学園祭初日 -射鳥迷雄伝 -
今回もサブタイトルもまた、中国の武俠小説で、『金庸』の『射鵰英雄伝』という作品のパロディです。
この作品もやはりドラマ化されており、その人気は何度かリメイクされる程。日本でも徳間書店から日本語版の漫画全19巻が発行されている程の人気ぶり。もちろん徳間文庫の活字版だってあります。興味のある方は是非。
レナ達に模擬店の手伝いを頼んだオレは、駄目押しの一手を求め校外へと飛び出した。
物資調達の名目なのでとやかく摘われることも無い。
それじゃ佚る奴もでてくるだろうと謂われるところだが、実際はそう謂う奴は極少数。だって普段とは違って、校内に在さえすれば、遊んでようが何をしようがそれで可く、積極的に催事に勤しむ必要は無いのだから。
実際、オレのクラスメイト達も半分以上は他のクラス等の催事を愉しみに出掛けているか、教室で時間を潰しているかだ。
残りの奴らも天堂のように他所の催事を手伝っているか、美咲ちゃんのように個人的用事に使っているかで、オレのように真面目に催事に勤しんでいるのは極一部だ。
まあ、公式には、これから佚りってことになるのだが……。
「まあ、仕方が無いよな。体がふたつ有るわけじゃないんだし…」
追加となる商品を抱え、オレは学校へと向かった。……学生服から着替えたのちに…。
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手持ち鞄を肩から掛けて、オレは正門を通過った。
いや、仕方が無いだろう、これって結構大きいんだから。それにそう謂う仕様みたいだし別に可怪しくはないはずだ。
う〜ん、それにしても、まだ入り口付近だってのになんとも賑やかなことか。
お陰で今のオレに注目する奴は在ないようだ。
宜し、今の間に先を急ごう。気づかれでもしたら厄介だからな。
否、気付いてもらった方が好いのか?
そうだな。客寄せも兼ねていくか。
「ちょっとすみません、これってどの辺りか解かりますか?」
不自然にならないように気をつけながら、手近な人物に声を掛けた。
当然、案内を頼むんだから、相手はこの学校の在校生だ。
「ここだったら……って…。
ええぇっ⁈ もしかして早乙女純⁈ 嘘⁈」
いや、遉にこれは大袈裟だろう。
この学校には美咲ちゃんが、つまり『花房咲』が在るんだから『早乙女純』が学園祭に来たところで決して可怪しくはないだろう。と謂うか自然な話だと思うんだが?
つまりなんだ。今のオレは『早乙女純』としてここに来ているわけである。
この子が声を上げたことで、オレ達に注目が集まった。
果然り女子に声を掛けたのは正解だ。
こう謂うのって男なんかよりも女子の方が向いているからな。
ただ、集まって来るのは、多くが男なのは仕方が無い。先程も述ったが今のオレは女性アイドル『早乙女純』なんだから。
ただ、集まって来る中に女子が在ないわけじゃない。なので今声を掛けた子に他の女子を捲き込んで、それを頼りに模擬店までってことにする。
……別に疚しい下心が有ってって理由じゃ……ないって抗い切れないか…。彼女達を人寄せに仕立てようって謂うんだから。
ただ、卑猥しい下心は全く無い。否、そりゃあ少しくらいは、男よりも女の子の方がなんて思わないわけじゃないけど…。だって男に囲まれたところでなぁ…。
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「よう、がんばってるようだな。なかなかの繁盛振りじゃないか」
出店はなかなかの盛況を呈していた。
まあ美咲ちゃんが合流しているみたいだし、それならば当然だろう。
否、それだけじゃなさそうだな。レナとミナのふたりの手伝いの影響も大きいようだ。まだ中学生で今年デビューしたてではあるが、それでも果然りこいつらもアイドルってことなのだろう。尊大なことを宣ってただけのことはある。
「え? 純ちゃん⁈ 来てくれたの?
もう、だったら告ってくれたら好かったのに」
美咲ちゃんが驚くのも無理の無い話だ。オレだって今回のことが無かったらこんなことをするつもりなんて無かっんだしな。
「聞いたぞ。レナとミナも手伝っているんだってな。
まあ今回はお前らが発端だしそれでってことだろうけど、それでも一応あいつや美咲ちゃん達に代わって礼を述っておくよ」
オレに先行ち合流していたこいつらにも労いの言葉を掛けておく。
「え? それってもしかして……純先輩からですか?」
あ、ちょっと説明不足だったか。
でもまあ、質問してきたレナには伝わってるみたいだし、このまま話を進めてしまおう。
「ああ、ただまあ、あいつはちょっと事情が有って、今はまだここに来れないけれど、代わりに秘策を預かってきた。
レナとミナのふたりはここからが本番だ。あいつらを傲返して やるんだろ?」
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「ちょっとっ! どう謂うこと⁉」
オレ達の出店へと運営委員が乗り込んで来た。
アイドルステージの舞台裏に在たあの女だ。サンダーバードのマネジャーも一緒だ。
「ええっと、なにか?」
斑目が不思議そうに対応する。
舞台裏に従いて来てたわけではないが、それでも事情は知ってるってのに、全くなんて自然さだ。
こいつって結構緊張とかには弱い性格だと思ってたのになぁ…。
「「なにか?」じゃないわよっ!
『フェアリーテイル』がここで歌ってるって聞いて来たら、本当にそうじゃないっ!
そんな許可が出たなんて聞いてないわよ!」
そう、彼女の摘う通り、レナとミナのふたりはオレ達の出店の店頭で『フェアリーテイル』の曲を歌っている。
その曲はアニメ『魔法少女マジカルリリー』の主題歌ってこともあり、ふたりが何者かをきづかせるには十分過ぎる程の効果が有った。曲名も同じ『フェアリーテイル』だしな。
ふ…、これこそがオレの秘策の正体だ。
「へ?『フェアリーテイル』?
それってもしかして、この子達のこと?」
ああ、そう謂えば斑目には教ってなかったっけ、こいつらのこと。
まあ、JUNの正体にも関わる話だったし、その辺はある程度暈して説明してたからなぁ…。
「え? あの子達って、もしかして……。
嘘っ⁈ この子達ってあの時のあの子達⁈」
漸く事態を把握したのか、一緒に来ていたサンダーバードのマネジャーに慌てて確認を取る運営委員。
「えっと、レナちゃん達ならちゃんと許可はもらったって説ってたけど」
ここで追撃の美咲ちゃんが登場。
運営委員にとってはまだ学校生徒の一人『花村美咲』かもしれないけれど、サンダーバードのマネジャーにとっては、自分の所属する事務所の看板アイドルの『花房咲』だ。
そしてその傍にはこのオレ『早乙女純』が在るわけだ。格ゲーで謂うならば連続技が入ってるってところか。
ならばここで決め技だろうな。
「あ、『JUN』からもちゃんと聞いてますよ。態々直に頼みに赴ったって」
美咲ちゃんに続きオレからの追撃も加える。
さらにマネジャーの耳許で窃然り囁く。
「でもこのことは内緒で。彼の正体は極秘事項ってのは聞いたことが有るでしょ?」
遉にこれは他人前じゃ都合が悪いからな。
ははっ…、これって格ゲーなら上書き連続技の必殺技ってところか。
マネジャーは顔からは全然りと血の気が失せて真っ青だったが、今ので完全にKOだ。
はっ、ざまぁ覿ろ。
レナ達が歌い終わった後は、オレ達リトルキッスも続く。
曲はレナ達の『フェアリーテイル』に合わせて、オレ達も同じ『魔法少女マジカルリリー』のエンディング曲『Wonderland』だ。
狙い通りに客は集まって来たけれど、果然りアレな感じなのが多く感じるのは、曲がアニメのテーマ曲だったせいだろうか。
ともあれ曲が終わった後は、本来の模擬店に勤しむことに。
と説ってもその実は……まあ、握手会みたいなものだ。一応商品を買ってくれた相手限定だが。
レナ達や早乙女純も特別販売員として協力する。
あれから天堂、つまり『御堂玲』が合流したことで、その売れ行きはさらに加速、遂には商品は完売となった。
……まあ、一部商品にオレ達の私物が有ったり、希望者にはオレ達のサインを施したりとしたせいも有るのだけどな。
なお、この日の一件は一部の間で『射鳥英雄伝』なんて呼ばれてるんだとか。
まあ確かに、『サンダーバード』なんて鳥を射てしまったのだから、そう謂うことになるんだろうけど、これって関係者からしてみれば、英雄じゃなくて迷雄だよな…。
当然ながら、その晩に織部さんから怒られる羽目となった。
※1 ここでは『傲返す』と当てておりますが、本来の『傲る』の読み方は『傲る』『傲る』です。また『敖ぶ』なんて読み方の有る字ですが、恐らく意味合いは『弄ぶ』と思われます。
ここでは『見下す』という意味で当てておりますが、『玩ぶ』という悪意が有ったりもします。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




