COOL IT DOWN
ただ今ネタに詰まっております。
こんな無理遣りな展開なので果たしてどう決着をつけたものか…。
そんなわけですみませんが、今回も時間を掛けたわりには、ただ無駄に引っ張るだけとなってしまいました。
う〜ん、次はどうしよう…。
愈々始まった練習試合、先攻は来客側である春日山高校だ。
これは態々遠路遥々と新潟県からやって来てもらったことに対する招待したこちら側のお持て成し の気持ちってことらしい。まあ相手が後攻を望むのなら話は別だが、特にそう謂うことも無かったみたいなのでこう謂うこととなったわけだ。
あ、でも、幾らお持て成しだからと謂っても、この試合で負けてやるつもりは無い。これはそんな接待試合ってわけじゃ無いからな。まあ、そんな風に意気込んで挑たからと謂って、それで勝てるとは限らないのだけど……。まあ、それ以前にこちらの方が実力で劣っているんだよなぁ…。
分は大体7対3ってところか。否、がんばれば6対4くらいにはなるかも。
なんてったって一応は同じ高校生だし、如何に甲子園経験有りって謂っても、実際に試合に出てたのは前田、五十山田、九の三人だけ。否、補欠には他にも在たかもしれないけど、でも結局は試合では出てない。なによりも、投手が甲子園の主戦投手の直江じゃなくって、吉良とか称う無名の一年生だ。これならもしかしてって勝算も出てくるってものだ。しかも世間には秘密だけれど、女の直江に主戦投手を任せる程の投手難なだけに、吉良の投手採用は即席って感じが強そうだしな。うちの連中でもなんとかなる可能性は高いかもしれない。
……だからここに打診したんだろうな。弱体化中の甲子園出場校ってことで。
直江の体力は低めだし、そこを狙えば守備は穴って侮ってたってところだろう。
しかも直江は不在と謂う予想外の幸運。もしかしてうちの部員達、いや、他の奴らにしても勝ったとぐらいに思ってるんじゃないだろうか。
……かもしれないな。なんか気づけば周囲に見物の奴らが集まって来てるし…。よく覧れば放送部らしき奴まで混ざってる。
否、この準備の具合からして交ざってるって謂うべきか。これって恐らくはうちの部の奴が召び寄せたのだろう。勝って宣伝するき満々だな。まあ、勝てればの話だけど。
春日山高校だってこっちの思惑くらいは解かってるはずだろうし、それでも今回の話を受けたのだから、負ける気は皆無に違い無い。
でも、勝負に絶対は無いわけだし、なんでこんなリスクばかりが高い試合を受ける気になったんだろう。メリットがまるで思い浮かばない。
まさか美咲ちゃんに会いたいってだけじゃないよな。そんなの観に来るかどうかも解からないってのに。普通に考えれば不在の可能性の方が高い。実際、オレ達リトルキッスの活動が土日祝日が基本なのは結構知られてるはずなんだから、それを承知ならその動機は当て嵌まらないと思う。
じゃあなんで? 全然り解からない。
まあともかくだ、そう謂う理由でオレ達は後攻ってことで、それぞれが守備位置へと向かった。先発投手を務めるオレは、当然ピッチャーマウンドである。
「さて、どう攻めるかだな」
とは謂っても、即席投手のオレに大した球種が有るわけでは無い。なので投げると謂っても当然直球ってことになる。
まあ、相手側がそんなこと知ってる理由が無いだろうけど。
それでも一応、サインの遣り取りはする。
実情を知ってる側からすれば滑稽な話に思えるが、それでもサインには意味が有る。
仮令殆どの仕種が衒術と謂えど、それでも投げる球の凡その位置とその速度についての遣り取りは必要だからだ。
どんな球がくるか解かっているのといないのでは、捕手としても捕球の難易度が変わってくるからな。
で、その第一球のサインだが、外角高めギリギリ辺りを狙う速球との指示だった。
まあ無難と謂ったところだろうな。
その位置って打ち難いと解かっていても、つい思わず手が出るところだし。
それに即席投手でコントロールは不完全なオレじゃ冲撞ける危険性が有る。でも外角狙いならその可能性は小さくなるからな。
そんな理由で、ここなら戦術的にもオレの心理的にも安心できるってわけだ。
ただなぁ…。
「いきなり強打者の前田か…」
こいつって甲子園じゃ、海堂や羽衣石の伊福部と表った、速球派投手から安打を奪った程の実力者だ。とてもじゃないけどオレの付け焼き刃な投球が通用する相手じゃない。大体オレの球速って最高で130km/h程度なんだから、今挙げたふたりの150km/h超には遠く及ばないわけで、しかも変化球で器用に躱すなんてこともできないんだから当然だよな。
できるのは精々が緩急を付けるくらいで、後は球の荒れるに任せるくらいだ。
「ええい、ままだっ」
他に選択肢なんて無いのだから、ただオレにできることをするだけだ。
そんな理由で捕手の要求通りの速球を放つ。
恐らく球速は120km/h前後ってところだろう。海堂の教え通りの正しいフォームで投げられたはずだからな。
そう、今の投球は海堂直伝のオーバースロー投法で放ったものだ。
これにアレンジを加えたサイドスロー紛いな投法も有るのだが、そっちは身体への負担が大きい。濫用すれば即続投不能となること間違い無しなのでいきなりってわけにはいかないのだ。切り札ってのは切ってしまえばそれで終わりだからな。
第一球の結果はボール。少し外側に外れたようだ。
しかし、前田の奴め。涼しい顔で見送りやがった。
これが実力の差と解かっていても、果然り口惜しいものは口惜しい。己の実力不足が口惜しい。
いや、落ち着け。こんな程度で腹を立ててはこの先なんて務まらない。ここは冷静で有るべく努めなければ。
深呼吸をして興奮を鎮める。
くそっ。まさかこんなところで、いきなり精神を掻き乱されるとは。しかも前田には全然りそんな意図は無さそうだし、オレの完全な一人相撲だ。そこが余計に腹立たしい。
……って、落ち着け。冷静に! 平常心だ!。
再び深呼吸。
ああ、このままじゃ泥沼だ。
だからもう一度深呼吸。
この頭を鎮静化だ。
これこそがこの場に見出す乗切り方法であり、活路だ。
数多の困難には冷静さで臨むべきだ。
歌の詞じゃないけど逃げられないって状態だからな。まあそんな気は毛頭無いけれど。
よし、気分の切り替え完了だ。
まあ、その手段ってのがいつもの現実逃避なのはアレだが、でも今回はそれで前向きになれたんだから良しだ。
まあ、実際はなにも変わっていないのだが、それでも頭を冷やすって効果は有ったんだからそれで可い。
さあ、改めて勝負だ。
※1『もてなす』という字を漢字にすると『饗す』となるようですが、『おもてなし』となると『お持て成し』となるようです。因みに語源は『以って成す』だとか。
他にも『接す』『遇す』なんて字が有りますが、どちらも一般的な読み方ではありません。
なお『饗す』は食事限定の意味合いで使うみたいです。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




