憶や判断、技術、性質、仕事など、さまざまな事柄に対して用いられる。
[Google 参考]
この文章の場合、『掴む』つまり『組み付く』わけなので『がっちり』となります。
※4 この『儡然り』という当て字に使った『儡』という漢字ですが、『傀儡』という言葉でお馴染みなように『くぐつ』『でく』という意味と読み方が有ります。他にも『儡れる』という読み方が有り、恐らくは『疲れる』という意味。この字の意味として『敗れる』『零落れる』というものが有るため、『負けてボロボロ、相手に抵抗する力も無い』って状態のことかも知れません。
そんなわけで『儡』が『ぐったり』の語源かもと思い『儡然り』と当ててみました。
なお、他作品では『脱然』や『頽然』が当てられたものが有るようです。
[Google 参考]
※5 普通に書けば『八つ当たり』です。
『抵たる』というのは当て字というわけではありませんが、常用外の読み方になります。
『抵』には他に『抵れる』『抵つ』という読み方があり、意味合いはそれぞれ『触れる』『撃つ』となっております。[Google 参考]
そんなわけで、この『抵』とは『触る者みな傷つける』と、どこかの歌の文句みたいな意味合いになるのでしょうか?(笑)
まあ、それは半ば冗談として、『外部からの悪意に抗う』ってのが本当の意味かと思われます。
ということで、ここでの『抵たり散らす』の意味合いとしては、『誰かれ構わず敵視して反発する』って感じです。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




