学園祭二日目 -驚客行-
今回のサブタイトルはドナドナにしようかも思ったのですが、まだ例のネタが有りました。
そんな理由で今回は『驚客行』です。
元ネタはやはり『金庸』の武侠小説『侠客行』です。
もちろんこれもドラマ化される程の人気作品。1989年のドラマでは梁朝偉が主役なんだとか。ただ、日本未公開なのですが…。もちろん日本公開のものもあり、2001年の呉健主役の作品は全40話と結構な長さで見応えありです。
因みにこの作品の主人公の少年『狗雑種』は文盲だったりするので、今回のオチにはめちゃくちゃな当て字を作ってみました。性質的には正反対なのですが、まあ意味不明ってのが共通ってことで…。
香織ちゃんのクラスの催す模擬店への訪問は、半ば貸し切り状態で、香織ちゃんとふたりっきりと謂う蜜月状態。
否、正しくは他のクラスメイト達が看守っているのだが、それ故に余計居心地が悪い。実際給仕に託けて素見しに来るやつも在たわけで……、要するにクラスの総意でオレと香織ちゃんを交際させようってことらしい。
つまりクラス公認ってことかよっ。
そんな状況だったところに突如現れたのが伊藤瑠花。我が校の卒業生にして、香織ちゃんの事務所の先輩アイドルだ。どうやら彼女はオレを値踏みするべくやって来たらしい。
そんなわけで、そこからは彼女からの質問攻め。ただ、何故だかそれは途中から恋愛相談っぽくなってきて…。
いや、確かにそれは有意義だったと思うのだが、但し前提が当然ながら香織ちゃんとのより親しい交際ってのはお約束。だって彼女は香織ちゃんの姉的存在だから。
と、ここまでが前回のあらすじ。
いや、誰になんのためって指摘したくなるところだけど、現実逃避もしたくなる。だって香織ちゃんの嬌態に加えて瑠花先輩からのこれだ。そしてこの場を用意したのがこのクラスの連中だけに、他者からの助けってのは期待できない。
もう、どうしろってんだか。とにかくここは只管堪えて凌ぐくらいしか方策は無い。
ん? なにやら表が騒がしいみたいだな?
オレがこんなことに気づいたのは、果然り現実逃避のお陰であろう。
で、その騒ぎはだんだんとこちらの方へ。
そしてその主とは…。
「ええっ⁈ さっ、皐月先輩っ⁈ それに弥生先輩もっ」
そこに在たのは、我が星プロの演歌歌手の如月皐月とそのマネジャーの如月弥生。瑠花先輩じゃないけどなんでこのふたりが?
いや、後ろにカメラやらなんやらのスタッフが従いてるところからなんらかの仕事なのは理解できるのだけど…。
……って、ちょっと待て。「皐月先輩」に「弥生先輩」⁈ もしかして瑠花先輩の個人的知り合いだったりするのか?
いや、先輩って呼ってたし、つまりそれってもしかしてここの卒業生ってこと?
「あれ? 留美ちゃんじゃない。なんでここに?
なにかのお仕事?」
よくは解からないけど、随分と親しい仲らしいな。意外にも瑠花先輩がやや圧され気味な感じだが、いったいどう謂う関係なんだ?
「否え、今日は休養日なんで、後輩の香織とその友人に会って馴ようかと思いまして」
『会って馴る』って、それって恐らく『看る』って意味だよな。もちろん『試る』って意味合いも有るんだろうけど、そこは最初から問題無しでただの確認っぽくって、実際は世話焼きに来たってことなんだろうな。もちろん余計なお世話である。
「その友人って、もしかしてそこの子のことかしら?」
弥生さんからの指摘にオレへと視線が集まる。
「あれ? もしかしてあなたって純くん?」
弥生さんが気づくんだから、当然皐月さんだって気づくよなあ。
「あ、どうもご無沙汰してます」
できれば放置してほしかったのだが、こうして声を掛けられたからには白逸くれるってわけにはいかないだろうなぁ…。
「へぇ…、純くんってばモテモテじゃない。
でも本命はリトルキッスのふたりなんでしょ?
まさかそこから乗り替えるなんてことはないわよね?」
弥生さんの視線が怖い。これって果然り釘を刺されているんだろうな。
「それは…」
「あら、そうなんですか?
でも、あのふたりって飽くまで純くんは友人って感じで、それ以上って感じじゃなさそうですよ。こうして私達か仲好くしてても特になにも問題無さそうですし。それに最近、早乙女純には彼氏ができたって噂じゃないですか」
オレが弥生さんに弁明しようとしたところ、口を挿んできたのは香織ちゃんだ。
てか待てよ。これってカメラが従いてるってのに解かってやって……るんだろうな、少なくとも香織ちゃんの方は。幸いなのは、ここではまだ『JUN』の正体についての話が出てきていないことだけど、そしてお互いに相手がそのことを知ってるってことを知らないことか。
でもこうしてやり合ってると、そのうちボロが出かねないので止めてほしいところだ。
オレは自身が表舞台に出ることは望まない。と謂うか都合が悪いってのに。
「そんなことよりも、なんでこの教室なんですか?
同じ事務所の『花房咲』のクラスなら隣の教室ですよ」
取り敢えずヤバいことにならないうちに、ここは話を逸らすことにする。
「それは私が一年生だった時のクラスがここだったからよ。
でも、そう謂うことならあとでそこも訪に行って験ましょうか。
せっかくだし、留美ちゃんと純くん達も一緒に案内してくれない?」
「すみませんが私は模擬店の方があるので」
最初に断わっったのは香織ちゃん。
まあ、そうだろうな。このメイド喫茶の主役はなんと謂っても香織ちゃんだ。抜けるなんてわけにはいかないだろう。増してや午前中はこうして貸し切りなんて個人的願望を叶えてもらってるわけだし、これ以上ってのは無理ってものだ。
「あ、すみませんが私もお供できません。
今日は香織の相談事のために時間を作って来たもので、なので今日を逃すと次はいつの機会になるか解からないもので…」
次に断わりを入れたのは瑠花先輩。
って、あれ? 今日の来訪目的ってオレに会うことじゃなかったの?
否、確かに香織ちゃんの相談に乗るってのも間違いじゃないんだろうけど、なんか体宜くって感じがするのは気のせいだろうか?
「じゃあ純くんだけってことね。
もちろん一緒に来てくれるんでしょ?」
最後はオレ。でもこれは当然ながらオレの台詞じゃない。
これって、一応オレの許可を取ってはいるけど、実質オレの意思は無視ですよね、弥生さん。
明らかになにかを言いたそうだけど、それをさせようわけにはいかない。それって絶対この場じゃヤバい話だ。
「はい、予牢梱で…」
気分はもう返答にめちゃくちゃな当て字を宛行うレベル。意味合いは『予め牢に梱される』ってことになるのか? つまり『出荷前の子牛』だな。ドナドナがテーマ曲で流れてきそうだ。
弱みが有るってのはこれだから辛い。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




