こんな前向きがあったって良いじゃないか
今回、作中?及び後書きにおいて、良識的に余り好ましくないと思われる部分が有ります。ご注意ください。
【私撰有害図書指定】 当作品は読者に対し、知識、思想、嗜好などに於いて、悪影響を及ぼす可能性があります。ご注意下さい。なお、当方と致しましては、一切の責任を負いませんので、読者様方の自己責任にてお読み下さい。
「ちょっと、純。アンタいったい今までどこで佚ってたのよっ!」
結果、オレが教室へと戻って来たのは二時限目の終わった後だった。
で、着いた途端に由希からのこの言葉なわけだけど、こいつ解っててこんなこと責ってやがる。
もちろん、どこでって質問が本題なんてわけはなく、これは逃げ出したことに対する……否、こいつは一俔 こんな風だけど、そんな無神経な奴ではないからな、普通に授業を佚ったことに対する叱責ってところだな。
一応は心配してくれてたってことだろう。
果然り持つのは友人だ。
「別にどこだって縦いだろう。
確かに授業を佚ったのは良くないけど、殊にはひとりで齷く ことなく裕然り と考え事をしたい時だって有るんだよ」
とは謂っても、それを素直にってのは照れ臭いため、こんな風に憎まれ口を叩いて返すのだが。
因みにオレが居た場所はこの校舎の屋上だ。
今の時期だと寒さが非常に厳しいのだが、この混乱した頭を冷やすのには丁度好かった。
ただ、まあ果然り寒過ぎたってのは確かで、もしそうでなければ昼休憩までああしてあのままあそこに居たことだろうな。
なんとも中途半端と嘲笑するしかない話だが、そんなことに気がいくくらいには頭が冷えたってことで、まあ目的は果たせたのだから、それ以上あの場に居ることも無いわけだ。
頭だけでなく身体の方だって冷えるのだから、当然度が過ぎれば風邪を患う。それは余りに未伴ない話だ。
「まあともかく、こうやって帰って来たってことは、その考え事ってのには答えが出たってことでしょ?」
なんだ、果然り訊いてくるのかよ。
「ま、まあ、一応はな。
とは謂っても、結局は今まで通りなんだけどな。
変に絆されて心変わりとかしてないか、自分ながら心配だったし。
なんとも情けない話だけど、あの香織ちゃんの健気な姿を示せられるとなあ…」
「なんだよ、結局絆されてんじゃないか。
もう一層のこと付き合っちまえよ」
オレの真面目な心情の吐露だったのだけど、河合の反応はこんな呆れたかのようなものだった。
「まあ、気持ちは解るけどね。
てか、あんた、いったいあの子の何が気に容らないってのよ。前からずっと不思議だったんだけど」
朝日奈が河合に同調したかのようなことを言う。
「否、別に気に容らないってんじゃないでしょ。実際、こうして心が揺らいでいるんだし。
これって案外、あと一推し有れば落ちるんじゃない?」
ちょっと待てよっ。せっかく決意が固まったってのに、なんでそんなことを言うんだよ。
「ちょっと美葵ちゃんっ⁈
美葵ちゃんは、純ちゃんと香織ちゃんのどっちの味方なの⁈」
美咲ちゃんが向日の言葉に抗議する。
美咲ちゃんは面白半分の朝日奈や向日と違って、本気で早乙女純の味方のつもりらしい。
「そう謂えば純ちゃんの方はどうなってんのよ?
仮令婉曲だったにしても、あの子からもなんらかの行動は起ったんでしょ?」
そして由希も早乙女純の味方……かどうかは知らないけれど、ことの成り行きは気になるようで、それについて訊ねてきた。
「まあ、確かにな。
でも、こっちはそんなに重たい話じゃないんだよ。
貰ったチョコにしても、友人としての義理だし、それに他の奴らにも配ってるって聞いてるぞ。
例えば夏に知り合った横浜港学園や大阪桐葉高校、それに春日山高校の連中とか。
なんでもお前らに付き合って、大量に作ったからとか説ってたけど」
そう、あいつらにも配ったのだ。基本的には友人として海堂くらいにはと思ったからなんだが、それだと変な噂が起ちかねないので、他の球児達もおまけである。
あと、春日山の奴らは、直江への義理かな。
練習試合の時の義理って理由だと少しばかり弱いのだ。あれは男鹿純として知り合ったのであって早乙女純としてではないからな。そりゃあ、サインは送ったことが有るけれど、それは飽くまで直江と美咲ちゃんのふたりへの義理ってことで、あいつらに対する義理じゃないのだ。
「はぁ……、果然り。
もうっ、純ちゃんってば。これじゃせっかくの手作りも、効果半減どころか台無しだよっ。
ちゃんと本命はそれらしく渡さないと意味無いのに」
うん、まあ当然こうなるか。あれだけ早乙女純に入れ込んでたのだからな。
もちろんオレにその気は無い。
そりゃあ、早乙女純で男鹿純に贈るんだから、実質的には送るに等しい。否、それですらないな。既に自身の手元に有るんだから。でも概念的には贈るで良いのかも。仮令相手が自分自身だとしても贈り物ってことには変わりないし。
美咲ちゃんの嘆きを余所に、由希達からチョコレートが手渡された。もちろんそれは、当然だけど全てが義理だ。俗に謂う友チョコってやつだな。
一応、美咲ちゃんからも貰えたけれど、その視線が冷たかったのは、まあ仕方の無い話だろう。
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昼休憩になると、まあ当然の如く香織ちゃんがやって来た。
オレがチョコレートを受け取ったってこともあって、そのご機嫌振りは普段の倍なんて比較にならない程だ。
例によって差し出してくる弁当を、河合の奴が調子に乗って『愛妻弁当』なんて囃してくれた影響だな。お陰でもう、全然り新妻気取りである。
「否、あ~んはもう以前からだろ」
河合のツッコミを受け、そうだったことに思い至ったけど、でもそれを感じさせない程の新鮮さを感じてしまうのは、果然り香織ちゃんの醸し出す甘弛い雰囲気のせいだろう。
「うわぁ…、もうこれって、勝負あったんじゃないの?」
そんな風に指摘してきた小鳥遊だが、そっちだって似たようなものじゃあないか。
膝許に頭を載せた鳥羽の表情が、表現できない程に弛み切って凄いことになってるし。
…って、ちょっと待てっ⁈
おい、小鳥遊っ、お前のせいで香織ちゃんが負けたかの如く張り合おうとしてるじゃないかっ!
香織ちゃんも止めてくれっ。
膝枕であ~んとか、いったいなんの見世物だよっ。
オレは鳥羽みたいな境地には到ってなんていないんだっ!
……抗うことは無理だった。
いや、だってこの幸福に満たされたような香織ちゃんを前にどう抗えってんだよ。
それに対して美咲ちゃんの視線が刺すように痛い。
まるで裏切り者って罵る声が聞こえてきそうだ。
「……純くんの裏切り者…。浮気者…」
いや、本当に言ってるし…。
それが呟き声ってのが、得とも謂えない 雰囲気を伴っていて、なんて謂うかとにかく怖いのだ。
まさか美咲ちゃんがこんな精神的威圧者 キャラだったなんて…。
…うん、オレは何も聞いていない。アレは全て幻聴だ。そうに決まっている。そうでなくては嫌だっ。
……って、なにかのネタ的現実逃避はこれくらいにして、……うん依然り触れないでおこう。
世の中知らない方が良いことってのは有るのだ。
取り敢えず都合の悪いことは一旦置いといてってことで。
……後ろ向き? それでも前に進むためだ。
うん、だったらこれこそが前向きじゃないか。
よし、それではそれで進んでいこう。
明日は明日の風が吹く。
Take It Easy
Que Sera,Sera
うん、世の中には良い言葉が有るじゃないか。
※1 この『一俔』ですが『一目、俔って』ということで、普通に『一見』という意味です。
※2『齷く』とは『心が狭く小さな事にこだわること』つまり『心の視野が小さくなること』です。『こせこせとする』ってのが類義語になるでしょうか。こちらも『ゆとりが無い』って意味合いです。同じ『狭量』てことで『セコい』と同じ扱いをされやすいので要注意です。
より身近な言葉だと『齪む』と合わせた『齷齪』という言葉が有ります。
『齪む』の意味合いは『慎む』『謹む』とほぼ同じなのですが、『歯の噛み合う音』なんて意味合いが有るため結構不本意っぽいです。他に『余裕無く働く』なんて意味も有り、また、当然のように『齷く』なんて意味も有りました。
と言うか、通常『齷く』『齪む』の意味を調べようとすると『齷齪』の方が出できます。そしてそれら二つの意味合いは、やはり当然のように『齷齪』です。
で、その『齷齪』の意味について調べ直すことに。
その結果は『精神的余裕の無い状態』という意味で、上記と殆ど同じです。
しかし『齷齪』という言葉の意味を、あれこれ齷齪と調べるってのは、なんとも皮肉な話です。
※3 ここでは『余裕』という言葉に因んで『裕然』を『裕然り』と当てていますが、近年『裕然』という言葉は『悠然』にとって代られているようです。
そう言えば以前は『悠然』で『悠然り』と当てていたような気が…。
※4 この『得とも言えない』の『得』ですが、『~することができる』という意味の言葉です。
『得る』としてみれば納得がいくのではないでしょうか。
つまりこの『得とも言えない』とは『言葉にできない程』という意味合いになります。
もしかすると童謡の浦島太郎の曲の『えにもかけない美しさ』っていうのは『絵にも描けない美しさ』ではなく『得にも書けない美しさ』なのかも知れませんね。まあ『表現できない程の美しさ』って意味合いでは同じ意味なので、文章として以外では拘る必要性は無いのでしょうが。
※5 ここではこんな当て字をしている『サイコ』という言葉ですが、一般的には同名映画の影響で『精神異常』『多重人格』みたいな意味合いで使われているようです。
実際『サイコ[psycho]』とは『精神』という意味で『サイコロジー[psychology]』つまり『心理学』を語源とする言葉であることはご存知の通り。
で、このサイコ、もしくはサイコパスの意味ですが、『罪悪感や共感能力が無い人』のことなのだそうです。
……って、なんかヤバいかもしれません。
昨今社会は組織において個人的感情に否定的になりつつあるように感じられるもので。
他にも最近流行りの小説の類いって、主人公にその手のキャラが少なからずみられますし。
案外世の中自体がヤバいのかもしれません。
実際作者もその影響を受けたのか、脳内は結構過激になりかけてヤバい自覚が有ります。
『常識は有るけど良識は無い』なんて考えに理解できてしまうのって、人として本当にヤバいかも。
幸い理解ができるだけで、そういう考えに共感しているわけではないのでセーフだとは思うのですが…。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




