辿り着いてはみたものの
後書きの一部にR指定に掛かる可能性の有るネタが有ります。ご注意ください。
久々に星プロ事務所へとやって来た。
何故久々かって説うと、野球部での練習試合に期末試験と学校での予定が有ったために、この二週間ばかり休みを取らざるを得なかったためだ。
試合で手首を傷めていただけに、この休み期間は幸いしたと謂える。
まあ、仕事にならないってことは無いだろうけど、それでも怪我を隠すのは難しいだろうからな。
ふたりが同じ右手を同じようにってなると、その関連性を疑問視される可能性が有る。
遉に正体がバレるってことは無いだろうけど、それでも不審には思われるだろう。
一応問われた場合には、「早乙女純に特訓に付き合ってもらったから」とでも答えるつもりだったのだが、まあ休みってこともあり早乙女純として美咲ちゃん達と顔を合わせることも無かったので、結局その必要は無くなったんだけどな。
事務所内は高揚感で満ち溢あふれていた。
相変わらずの表現だけど、起ったこともまた同じだし。去年、一昨年と変わらないので表現の方も敢えてそれに合わせて比たわけだ。
てか、今年はもうある程度のことは知ってるんだよな…。
なんてったって、同じ学校に美咲ちゃんと天堂だけでなく、今年は鳥羽が加わった。それにライバル事務所だけど、同じ業界の香織ちゃんまで在る。
なのでそう謂う話題ってのは結構学校でも出てくるんだよな。
決定打 はアイドル同好会の存在だ。嫌でもその手の話は噂で耳に入ってくる。
いや、これだけじゃ察することはできても、正しく理解はできないか。
まあ要するに、今年のタレント人気ランキングが発表されたことを受けてのことってわけだ。
まあまだ確かめたわけじゃないけれど、まず間違いは無いだろう。
因みに解っている結果はと説うと…。
「あっ、純さん!
ランキング2位、おめでとうございますっ!」
と、まあこう謂う結果である。
なお、花房咲は1位。
つまりオレ達リトルキッスで1位、2位を独占と謂う結果だ。
多分、この夏の甲子園での仕事のお陰だろう。高校球児達からの評判が良かったと聞くし、その支持が得られたのだろうな。
それにしても、こうしてレナが我がことのように喜ぶのは少し意外だ。でもまあ、この子は早乙女純を尊敬視しているみたいだからこれも当然なのかもしれない。
否、どちらかと謂えば崇拝だな。以前、早乙女純のことを女神なんて奉ってたし…。
因みにミナの方は花房咲を尊敬視しているようだ。
このふたりは、リトルキッスの双方を女神と称しているわけだ。男鹿純の方にはそんな扱いはしてくれないってのに…。いや、鬱陶しいからしてくれなくても…、否、してくれない方が好いんだが…。
「でも、あの女も3位なんですよね…。
全く、なんて忌々しい。
これじゃまるで、おふたりがあの女と同レベルみたいで、どうにも納得いきません!」
こうしてレナが我がことのように怒るのは少し違う気がするが、まあこの子は香織ちゃんを敵視しているみたいだからこれも当然か。
そしてそれはミナの方でも同じである。
このふたりの中じゃ、香織ちゃんは世間を惑わす邪教の神か女悪魔って扱いなんだろうな。
そう謂えば以前、オレを誘惑する妲己なんて陰口を叩いてたのを聞いた覚えがある。
…って、それだとオレは紂王じゃないか。オレってそんなに信用が無いのかよっ。
「そんな馬鹿なことよりも、ふたりだってなかなかの評価みたいじゃないか」
不愉快な想像を打ち消すように、話題を目の前のふたりに移す。
実はこのふたり、今年デビューの新人のくせにいきなりランキング入りをしているのだ。
レナが38位で、ミナが39位だ
香織ちゃんなんて初年は辛うじての97位だったって聞いているのに。
「そんな。おふたりの記録に比べれば私達なんて」
まあ確かに、花房咲が18位で、早乙女純が19位だったのだから、そんなオレ達が他人のことを評うとなると、どうしても上から発言に聞こえることだろう。
「それにこの結果も、純先ぱ……、プロデューサーのJUNさんのお陰ですし」
レナの謙遜の台詞にミナが続く。
思い返せばこのふたり、あれだけ自意識過剰で生意気だったってのに、今じゃこんなに悄らしく なって…。
苦労して躾けた甲斐が有ったってものである。
でもまあ、ミナの台詞じゃないけれど、オレも結構骨を折ったのは間違い無い。
態々アニメスタジオに赴き、こいつらの新曲を主題歌に捻じ込んだんだから。
お陰でアニメ音楽にまで携わることになっちまったけど。
ともかくアニメとの相乗効果が有ったのだろう、こいつらの知名度は上がった。
ただ、飽くまでもそれは名前だけで、その姿までは知られていないようだったが。
同じ事務所に勤める人間ですら知らないってくらいだったからな。
お陰で学園祭じゃ、同じ事務所所属のサンダーバードのイベントと競演することになったからなぁ…。
本当なら共演のつもりだったんだけど、相手側に拒否されたんだから仕方が無い。
結果、後で織部さんに叱られて、和解するのに苦労することになった。
ここでフェアリーテイルの時と同じことをしたために、また同じ苦労をすることになったのは説うまでも無いだろう。
ああ、サンダーバードと謂えば、そのメンバーの羽鳥翔こと、鳥羽と友人になったんだったな。
一応、怪我の功名ってことになるのだけど、こんなことはもう二度と御免だ。
で、この羽鳥翔のランクだけれど、こいつはランク外である。当然ながら他のメンバーも同じだ。
でも、来年辺りは違ってくるかもしれない。
フェアリーテイルはアニメ効果の人気だろうから、同様に同じアニメの主題歌を歌えば、同じように人気が出てくる可能性は有る。あとはこいつらのがんばり次第だ。
あと、他のオレの知り合いのランキングと謂えば、千鶴さんと瑠花さんか。
このふたりの順位だけれど、千鶴さんが5位で、瑠花さんが4位。
今年も千鶴さんは瑠花さんに及ばなかったようだ。
まあ、それでも多分、その票差は僅かなんだろうけど。このライバル同士のふたりって、スペックは随分と違うくせに、何故だか評価はほぼ同じ程度なんだよなあ…。
まあお互いの敵視の仕方を比べると、納得はいくのではあるけど。恐らく性格の本質に近しいところが有るのかもしれない。少なくとも両者とも負けず嫌いなところは同じだ。
SUCCESSのメンバーや、皐月さんについては知らない。
これまでの情報は、全て他人から聞いた話が源で、自分で確認したってわけじゃないから。
…御堂玲?
こいつは今年も7位だ。順位に変動は無いけれど、それでもトップテン入りをしている。
まあ男性の場合は、二十歳過ぎてからってことだろう。他の上位連中は軒並みそんな感じだったし。
それを考えると、今の時点でこの順位ってのは凄いことなのかもしれない。
ともかくだ。今年もオレ達は絶好調。
遂にオレ達はその頂点に辿り着いてしまったわけだ。
いや、しまったってのは不適切か。
でも、こうして頂点に立ってしまうと、後のことが怖くなる。今まではただ上を目指すだけで可かったのだけど、今度は守りに入ることになるからな。
でも、守ってばかりってわけにもいかないだろう。
歩みを止めれば後続に再び追い抜かれること間違い無しだ。
…てか、オレっていつまで早乙女純でいられるのやら。
いや、決して未練が有るってわけじゃない。
どちらかと謂えば、早いところ引退したいって謂う、その考えは今でも変わってはいない。
なんてったって、声変わりが迫ってきてるわけだし、そうなって正体のバレることを考えると、今でも恐怖で身震いする。
目の前のレナやミナ達は、オレがそんなことを考えてるなんて、欠片さえも思ってはいないだろう。ってか思う理由が無い。
他の奴らも同じだ。
来年の今頃って、オレはどうなってるんだろうなあ…。
※1 ここでは意味合いから『決定打』と当てておりますが、本来は『極め付け』と書き、正しくは『極め付き』という言葉だったそうです。
まあ最近は『最大の○○は』という『評価』の意味合いで使われているようですね。
では本来の意味合いはというと『保証付き』ってことになります。
『極め』というのは鑑定の際、それが確かなものであるとした『極め札』、つまり『鑑定書』のことだとか。
方向性はやや違いますが『札付き』とか『レッテル』ってのとほぼ似たような感じですね。
※2 実は『悄らしい』と書くそうです。
Googleによると『「悄」は心が小さくなる、憂いしおれるという意味を持つ漢字で、「悄気る」「悄然」といった言葉にも使われています。』となっていました。
語源は古語の『萎る』らしいです。それを形容詞化させて『萎らしい』となったのだとか。こちらの場合だと『萎縮』ってことになりますね。
他にも『物の無い山間の女性が旅人に塩をねだる様子』からなんて説を挙げる例が有ったりもするようです。
また、語源とは違いますが『野菜を塩茹ですればこんな感じ』みたいな意見が有りました。
ですが『塩らしい』だと、最近の俗語『塩対応』みたいなイメージが有りますよね。
他にも『汐らしい』なんてものも有りましたが、こちらは誤変換らしいです。
あと、いないとは思いますが『潮らしい』なんて当てるのも、いろいろな意味で間違いです。特に女性に対して使った場合、周囲から白い目で見られることになるでしょう。
なお、何故かの質問は受け付けません。ただ、このネタはR指定に掛かるとだけは言っておきます。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




