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学園祭初日 -純、出店を出す -

→文化祭を学園祭に変更しました。[2023/08/10]

 学園祭の出し物だが、オレが手の掛からないものを提案したのには理由が有った。

 まあ想像するのは容易だろう。特に今のオレを一瞥するだけでそれは十分に可能。当に一目瞭然の言葉通りである。

 じゃあ状況を説明しよう。

 現在、オレの前には香織ちゃんが居る。

 ……うん、これだけでもう解ったとか言われそうだが、大体それで間違い無い。

 それでも一応説明しておこう。


 我が森越学園には、アイドル同好会ってのが存在し、意外なことに結構強い影響力を持っていたりする。

 特に去年までの三年間は、伊藤瑠花(るか)先輩が在籍し、その彼女が去年は生徒会長を務めていたってんだから、それもまた当然だったのかもしれない。

 そんなこともあり、この学校の学園祭では彼女を主役に据えたステージを行なっていたらしい。もちろん主催はアイドル同好会、そして生徒会の協力、学校側の後援の下である。

 そして彼女の卒業した今年は、そのあとを受け同じ事務所の後輩である香織ちゃんが主役を務めることとなったのだ。

 因みに瑠花先輩だけど、今年はゲストとして出演するらしい。

 まあこれは学校側としては殆どコネに依る依頼だな。もちろん受ける側も学校側への忖度ってのも有るから無下にはできないわけで、否、学校を足掛かりにってのも有るかもしれないな。

 ともかくこの企画は学校側と事務所側、両者の利害の一致に依る誘致ってことだろう。


 実はこの企画、我が星プロにも、つまりオレ達リトルキッスにも依頼の話はきていたのだが……、まあ美咲ちゃんがアレだしな…。実際、午前中は補習を受けることになっているみたいで……、まあこれじゃ受けたくても受けるのは無理な話ってわけだ。



「じゃあ純くん、私、がんばるから絶対に観に来てね。約束よ」


 そう言うと香織ちゃんは未練(がま)しそうに去って行った。

 ……まあ、そう謂う理由だ。こんな風に期待されて、それを無下にするなんて友人としてできないだろ?


「そんなんだから、勘違いされるんだよ。

 てか本当は満更でもないんだろ?

 もう本当、観念して付き合っちまえば()いだろうに。いったい何が気に入らないってんだか。

 本気(マジ)で代わってほしいくらいだぜ」


 相変わらず勝手なことを言う河合。

 他人事(ひとごと)だからそんなことが謂えるんだ。ってこの遣り取りも何度目なんだか。


「でも、そうやって思わせ振りな態度をとってるのってどうかと思うわよ」

「うん、変に期待を持たせておいて、そのくせ放置だもんね」


 朝日奈だけでなく向日(ひゆうが)まで……って、まあ最早これもいつものことだ。が、しかし…。


「思わせ振りも何も、最初はちゃんと、判然(はっき)決然(きっぱ)りと断っていただろ。

 香織ちゃんもオレにその気が無いのを承知でやってんだ。だったらもう処置無しだっての。

 それとも何か手立てでも有るのかってんだ。

 無いんだったら、横から余計な差し出口噛ましてくれんじゃねえってんだ」


 仮令(たとえ)もう万練り(マンネリ) (※1)になっていたとしても、依然(やは)り反論せずにはいられない。

 だってオレにはそこまでの関係なんて認める気は無いんだから。

 大体、今のオレ達って知り合ってからまだ一年も経っていないってのに、どうしていきなりそんな関係になれるってんだか。そう謂うのは長い付き合いの果てに自然と芽生える感情だと思うんだけどなぁ…。

 まあ確かに、好き合って付き合うってのが理想だろうけど、付き合い出してから好きになるってのも()るんだろうから一概に否定し切れないのだけど。実際、好き合うためにはまずはその前段階の付き合いが必要なのは当然なわけで、だからこその「まずはお友達から」ってやつなんだよなぁ…。

 で、香織ちゃんもそれを解ってくれたからこそ、オレも頭から否定するのを止めたんだ。


 ……これって思わせ振りってのになるのか? だとしたら異性と友人付き合いなんてできないことになるんじゃねえの?

 誰かに相談したいって考えたこともあったけど、でも、オレの知り合いってアレな奴ばかりだし、全く参考にならない。本当に困ったものだ。

 これが青春の悩みってやつなのかもしれないが、そんなこと謂って笑ってられるのも他人事(ひとごと)だからに過ぎないのだ。「たかが恋などと言ってくれるなよ」ってやつで有り、間違い無く「僕には大問題だ」ってやつである。

 ……これってなんて曲だったっけ?

 否、現実逃避してる場合じゃ……って、別に()いか。厄介(ややこ)しい (※2)話は先送りだ。


          ▼


 取り敢えず商品を確認し出店の準備をする。場所は校庭の広めな一画。

 いや、場所は教室でも可いだろうと()うかもしれないけど、これにはちゃんと理由が有る。

 ひとつは当然人目に留まるってことだろう。

 教室で客を待つのもアリだが、人通りの有る場所の方がより積極性が有るってものだ。

 待ちよりも攻めの姿勢ってことだな。

 ふたつ目は教室は在庫管理などの裏方仕事をするためだ。舞台裏ってのは人目に晒さないものだからな。

 …ってのは嘘ではないけど建て前で、果然(やは)り休憩するのなら、人目の無い場所の方が落ち着けて好ましいってのが理由である。要するに教室はオレ達のプライベートエリアに()っておくってわけだ。


 テントを組み立て、テーブル、椅子を備え付ける。

 あとは商品の陳列だ。

 いや、(さすが)にオレひとりってわけじゃない。河合や他の男子数人が商品を運び込んでくる。


「男鹿っ、お前も運ぶの手伝えよっ!」


 河合がオレに文句を垂れるがオレはオレで忙しい。

 当然、商品の陳列がだ。

 せっかく巧い具合に流れに乗って、楽な作業を射止めたってのに、なんでそれを放り出してそっちに移行しなけりゃならないんだ。悪いが河合達にはそのままがんばってもらうことにしよう。



「くそっ、ひとりで楽しやがって。

 俺はしばらく休むからな。接客は任せた」


 一通り作業が終わったところで、河合が力尽きたように椅子に(すわ)る。


「お疲れさん。まあそれくらいなら(しばら)くは面倒看るから任せとけよ」


 (さすが)にオレも鬼じゃないので、それくらいは労ってやることにする。多少の罪悪感の自覚が無いわけじゃないからな…。



 ………………。


 ……誰も客がこないな。

 あれから来たのは同じ店番の斑目くらいのものだし…。

 やることが無いのは楽かもしれないが、しかしこうも(ひま) (※3)だと退屈で時間を持て余してしまう。

 河合の奴なんて商品である漫画を手に取って読み出してるし…。まあ、切り(ばら)売りで纏め売り(セット)商品(やつ)じゃないから寛大(おおめ)許す(みる)けどな。



 (しばら)くして、そんな閑古鳥の鳴くオレ達の出店に(ようや)く客がやって来た。

 その客は、オレのよく知る者達だった。

※1 この『万練まんねり』という当て字ですが、恐らくこれの由来かと勘違いさせる『千鍛万練せんたんばんれん』『一技万練いちぎまんれん』といった宮本武蔵の言葉が有るそうです。

 因みに『マンネリ』とは『mannerismマンネリズム』という英語の略で、『作法』や『癖』を意味する『mannerマナー』が語源らしいです。[Google 参考]


※2 作中では意味合いから『厄介ややこしい』と当てておりますが、実は『稚児ややこしい』と書くそうです。

 なるほど『稚児ややこ』は『手が掛かる』から納得です。対する『大人しい』ってのは『大人』は『手が掛からない』って意味合いですしね。[Google 参考]


※3 ここでは『ひま』を使っておりますが、退屈って意味合いだとどういう字になるのでしょうか?

『ひま』という字には次のようなものが有りました。

【暇】忙しくない時間。休み。

ひま】ゆとりの有る時間。

ひま】することの無いのんびりとした時間。

ひま】空いた時間。無防備な時間?

すき』と読むのが一般的。


※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。

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