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PLEASURE SYNDROME

 春日山高校との練習試合は結局我が校の敗北で終わった。

 オレの投手(ピッチャー)としてのデビュー戦でもあり、一応ベストを尽くしはしたのだが…、果然(やっぱ)り最後のあれだけはなぁ…。

 いや、まあ不完全な変化球で挑んだんだから自業自得だ、仕方が無い。


 そんなわけで、試合後はお互いの健闘を讃え合い、親睦を図ることとなった。もちろん試合中のアレやらコレやらと謂った問題行動や、それに附随したできごとについては敢えて触れないのはお約束である。


「それにしても、まさかあの加藤香織がマネージャーをしてるなんて思わなかったな。

 いや、確かに香織ちゃんの母校だとは聞いてたけどさ。それでも、なあ」


 いや、だからと謂って試合内容について全く触れないのもどうかと思うぞ、春日山高校の部員達よ。


「しかも部の主戦投手(エース)交際し(でき)てたなんて…」

「ああ。付き合ってる男が()るって噂は聞いてたけどそれが本当で、しかもそれが対戦相手の主戦投手(エース)として出てくるなんて、幾らなんでも思わないって」


 (いちじく)の台詞に樋口と両津が続く。なお、吉良は端の方で小さくなって目立たないようにしている。


「なんだよ、そんな遠方でまで噂になってんのかよ。判然(はっき)()っとくけど、それは誤報(デマ)だからな。オレ達はただの友人だよ」


 誰だよ、こんな出任せ話を流した奴は。


「もう、純くんったら。そんなに照れなくたって可いじゃない」


 誤解を正すべく否定をしたが、直後の香織ちゃんのこの台詞(ハグwith頬擦り付き)により、説得力は台無しに。

 もしかしてこの噂って、香織ちゃんが意図的に流してんじゃないだろうな。なんだか知らないうちに着々と外堀を埋められてるような気が…。


「てか、せっかく態々(わざわざ)遠くから練習試合に来てるってのに、その後の話題ってのがこんな話で良いのかよ」


 香織ちゃんの方はどうしようもなさそうなので、話の方を逸らすことにする。


「うん、ごめんね。

 実は打ち明け(ぶっちゃけ )ちゃうと、うちが今回の話を受けたのって、試合の方よりも、その後の方が本命だったのよね。

 ほら、この学校って香織さんとか、花房咲さんが()るでしょ。みんなそんなアイドルと会えるかもって、それを楽しみにして来てたのよね」


 春日山高校のマネージャーの直江……じゃなくって宇佐美……否、 依然(やっぱ)り直江ってことになるのか。

 まあ、ともかく直江の()うには、そう謂うことだったらしい。

 そんな理由で部員同士の親睦の方も程々で打ち切りに。

 おい、そんなんで良いのか春日山高校野球部。


          ▼


「実はうちの野球部って、部員不足で廃部寸前だったのよね。

 まあ、甲子園出場の実績のお陰で少しは部員も集まってくれたけど、それでも果然(やっぱ)り二回戦敗退だから、些細な切っ掛けで辞められたりしかねないし、そんな理由で今回の練習試合はうちとしては慰安企画みたいなものだったの」


 直江により詳しく尋ねたところ、こう謂う事情だったらしい。

 道理でうちみたいな弱小校との試合を受けたわけだ。

 実際、春日山高校の部員の多くは、観戦に来ていた美咲ちゃんのところへ行ってるし…。

 これじゃ来年が思いやられるな。


「ねえ、早乙女純さんはこの学校じゃないの?

 ()たところこの場には()ないみたいだけど」


 ん? なんだ?

 直江の奴、早乙女純になにか用でも有るのか?

 もしかして直江尚人のことで改めての口止めだろうか?

 それならば他言する気はさらさら無いのだが。


「ちょっと、なんであなたがそのことを知ってるのよ⁈」


 あ、どうやら口に出てたらしい。

 まあ、幸い周囲には他に誰も居ないしセーフだよな。

 香織ちゃん? 

 それなら春日山高校の連中に連れられて美咲ちゃん達の所だ。

 随分と未練(がま)しそうではあったけど、相手は態々(わざわざ)新潟から来てくれたファンだぞ。だから敢えて止めることはしない。

 ファンサービス、がんばってくれ。


「あ~、いや、ちょっとな。

 まあオレ以外には知ってる奴は()ないから心配しなくても大丈夫だって」


 直江への返答だけど当然ながら(はぐ)らかした。

 まさか同類だからだなんて()えようわけがないからな。


「それでも、なにか用が有るってんなら伝えるだけは伝えといてやるよ。

 これでもあいつとは結構付き合いが長いからな。

 あ、付き合いったって、そう謂う付き合いじゃないからな。

 まあ、そんなこと()わなくたって解ってるだろうけど、一応念のためな」


 相手が女の子であるだけに、一応は説明しておいた方が良いだろう。女の子ってのはそう謂う話が好きだからな。なので万が一でも余計な噂の根にならないとは限りない。

 ならば当然、そうなる前にその根は絶っておいた方が良い。


 で、直江の用件ってのは、それ程大したことではなく、単に会って覿()たかったことみたいだった。まあ、せっかく来たんだから()るなら会いたいってのは当然か。



 春日山高校が帰って行ったのは日が傾き掛ける頃だった。まあ11月だけに時刻はまだ然程ってわけじゃないのだけれど、それでも新潟に着いた頃には結構な時刻になっていることだろう。

 土産に花房咲と加藤香織のサインを貰ったらしい。多分部室にでも飾るのだろうな。部員集めにおいて格好の、良い道具として活躍しそうだ。


 よし、オレからも早乙女純のサインを贈ることとしよう。

※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。

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