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学園祭初日 -射鳥迷雄伝 -

 今回もサブタイトルもまた、中国の武俠小説で、『金庸』の『射鵰英雄伝しゃちょうえいゆうでん』という作品のパロディです。

 この作品もやはりドラマ化されており、その人気は何度かリメイクされる程。日本でも徳間書店から日本語版の漫画全19巻が発行されている程の人気ぶり。もちろん徳間文庫の活字版だってあります。興味のある方は是非。

 レナ達に模擬店の手伝いを頼んだオレは、駄目押しの一手を求め校外へと飛び出した。

 物資調達の名目なのでとやかく()われることも無い。

 それじゃ(サボ)る奴もでてくるだろうと謂われるところだが、実際はそう謂う奴は極少数。だって普段とは違って、校内に()さえすれば、遊んでようが何をしようがそれで可く、積極的に催事(出し物)に勤しむ必要は無いのだから。

 実際、オレのクラスメイト達(クラスの奴ら)も半分以上は他のクラス等の催事(出し物)を愉しみに出掛けているか、教室で時間を潰しているかだ。

 残りの奴らも天堂のように他所の催事(イベント)を手伝っているか、美咲ちゃんのように個人的用事に使っているかで、オレのように真面目に催事(出し物)に勤しんでいるのは極一部だ。

 まあ、公式には、これから(サボ)りってことになるのだが……。



「まあ、仕方が無いよな。体がふたつ有るわけじゃないんだし…」


 追加となる商品を抱え、オレは学校へと向かった。……学生服から着替えたのちに…。


          ▼


 手持ち鞄(トートバッグ)を肩から掛けて、オレは正門を通過(くぐ)った。

 いや、仕方が無いだろう、これって結構大きいんだから。それにそう謂う仕様(デザイン)みたいだし別に可怪しくはないはずだ。

 う〜ん、それにしても、まだ入り口付近だってのになんとも賑やかなことか。

 お陰で今のオレに注目する奴は()ないようだ。

 ()し、今の(うち)に先を急ごう。気づかれでもしたら厄介だからな。

 否、気付いてもらった方が好いのか?

 そうだな。客寄せも兼ねていくか。


「ちょっとすみません、これってどの辺りか解かりますか?」


 不自然にならないように気をつけながら、手近な人物に声を掛けた。

 当然、案内を頼むんだから、相手はこの学校の在校生だ。


「ここだったら……って…。

 ええぇっ⁈ もしかして早乙女純⁈ 嘘⁈」


 いや、(さすが)にこれは大袈裟だろう。

 この学校には美咲ちゃんが、つまり『花房咲』が()るんだから『早乙女純』が学園祭に来たところで決して可怪しくはないだろう。と謂うか自然な話だと思うんだが?

 つまりなんだ。今のオレは『早乙女純』としてここに()()()()わけである。


 この子が声を上げたことで、オレ達に注目が集まった。

 果然(やは)り女子に声を掛けたのは正解だ。

 こう謂うのって男なんかよりも女子の方が向いているからな。

 ただ、集まって来るのは、多くが男なのは仕方が無い。先程も()ったが今のオレは()()アイドル『早乙女純』なんだから。

 ただ、集まって来る中に女子が()ないわけじゃない。なので今声を掛けた子に他の女子を捲き込んで、それを頼りに模擬店までってことにする。

 ……別に疚しい下心が有ってって理由じゃ……ないって()い切れないか…。彼女達を人寄せ(サクラ)に仕立てようって謂うんだから。

 ただ、卑猥(いやら)しい下心は全く無い。否、そりゃあ少しくらいは、男よりも女の子の方がなんて思わないわけじゃないけど…。だって男に囲まれたところでなぁ…。


          ▼


「よう、がんばってるようだな。なかなかの繁盛振りじゃないか」


 出店はなかなかの盛況を呈していた。

 まあ美咲ちゃんが合流しているみたいだし、それならば当然だろう。

 否、それだけじゃなさそうだな。レナとミナのふたりの手伝いの影響も大きいようだ。まだ中学生で今年デビューしたてではあるが、それでも果然(やは)りこいつらもアイドルってことなのだろう。尊大な(でかい)ことを()ってただけのことはある。


「え? 純ちゃん⁈ 来てくれたの?

 もう、だったら()ってくれたら好かったのに」


 美咲ちゃんが驚くのも無理の無い話だ。オレだって今回のことが無かったらこんなことをするつもりなんて無かっんだしな。


「聞いたぞ。レナとミナも手伝っているんだってな。

 まあ今回はお前らが発端だしそれでってことだろうけど、それでも一応あいつや美咲ちゃん達に代わって礼を()っておくよ」


 オレに先()ち合流していたこいつらにも労いの言葉を掛けておく。


「え? それってもしかして……純先輩からですか?」


 あ、ちょっと説明不足だったか。

 でもまあ、質問してきたレナには伝わってるみたいだし、このまま話を進めてしまおう。


「ああ、ただまあ、あいつはちょっと事情が有って、今はまだここに来れないけれど、代わりに秘策を預かってきた。

 レナとミナのふたりはここからが本番だ。あいつらを()返して (※1)やるんだろ?」


          ▼


「ちょっとっ! どう謂うこと⁉」


 オレ達の出店へと運営委員が乗り込んで来た。

 アイドルステージの舞台裏に()たあの女だ。サンダーバードのマネジャーも一緒だ。


「ええっと、なにか?」


 斑目が不思議そうに対応する。

 舞台裏(あの場)に従いて来てたわけではないが、それでも事情は知ってるってのに、全くなんて自然さだ。

 こいつって結構緊張とかには弱い性格(タイプ)だと思ってたのになぁ…。


「「なにか?」じゃないわよっ!

『フェアリーテイル』がここで歌ってるって聞いて来たら、本当にそうじゃないっ!

 そんな許可が出たなんて聞いてないわよ!」


 そう、彼女の()う通り、レナとミナのふたりはオレ達の出店の店頭で『フェアリーテイル』の曲を歌っている。

 その曲はアニメ『魔法少女マジカルリリー』の主題歌ってこともあり、ふたりが何者かをきづかせるには十分過ぎる程の効果が有った。曲名も同じ『フェアリーテイル』だしな。


 ふ…、これこそがオレの秘策の正体だ。


「へ?『フェアリーテイル』?

 それってもしかして、この子達のこと?」


 ああ、そう謂えば斑目には()ってなかったっけ、こいつらのこと。

 まあ、JUN(オレ)の正体にも関わる話だったし、その辺はある程度(ぼか)して説明してたからなぁ…。


「え? あの子達って、もしかして……。

 嘘っ⁈ この子達ってあの時のあの子達⁈」


 (ようや)く事態を把握したのか、一緒に来ていたサンダーバードのマネジャーに慌てて確認を取る運営委員。


「えっと、レナちゃん達ならちゃんと許可はもらったって()ってたけど」


 ここで追撃の美咲ちゃんが登場。

 運営委員にとってはまだ学校生徒の一人『花村美咲』かもしれないけれど、サンダーバードのマネジャーにとっては、自分の所属する事務所の看板アイドルの『花房咲』だ。

 そしてその傍にはこのオレ『早乙女純』が()るわけだ。格ゲーで謂うならば連続技(コンボ)が入ってるってところか。

 ならばここで決め技(フィニッシュ)だろうな。


「あ、『J()U()N()』からもちゃんと聞いてますよ。態々(わざわざ)直に頼みに()ったって」


 美咲ちゃんに続きオレからの追撃も加える。

 さらにマネジャーの耳許で窃然(こっそ)り囁く。


「でもこのことは内緒(オフレコ)で。()()()()()()()()()ってのは聞いたことが有るでしょ?」


 (さすが)にこれは他人(ひと)前じゃ都合が悪いからな。

 ははっ…、これって格ゲーなら上書き(キャンセル)連続技(コンボ)の必殺技ってところか。

 マネジャーは顔からは全然(すっか)りと血の気が失せて真っ青だったが、今ので完全にKOだ。

 はっ、ざまぁ覿()ろ。


 レナ達が歌い終わった後は、オレ達リトルキッスも続く。

 曲はレナ達の『フェアリーテイル』に合わせて、オレ達も同じ『魔法少女マジカルリリー』のエンディング曲『Wonderland』だ。


 狙い通りに客は集まって来たけれど、果然(やは)りアレな感じなのが多く感じるのは、曲がアニメのテーマ曲だったせいだろうか。

 ともあれ曲が終わった後は、本来の模擬店に勤しむことに。

 と()ってもその実は……まあ、握手会みたいなものだ。一応商品を買ってくれた相手限定だが。

 レナ達や早乙女純(オレ)特別(ゲスト)販売員として協力する。

 あれから天堂、つまり『御堂(れい)』が合流したことで、その売れ行きはさらに加速、遂には商品は完売となった。

 ……まあ、一部商品にオレ達の私物が有ったり、希望者にはオレ達のサインを施したりとしたせいも有るのだけどな。



 なお、この日の一件は一部の間で『射鳥英雄伝』なんて呼ばれてるんだとか。

 まあ確かに、『サンダーバード』なんて()を射てしまったのだから、そう謂うことになるんだろうけど、これって関係者からしてみれば、英雄じゃなくて迷雄だよな…。


 当然ながら、その晩に織部さんから怒られる羽目となった。

※1 ここでは『返す』と当てておりますが、本来の『傲る』の読み方は『あなどる』『おごる』です。また『あそぶ』なんて読み方の有る字ですが、恐らく意味合いは『もてあそぶ』と思われます。

 ここでは『見下す』という意味で当てておりますが、『もてあそぶ』という悪意が有ったりもします。


※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。

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