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学園祭初日 -男でもミスコンっていうの?-

 出店を河合に任せたオレ達は、他の各クラスの模擬店等を素見(ひやか)しながら、ステージショーの行なわれる講堂へと向かっていた。

 まあどこのクラスでもやりたいことってのは大体似通っているせいか、人通りの出店ってのは大抵が食べ物関係の屋台で、焼きそば、たこ焼き、なんてものが多い。変わったところでは綿あめなんてものも有るのだが、結局のところ、どこも普通一般の祭の屋台と変わり無い。もし変わりが有るとするなら……。


「なんだよこれ。如何に素人の出店だからって、こんなに安くて可いのかよ。絶対赤字が出てるぞ、本当」


 いや、本当に採算って言葉を知ってるのかってツッコミたくなる程の値段設定で、如何に人権費無料(ゼロ)と謂えどもなあ…。

 所詮は他所のクラスのことだし、どうなろうと知ったことじゃないんだけど、それでも何故か後ろめたい気分が拭い切れない。

 ……と謂っても果然(やっぱ)り、それをどうこうなんて指摘するようなことはしないんだけどな。大体それは余計なお世話ってやつだろうから。


 そんなわけで、ここぞとばかりに格安な食べ物で腹を満たす。

 素人調理ってことが気にはなるけど、まあそこを気にするのは野暮だろう。


「ふう、お腹がいっぱい。

 まさかこれだけ食べて千円で、しかもお釣りがくるなんて、本当学園祭様々よね」


 おい斑目、気持ちは凄くよく解かるけど、女性がそうやって腹を擦る姿ってのはどうかと思うぞ。

 いや、それはレナとミナも似たようなもの。(さすが)に斑目みたいに腹をどうこうってわけじゃないけど、大同小異で些細な違いだ。


「お前ら、幾らなんでもそれは女子として余りにも未伴(みっとも)ない (※1)だろ。

 ()()ろよ、一緒に来たふたりも()いてるじゃねえか」


 だが、オレが引き合いに出したふたりは、冷静を装い、何も見なかったとばかりに否定する。

 当然、そんな不自然な作り笑いじゃ直ぐにバレるのだが、それでも必死懸命にフォローに努める姿はなんとなく(あわれ)みを感じる。


「お前ら馬鹿もそれくらいにして漸々(そろそろ)行くぞ。余り遅いと観れない可能性も有るからな」


 オレがこいつらを引き合いに出したのが切っ掛けなので自業自得ではあるのだが、()い加減鬱陶しくなってきたので、この辺りで切り上げさせて移動することする。


「男鹿くんが火元のくせに、よく()うよ。

 自分で焚き着けて自分で鎮火させるんだから、これってマッチポンプってことじゃないの」


 ()われて()るとそうなのだが、そんなことは無視(スルー)である。切り上げると宣言した人間が即前言を翻すような振り(まね)をするわけにはいかないからな、くそ。


          ▼


 ステージの催されている講堂は、果然(やは)り凄い人集りだった。まだ主役やゲスト達は登場していないのにだ。

 では何が行なわれてるかと()えば、人気投票(ミスコン)だった。これって()()なんて()ってるけど男子部門もちゃんと有る。だから男女(ミスター&ミス)人気投票(コンテスト)って謂うのが正しいだろう。否、教師も選考(エントリー)されるみたいなので既婚女性(ミセス)も付けるのが……否、(さすが)に長くなるし、そうやって区別するのも差別みたいで善くなさそうだ。ここは文法上で彼女が彼らに含まれるのと同じように全て纏めて()()で可いのだ。だから決して(ミス)ではないのである。


「うわぁ、もうこんなにいっぱい集まってる。

 これじゃ前の方へ行かないと全然様子が観えないよ。ねえ男鹿くん」


 ……何故ここでオレに同意を求める?

 確かに斑目の謂う通り、舞台(ステージ)の様子は解り(づら)いが、なんだか認めるのが口惜(くや)しい (※2)


 ここで意外な奴らが役に立った。

 否、実際は意外ってこともないのだが、オレの心情的には間違っていない。だってそいつらはレナ達とその連れふたりなのだから。

 (いか)つい視線で周囲を威圧するお供ふたりとそれを従えるレナ達。護衛ふたりとその女主人ふたりって感じだな。

 周囲がこれを受け容れてるのは護衛ふたりに怯えてってのも有るが、その背後に可愛らしい女の子ふたりが()るってのが大きいだろう。

 ともあれこいつらのお陰で多少前方へと進み、視界が幾らかは開けたわけだ。


 さて、(ようや)舞台(ステージ)の候補者達を目にすることができたわけだが、男女ともに結構逸物(いつぶつ)()るもので、美男美女が揃って列然(ずら)りと並んで、中には見知った奴も……()ないな…。所詮はオレの交友関係なんてそんなものだ。必要以上の人付き合いなんて面倒なだけだしな。

 否、()たっ!

 てか、なんでお前らが参加(交ざ)ってんだよ。これじゃ他の参加者達は、ただのお飾り(引き立て役)じゃねえか。

 天堂や香織ちゃんを参加させた奴は何を考えて…。


「まあ、そりゃあそうなるよねえ。実際去年までのミスは伊藤瑠花(るか)の三冠だったみたいだし、今年がこうなるのも当然よね」


 ……なるほど、斑目の()う通りか。よく考えたら、これって主催はアイドル同好会だもんなあ…。

 でも、普通はこいつらみたいな奴は、別扱い(カテゴリー)で殿堂入りだろうに。


「これって咲さんは選ばれてないんですか?

 加藤香織(あの女)は選ばれてるのに⁈

 こんなの納得いきませんっ!」


 この台詞はミナだった。まあ、この子は特に美咲ちゃんに懐いているからなぁ…。


「本当よっ。咲さんなら絶対に加藤香織(あの女)なんかに後塵(ひけ)()らない (※3)はずなのになんで⁈」


 レナの方もミナに(つら)れてか興奮気味だ。

 てか、妙に香織ちゃんを敵視してないか?

 まあ、ライバル事務所の売れっ子だけにそうなるのも当然自然の成り行きなのかもしれないけど…。


「説明したはずだろ。美咲ちゃんは用事が有って出場どころじゃないんだよ。

 まあ、それ以前にその気も無いみたいだけどな」


 いや、全く無いってことも無いとは思うけど、でも一応ここは伊藤瑠花(るか)の後継者たる香織ちゃんの縄張りみたいなもんだしな。つまりはそれに気を遣ってってことだろうな。

 うん、こいつらにはこう謂う理由ってことにしておこう。用事が何かなんて説明するわけにはいかないからな。


「なによそれ、そんなの向こうの都合じゃない。それに咲さんが付き合う必要なんて無いでしょ。そんなのヤラセと一緒よっ!」


 レナには逆効果だったか、余計に興奮させただけのようだ。


(さすが)は咲さん。大人の対応ってことですね。改めて尊敬です」


 一方、ミナは沈静化。これが性格の差ってことなんだろうな。

 最初はこいつも手の掛かる世間知らず(駄々っ子)だったのに。レナも見習ってほしいものだ。

 その場合、まずは見倣う段階からだろうけど、この勝ち気な性格だからなぁ。恐らくは納得しない限り絶対にそれは無いだろうな。



 人気投票(コンテスト)の結果は誰もの予想通りで、男性部門が『御堂(れい)』、女性部門が『加藤香織』が優勝に決定した。

 男性部門の優勝者の名前が、本名の『天堂(あきら)』でなく、芸名の『御堂(れい)』であることからして、殆ど組織票みたいなものだろう。主催者がアレだし不思議は無い。

 まぁ、そうじゃないとしても結果は変らないだろうけど。


 因みに双方の次点、実質的な優勝である準優勝者はまさかの同一人物だった。体育祭でチアガールに交ざっていたあの女装男子である。

 本人の立候補とは思えないし、他薦なのは間違い無いだろう。そしてそれを為したのは、恐らくは女子達。つまりは両方とも女子票…。

 ……知らなかったとは謂え、決して他人事じゃないな。今回オレは無事だったけど、来年以降が怖過ぎる。どうやらこの学校って非常識蔓延る(とんでもない)伏魔殿だったようだ。

※1『未伴みっともない』は『未だ伴わず』といった意味合いで当てております。

 本来の意味合いである『体裁が悪い』に合わせると『体裁が伴わない』って感じです。他にもいろいろと伴ってないものが有りそうですが、それも含めてということで如何でしょうか?


※2 一般的には同じ意味とされる『悔しい』と『口惜くやしい』ですが、実は意味合いに違いが存在するようです。

『悔しい』は『後悔』すること。『自分の失敗等が腹立たしい』って意味合いです。

口惜くやしい』は『物事が思うように運ばず腹立たしい』という意味合いです。

 この言葉は通常『口惜くちおしい』と読み、その語源は『朽ち惜しい』であるとか。『朽ちる』には『物事が巧くいかない』という意味が有るそうです。

 そんなわけで、その原因が『自分に有る』のが『悔しい』で『他のものに有る』のが『口惜くやしい』ということのようです。[Google 参考]

 作中の用法だと間違っていそうですが、そこは自分の低身長を自分のせいと肯定したくない純の心情ってことで。


※3 作中では『後塵ひけらない』と当てていますが、これは『後塵を拝する』から当てております。因みに『後拝』で調べてみると『寺社建築の裏側に設けられた礼拝所』となっていました。

 一般的には『引けを取る』と表記するこの言葉の語源は、戦場にて『退却を命じる』つまり『退く戦術を執る(採る?)』ってことのようです。[Google 参考]


※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。

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