贅声 -they say-
今回のサブタイトルは中国ドラマ『贅婿~ムコ殿は天才策士~』が元ネタです。
まあ相変わらず内容は伴っていませんが…。
今回のサブタイトル『贅声』の意味合いは『余計な噂』って感じで、『they say』の方も『世間は言う』ということで、こちらも『世評』って意味合いです。
このところずっと調子に乗って、語感だけを真似たサブタイトルを続けてますが、これってパロディってことになるのでしょうか?
タイトル詐欺だなんてツッコミをもらわなければ良いのですが…。
「突然のご訪問の御無礼、申し訳ありません。『JUN』さんや咲さん、御堂さんにおかれましては、御機嫌麗しそうでなによりです」
学園祭を終えた振り替え休日の翌日、オレ達の元へ一人の男子が訪れて来ていた。
でも、誰だっけ、こいつ?
いや、どこかで会たことが有るような気はするのだが…。
「なんだ、こいつ? 邪俔に遜った態度だけど、なんか弱みでも握って脅したりしてんの?」
河合が怪訝な目で俔るのも当然だろう。それは明らかに屈り卑るって感じで、傍から観れば如何にも恫喝しているようにも察えることだろうから。
でも、当然ながらオレ達にそんな気は毛頭無い。
「へ? えぇっと…。
ねぇ、純くん。もしかしてこの子になにかしたの?」
「ちょっと美咲ちゃん、それってどう謂う意味だよ⁈
外聞の悪いこと拡わないでくれってんだ。もしかして日頃からそんな目でオレのこと評てたのかよ。
大体オレには、こんな風にされる覚えは全く無いってのに…」
心外だ。まさか美咲ちゃんからこんな言葉を聞くなんて。
「そりゃあ当然でしょ。日頃の行ないのせいなんだから。
で、今回はなにをやらかしたのよ?」
由希もかよっ。全くオレの周りの奴らって…。
全く酷い迷惑だ。何故か周囲も同じような目でオレを俔てるし。
こいつ、もしかしてオレへの嫌がらせでやってるんじゃないだろうな。
「ちょっとあなた達、純くんに対して失礼でしょ。
抑々純くんにはそれだけの人望が有るんだから、なにも可怪しなことじゃないでしょ。今回はそれを認める人間が現れたってだけの話じゃない」
いや、香織ちゃん、そのフォローしようって気持ちは嬉しいけれど、それって全く効果無いから。それって傍からすれば、ただの太鼓持ちの女幇間 だから。
「それより、いったいどちら様で?」
話の流れを修正するべく、相手が何者かを訊ねる。
逸らしたんじゃなくって修正だ。だってこいつはオレ達になにか用が有って来たんだろうから、そっちに話を戻すのが正しいだろ。
「なに晦ってのよ。『サンダーバード』の『羽鳥翔』くんじゃないの」
……ああ、そう説われれば確かにそうだ。斑目に摘われて思い出した。
そう謂やこの前会ったばかりだったよな。
まあ五人の中の一人って感覚なので、よく顔まで覚えてなかったけど。増してや名前なんて今初めて聞いたんじゃないだろうか。
「あ、いや、失礼しました。
確かにこうして直に御挨拶するのは初めてでした。
それでは改めまして。
『サンダーバード』のメンバーの一人で『羽鳥翔』こと鳥羽翔太と申します。皆さんとは縁有ってか、同じ学校の一年F組で学ばさせていただいております」
同年代くらいだろうとは思っていたけど、オレ達と同じ歳だったらしい。
いや、だったらなんでこんなに卑屈な態度なんだよ。
……そりゃあ、例の一件の影響は有るだろうけど、でもこいつが悪いわけじゃないってのにな。
くそっ、どうにも気持ちが悪くて落ち着かない。同年代の奴からこんな扱いを受けるなんて。
オレはこう謂う交友関係なんて望んでない。可能なら誰とでも対等な関係を築きたいんだ。
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「なぁ、なんであいつは美咲ちゃんや天堂でなくって、お前に従いて纏るんだ?」
あれから数日、羽鳥……いや鳥羽か、ともかくこいつが行く先々に現れるようになった。それはもう、暇さえ有ればって感じで、その出現率の高さは香織ちゃん並みだ。
「さあな。もしかすると例の件で、フェアリー達を嗾けたのがオレってことでなのかもしれないな」
実際それで間違い無いだろう。
一応は和解しているのだが、『JUN』の影響力の大きさに全然り畏縮 しきったってところだろうな。
「なんだよそれ。そう謂うのって『虎の威を借る狐』 ってんだろ?」
まあ、河合じゃないけど、世間一般からすればそう謂うことになるだろうな。
「それはちょっと違うな。オレの場合は狐じゃなくって歴とした獣使いだし。だからあいつらは調教済みの虎ってことになるわけだな」
いや本当、調教ってのは実に謂い得て妙だよな。実際、随分と手を焼かされたわけだし。
で、それだけ手塩に掛けて育てたわけだから、無下に扱われれば腹も立つ。今度の一件はそう謂う理由だし。
……うん、至極当然で間違い無い。決してオレに非なんて無い はずだ。
「はっ、吐戯いてろ。
でも、確かにあの子達って随分と男鹿に懐いてるもんなあ」
「だったらその責任ってものが有るでしょ。
他人に嗾ければ苦情が来るのは当たり前。保護者を気取るならその辺のことは確りと自覚しておくことね」
河合はともかく、由希のこの辛辣な台詞はどうなんだ?
こいつだって一応はオレ達に賛同し協力だってしたはずなのに、ここにきて善良風るってのはどう謂うことだ?
「そりゃあ今回はちゃんとした許可は貰ったんでしょ。
それにアタシ達は、自分達の模擬店でできる限りを尽くしただけだし、なんの問題が有るってのよ?」
なんだと? それってオレが散々主張してきた理屈じゃないか。
なんでオレを責めてた側がその理屈でなんだよ。それならオレは責められる理由なんて無いじゃないか。
「なにを逃ってんのよ。アンタにはあの子達を嗾けた責任が有るでしょうが。
それともなに? あの子達に責任を押し付けようって遁げようって気なわけ⁉
アンタまさかそれが男のすることなんて思ってないでしょうね⁉」
馬鹿な⁉ なんでそうなる?
悪いのはあのマネジャーと運営委員の女だろう⁉
い、いやしかし、確かにあいつらの責任を問えば、その怨みの鋒先は果然りフェアリーテイルにも向くのか…。
つまり由希の指摘はそう謂うことなのだろう。
だったら確かにその責任は負うべきだな。
「確かにそうかもな。それについてはオレに責任が有るだろうな。
でも、それ以外についてまでは知らないぞ。
もしそれを摘うんなら、お前らだって共犯だ」
「なによ、男のくせに器の小さいことを」
なんとも小憎らしい台詞ではあるが、由希も一応はこれで納得したってことだろう、これ以降の文句は出て来ない。
他の奴らもまた同様で、特に異論無さそうだ。
「遉は純くん、なんて後輩思いなのかしら」
いや、ちょっと香織ちゃん、その台詞はヤバいから。一応『JUN』の正体は秘密なんだから。
まあ中学の後輩ってことで誤魔化せるとは思うけど。
「そうですね。清濁併せ呑むこの器は大きさは遉です」
あと鳥羽も、その追従は止めてくれ。鳥肌が立つ。
まあ今は注意しても無理だろうから怺えるけど。
でも本当、こいつだけでもなんとかしないとヤバそうだ。これじゃ全然り舎弟扱いだし。
もしこんなことが織部さん達の耳に入りでもしたら……。
……うん、早めの対処が必要そうだ。
でも果然りオレから歩み寄ることになるんだろうなぁ…。
さて、どうしたもんだか。
※1『幇間』とは、宴席やお座敷などの酒席において主や客の機嫌をとり、自ら芸を見せ、さらに芸者・舞妓を助けて場を盛り上げる職業のことで、歴史的には男性の職業だそうです。幇間は別名『太鼓持ち』『男芸者』などと言い、また敬意を持って『太夫衆』とも呼ばれたとのこと。[Google 参考]
『幇間』は、文字の意味からすれば『間を幇ける』ってことで『仲介役』ってことなのですが、それが具体的に『太鼓持ち』ってことになると、余計な演出が鬱陶しいってなることも少なくないんですよねぇ…。
※2 この『畏縮』と似た言葉に『萎縮』ってのが有るようです。違いは次のようになります。
【萎縮】元気が無くなる。萎え縮む。
『萎』が『常用漢字』に追加されるまでは『委縮』と表記されていました。
【畏縮】畏れ縮こまる。恐怖で萎縮する。
[Google 参考]
そんなわけなので『畏縮して萎縮する』なんて文章も成り立ちます。なお、この文章の主語については想像にお任せします。
※3『虎の威を借る狐』ってのは、ご存知『戦国策』の『楚策』で、これは前漢末の『劉向』による編纂らしいです。四字熟語だと『狐仮虎威』とか『狐借虎威』というようです。[Google 参考]
その内容は次のような感じです。
荊の宣王「なんか諸国の連中が、宰相の昭奚恤が凄いって言ってるけど、あいつってそんなにヤバいの?」
家臣の江乙「まさか。あれは虎を背後に眼前の動物達を威して、虎に自分が凄いって勘違いさせいる狐みたいなもんです。
諸国が動物達で奚恤が狐、本当に凄いのは虎である王様でございます」
そんなわけで、宰相の威厳も王様の率いる兵権が後ろにあってこそだってことなんですが、深読みすると王様だって兵達が従ってこそって皮肉も有りそうな原文だったりするようです。
※4 この『非が有る』ですが『否』と間違い易いので注意が必要らしいです。『否が有る』とは言わないそうです。
ただ、場合によっては『否が有る』ってのが有るってことらしいですが…。かなり婉曲的表現ってことらしいです。[Google 参考]
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




