表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
193/420

純、チョコレートに慄く -クピドの悪戯-

 今頃になって、以前のネタの曲の歌詞を考えることになりました。でも作者にはそんなセンスなんて無いので、はっきり言ってお粗末なものなのですが、まあ所詮は素人のやることなんで。

 と、これ以上これに関わるのは恥ずかしいだけなので、話を変えます。

 今回のサブタイトルの『(おのの)く』ですが『(おのの)く』とも書きます。なのに『戦慄』に『く』をつけると『戦慄(わなな)く』となるんですよね。意味合いは同じなのに何故なのでしょうか。謎です。

 2月14日。バレンタイン当日を迎えた。

 学校に着き、教室へ。とその扉を開いた途端、香織ちゃんの襲来(エンカウント)

 当然、設置型の確定工程(イベント)だから避けることは不可能だ。逃げれば絶対に回り込まれることは確定している。3回目で逃走確定なんてことも無い。先程も述べたがこれは確定工程(イベント)なのだから、結果も含めて全てが前以て定められているのだ。

 否、ゲームとは違って現実なのだから、その辺なんとかなってほしいのだけど。


 最近オレのことを恋愛反則者(チーター)多妻者(ハーレム保持者)だなんて()って妬んでいる奴が()るらしいけど、そんなことは他人事だからこそ()ってられるんだってのに。

 そりゃあ美人の女の子に蝶花佞媚(ちやほや) (※1)されるのは悪い気はしなくも無いけど、しかしそれで殺意とも紛うような視線に終始曝されるのは割が合わない。なんてったって自身の望んだことってわけじゃないのだから。

 なのでオレが本当に反則的(チート)だってんならこの状況になんとかなってほしいものだ。

 なんの代償(リスク)も無しで思うようになってくれる。そんな風に全てが円く満たされてこその反則(チート)なんじゃないだろうか。

 つまり、こんな苦悩を抱えている段階で、オレはそんなんじゃないってことだな。


 オレがそんな余所事を考えている間に、いつもの香織ちゃんの抱擁の時間は終わり、そして本命の行動へと移る。

 つまり、チョコレートの登場だ。もちろんそれが本命チョコなのは説明するまでも無いことだろう。


「はい、純くん。バレンタインのチョコレートよ♡

 一生懸命に作った私の渾身の力作よ、是非受けとって」


 丁寧に梱包されたそれを恭しくオレへと差し出す香織ちゃん。

 いつもより、数倍可愛らしく感じられるのは、なんらかの補整でも掛かっているためだろうか。


 だとすると愛の神の加護ってことになるんだろうけど、あの神様ってなぁ…。

 キューピッドって謂えば微笑ましい存在に思えるけれど、やってることは気紛れな縁結びと、意外と迷惑極まりない。

 しかもその名前の『Cupido』の意味ってのが『情熱的な()()』ってことで、余り(あま)る程に積極的。エロスと同一神なのは有名な話で、恋心だけでなく性愛までをも司るってんだから一層迷惑な話である。

 まあ、それでも当人(神?)はプシューケーとの逸話のように、実は臆病な純情者だったりもする。

 対してプシューケーの方はと()うと、彼の姑アフロディーテの出す試練を乗り越えるべく冥府へと赴く芯の強さ。なるほど『心魂(プシューケー)』と称される理由である。

 そんな彼女との間にできた子が『悦楽(ウォルプタース)』という女神ってのはなんの皮肉か。果然(やは)り父親の影響なのだろうか。


 余談はともかく、本当ならばこんな重たい想いの籠められたもの、絶対に断わりたいところなんだけど、なんだか香織ちゃんの背後の女の子達から、得体の知れない圧力を感じて恐い。


「あ、ありがとう」


 その場の雰囲気に屈したオレは、結局香織ちゃんからのチョコレートを受け取ることになった。


 でも、どうしよう。

 こんな物受け取ってしまったからには、余計な深みに嵌まってしまったようなも……のぅぉあ?


「嬉しいっ! まさか純くんが、こうして本当に受け取ってくれるだなんてっ!」


 オレが途方に暮れているところへ、香織ちゃんの再突撃の抱擁が襲ってきた。

 香織ちゃんの予想は間違いではなく、オレに受け取るつもりがなかったのは、先にも述べた通りである。

 まあそれだけに、香織ちゃんにとっては嬉しい誤算だったってことか。

 しかし、常に前向きな香織ちゃんでも、こんな風に不安を感じることって有るんだな。

 否、そりゃあ人間なんだから、それが当たり前なんだけど、でも、香織ちゃんがなあ……。

 うん、そんなの香織ちゃんには似合わないよな。

 オレが好きなのは、いつも前向きで明るい香織ちゃんなんだから。


 …………って、ちょっと待てっ。

 オレはなにを考えていた。

 まさか、本当に絆されてしまったのか。

 こんなチョコレートひとつで?

 否、込められた想いは解っているけど、これはそう謂う問題ではない。

 問題なのは、香織ちゃんになにかをしてもらうことに喜びを感じてしまうようになっていることだ。

 ……まさかな…。

 オレが? 恋愛感情を?


「悪いけど少し、ひとりにさせてくれないか?」


 オレは混乱した頭を冷やすべく、この場を逃げるように離れたのだった。


          ▼


 結局、一時限目の授業を(サボ)ってしまった。

 それにしても、チョコレートって恐ろしいな。

 嘗てオレも『お願い、マジカルチョコレート』なんて曲を作ったけど、当にその歌詞の通りをやってるんだろうからなあ…。



 チョコと一緒に心を砕き、そして一緒に温める

 電子レンジよ力を貸して

 想いもチョコも溶かしてほしい

 お願い、マジカルチョコレート

 想いよ、あの人に届け


 電子レンジで1分半

 熱い想いとチョコレート

 スプーンで優しく混ぜあげる

 滑らかに融けたそのチョコに

 私の想いも溶かしたい

 お願い、マジカルチョコレート

 想いよ、あの人に届け


 蕩けるようなこの想い

 蕩けるようなチョコレート

 ふたつをひとつに形作って

 そして固める冷蔵庫

 チョコは冷たくなっちゃうけれど

 私の想いはより熱く

 お願いマジカルチョコレート

 想いよ、あの人に届け


 お願い、マジカルチョコレート

 想いをあの人に届けて



 うん、思い出すだに恥ずかしいな。

 これを自分で作っただなんて思うと赤面せずにいられない。

 単純なチョコ制作の歌なんだけど、それを作る女の子の想いってのを想像して作った曲だけになあ…。


 この曲を作った時は、「まあ大体こんなものだろうな」なんて軽い気持ちだったんだけど、まさかオレがこうしてチョコレートを受け取る身となって、その想像が自身に降り掛かってくるなんてなあ…。

 しかもそれを作ったのがあの香織ちゃん。

 想いが重いんだよあの子。まあ、本命チョコだってんだから、それも当然なんだけど。


 改めて思う。

 バレンタインって恐ろしい。

※1 以前も使ったこの創作当て字の『蝶花佞媚(ちやほや)』ですが、これは語源の一つに『蝶よ花よ』と子供を大事に育てるさまってのが有ったため、それを『佞媚』と組み合わせて使ってみたものです。

 他には、『ちや』の部分は『おべんちゃら』の『ちゃら』で、『ほや』は『ほやほや』という『嬉しそうに笑うさま』を表す言葉って説も有りました。

 実際、第三者視点だと『持て(はや)されて馬鹿になっている』って状態なんですよね。

 なのでもしかすると語源は『痴や呆や』なんじゃないかって、最近思えてきています。なお、こんな説が有るかどうかは知りません。


※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ