学園祭二日目 -異端覩龍-
今回のサブタイトル『異端覩龍』は『倚天屠龍記』のパロディのつもりです。もちろんタイトルだけですが、なんとか3部作に合わせました。……否、こちらはまだ続くので3部作に収まらないのですが…。
サブタイトルの意味合いは『異端、龍を覩る』って感じです。ここの『覩る』は『見る』くらいの意味合いでOKです。
「そうよね。その内、比翼連理なんて謳われるような、そんな恋人同士になれたら好いわね」
勘弁してくれよ。オレにはまだ恋愛とか考えるような感情は芽生えてないんだから。
いつものように香織ちゃんが口説いてくるわけだが、今回はどう回避しよう。
いや、ここは昨日のことを謝るのにちょうど宜い機会か。
「それって昨日のアレのことよね。
そっか、アレって純くんが関わってたんだ」
香織ちゃんがオレの説明を直然りと受け容れたのは、果然りJUNの正体を知ってるからだろう。
それだけに、その後の質問は当然で……。
「ははは…。それに関しては散々に上から怒られたよ。でも後悔はしてないかな。なんてったってあいつはフェアリーテイルを馬の骨扱いしてくれたわけだからな」
否、正しくはマネジャーじゃなくって運営委員の女の方なんだけど。
「そりゃあ最初は実績どころか大した実力も無い、ナマイキなだけの身の程知らずだったけど、今は十分そこのところは弁えてるし、それだけのものも具えつつあるんだ。そう謂う努力を積み重ねて漸く世間に『リトルキッスの妹分』って認知されてきたってんのに、無名の新人にあんな侮蔑的扱いを受けるなんて許せる理由が無いからな」
まあ、ナマイキなのは変らないけど、可愛い後輩だ。それをこんな風に扱われて黙って過ごせる程にオレは人間ができてないんだ。
「知らないとは謂えその人も馬鹿なことしたものね。選りにも選って純くんに喧嘩を売るなんて」
まあ、確かにな。自分で誇うのも自画自賛みたいだけど、それでも一応はオレもそれなりの立場にはなってるからな。……まあ、見習いだけど。
「前から思ってたけど、純くんって結構ツンデレよねえ。
でも、そこが可愛いくって良いのよねえ。
ねえ、偶には私にも少しくらいデレて験ない?」
……つ、ツンデレだと…。
確かツンデレってのは、普段は薄情な奴が稀に温情的に振る舞うってやつだよな。恐らくは感情表現が苦手な奴のことなんだろうけど…。
でもなぁ…。それって別の解釈だと感情を制御してるってことにもなるんだよなぁ。いわゆる鞭と飴って謂うか、公私の使い分けって感じ?
オレのイメージする男性像ってのが大体こんな感じで、厳格にして義侠心に厚い、まあ読み物なんかによく出てくる弱きを助け悪きを挫く英雄だな。
「へぇ〜、そう謂うことだったんだ」
オレが最近癖になりつつある現実逃避をしていると、突如背後から声が。でも、この声って…。
「あ、瑠花さんっ! 来られてたんですか?」
そう、香織ちゃんの言う通り、そこに在たのは伊藤瑠花だった。我が校の卒業生にして元生徒会長。そして香織ちゃんの事務所の先輩であり、芸能界屈指のトップアイドルだ。ついでに千鶴さんの好敵手的存在。
いや、そんなことよりも彼女は昨日の音楽ステージの特別ゲストだった人物である。
「ちょっと、あの女と同列に語らないでもらえない?」
……初対面での二言目の台詞がこれか…。本当に千鶴さんとは反りが合わないんだな。てか、ここまで意識してたんだ。どう比べても差が大きいと思ってたのに…。
「ふ〜ん、なるほどね。なかなか人を察る目は有るみたいじゃない。
あなたが香織の想い人の純くんね。
今さらだけど、伊藤瑠花よ。宜しくね」
……あ、これは案外同レベルなところが有るかも。
「どこがよっ! 注ったわよね、あの女と同列に語らないでってっ」
瑠花先輩はどうやら随分とご立腹みたいだ。
「はぁ……。まさかあの伊藤瑠花がこんな人物だったとは…。
いろんな人の評価や、数々の実績から相当な人物だろうと思ってたけど……。
否、その評価は今も変らないんだけど、こうして実際に接して覿ると……、うん、極普通の年齢相応の女性だったんだな」
まあ当然か、どんなに凄くても現実なんてこんなものだ。お陰で変に意識しなくて済む。
「随分な態度ね、いきなり本人の目の前で、その評価を口にするなんて」
しかし、こんなところまで似てるだなんて…。
好敵手ともなると共通点ってのができるものなのかな?
「気に障ったんなら謝りますよ。それと昨日の件も。フェアリーテイルのことで迷惑を掛けたみたいですし」
「でも後悔はしてないんでしょ?
それに本当は悪気も無い。
だってあなた達は自分のクラスの出し物を催しただけだし、外部からの協力が有ったとしても、それは別に禁止されているわけでもない。
事実アイドル同好会は私達を召んでるわけだし問題は無いでしょ?」
うわぁ…、この人果然り元生徒会長ってだけあって相当強かだ。まさかこんなに直然りこれを受け容れるなんて、なんて器量の大きいことか。
……もしかして似たようなことをやったことが起るんじゃないだろうな…。
それともそんな輩を真正面から叩き潰してきたのか…。
オレも異端たる自覚は有るけど、しかしこの人はそんなの気にならない程の大物ってことなのだろう。
……い、否、それでもこの人は、あの千鶴さんと同レベルの人のはず……、ここで怯む必要は無いはずだ。
「でも、香織じゃないけど、サンダーバードの子達は気の毒ね。あの『フェアリーテイル』を敵に回すことになったんだから。
確かあの子達のプロデューサーって、香織の好敵手の『リトルキッス』と同じなんでしょ?」
……香織ちゃんの好敵手ね。
まだリトルキッスではこの人にとっては役不足ってことか…。
でもこの人で漸く人気ランキングの3位なんだよなぁ…。
アイドル界の頂点ってのは険しいな。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




