体育祭 -危険な種目アレコレ-
昼休憩が終わり体育祭も午後の部に入った。
中間発表に依るとオレ達の順位は総合6位、学年では2位とまずまずの結果である。100m走と綱引きでの好結果のお陰だろう。玉入れでのあれが無ければもう少し上位に喰い込めてたかもしれない。
ともあれまだ中盤だ、十分巻き返しは可能である。
せっかくやるんだったら、優勝を狙うのは当然だろ? こう謂うのは真面目に勝ちを狙うからこそ楽しいのだ。
昼一番の種目は組み体操。
意外なことに参加は男女の制限無し。
そのせいだろうか、なんかその演出を観てると、某漫画の悪役三人組のそれが頭に浮かんで思わず笑いが込み上げてくる。
否、だからって本当に笑ったりはしないぞ。遉にそれは失礼過ぎる。
……あ、駄目だ。依然り我慢できない。
だって、「ビシッ!」って擬音が聞こえてきそうなくらいにキメたと思った瞬間に、グラっときて崩れるところまで同じとなると、もうどうにも怺え が利かなくなる。
…まあともかく、そんな男女混交の組み体操だったため意外にも華やかなものとなっており、想像以上に愉しめる種目だったと評っておこう。
組み体操の次の種目は騎馬戦だ。
体育祭と謂えば果然りこれは欠かせぬ定番、間違い無く鉄板と断言して可いだろう。棒倒しと並ぶ人気の熱い漢の競技である。……まあ、今回棒倒しは無いんだけどな。
で、この騎馬戦、漢の競技と述ったばかりだが、果然り男女だった。
ただ遉に女子に馬役をさせるってことは無く、騎手役限定となっている。
が、しかし……玉入れ合戦と謂い、先程の組み体操と謂い、そしてこの騎馬戦と謂いだ、よく女子にこんな危険性のある種目の参加を認めたものだ。男の身としては少し運営の正気を疑ってしまうところである。
……って、これも前回と同じだろうから前生徒会の影響か。つまり伊藤瑠花先輩の影響ってことだ。
う〜ん、なんと謂うか男臭い発想の種目に、危険性の有る種目への女子の参加、この傾向から考えるに、この人って男への劣等感でも有るんじゃないか?
で以てそれを受け容れ難いと、覆すべく足掻いてるって感じに思える。
確かに巧く周囲と協力して物事を運ぶその才能は理想的って謂えるけど、でもそれは同時に有事の際にも周りを捲き込む危うさが有るってことになるわけだし。
今回はなにか起ったとしても、それは現生徒会と執行部と謂った運営の責任だけど、それらに与えた影響ってのは、直に関与してはいなくても考えるべきだったんじゃないだろうか。
「美点は同時に欠点でもある」なんてことをなにかで聞いたことが有るけれど、なるほど確かにそうなのかもしれない。分析次第では案外誰にでもそう謂うところって見つかるものなんだな。
グランドでは各チーム入り乱れての激戦が繰り広げられている。騎手が女子ってこともあって騎馬を務める男子達の士気も高い。
まあ、そうは述ってもお互いに騎手の女子を気遣ってか激しい衝突で敵の騎馬を攻撃するなんてことは無く、飽くまで騎上での女子の戦いが基本のようだ。
もちろん戦うと謂っても、一昔前のテレビの芸能人水上運動会とは違うので、恥ずかしい災難が騎上の女子に起こるなんてことも無く、ポロリといくのも当然ながら頭に着けられた鉢巻きである。
……アレって実は不幸な偶然なんかじゃなく、ソレを狙った必然的演出だったらしいんだよなぁ…。
一応当人に了承を諾ってってことになってると聞いたけど、実は当人ではなく事務所の了承で当人については事後承認ってのも少なくはなかったらしい。
もちろん当人には伝えずに飽くまで事故で貫き通すってパターンも有る。説得なんて面倒なことをする必要も無いしな。つまり説明が有るってのは事務所側からの当人への誠意ってことになるみたいだ。
全くこれのどこが誠意なんだって摘いたくなる。なんのことは無い、「業務の一環だから」なんて説明はパワハラでセクハラを容認させてるだけで、結局は泣き寝入りさせてるだけに過ぎず、事務所側が罪悪感から逃れるための自己満足に過ぎないわけだからな。
熟々思う、よくぞこんな番組企画が無くなってくれたものだと。少なくとも美咲ちゃんや事務所の子達には、こんな目に被ってほしくはないものだ。
戦闘時間(?)が終わったようで生き残った騎馬が自陣へと戻って行く。彼らの表情はと謂えば、ただ生き残ったことに安堵した者、そして己の戦果に誇らし気にしてる者とに大きく分かれる。もちろんそれが全てってわけじゃないけれど。
「あ〜、くそっ、俺も出たかった〜っ。
ただでさえ騎手の子のお尻とか太腿とかが触れてるってのに、戦闘中はそれがさらに躍動して刺激してきて、場合に依っては身体全体が、胸とかが密着してきて。
しかも視界にはその子だけじゃなく敵方の子の揺れる胸とかがっ。
ひょっとすると服とかが捲れるなんてことになってて……。
うお〜っ! なんで俺は騎馬戦の籤引きに落選したんだ〜っ!」
この煩悩塗れな馬鹿は、最早説うまでも無いだろうけど河合である。
ってもなぁ、如何に思春期の男子だからってこれはいき過ぎじゃないだろうか。少なくともオレにはそこまで熱狂することはできない。否、したいとも思わないけどな。
「そりゃあ、そんな煩悩風りを見せられたら、神様だって絶対に撥ねるでしょ」
確かに神様ならそんな不埒者は撥ねるだろうな。
神様に依っては刎ねるの表現が正解かもしれない。敢えてナニを……否、何をかは摘わない、考えない。
「そうよねえ、それにそんな変態に乗るなんて騎手の子だって絶対に厭がるに決まってるよね」
「うん、ヤバい。キモ過ぎ。私なら断固拒否する。それが駄目なら棄権」
朝日奈と日向も由希の意見に賛同する。ってか、かなり忌いてる様子が窺える。こりゃあマジだな。
「もう、一層のこと捥いじゃう? 純とセットで」
「なんでオレがセットなんだよっ⁉ オレは関係無いだろ!」
「う〜ん、なんでって……倫で?」
「序でじゃねえ!」
なんなんだ由希はっ!
河合はともかく、無意味にオレを捲き込むんじゃねえってんだっ。
しかも理由が序で? なんで疑問符付きなんだよっ⁈
それに今のって、もしかして『倫で』だったんじゃねえのか?
意味合いは同じでも、なんか同じ倫、同類って卑下されたような気がして不愉快だ。
「てことは、『聡子ちゃん』に『純子ちゃん』?」
「ぶっ! くっ…く…………っ」
「美咲ちゃんも変な名前を付けんじゃねえっ!
天堂も怺哂してんじゃねえよっ!」
由希の発言を受け、オレ達に変な名前を付ける美咲ちゃん。最早彼女の脳内では、オレ達は去勢済みらしい。てか、天堂、お前もかよ。
オレの非難の声を引き金にして朝日奈達も笑い出す。もちろん全ての根源たる由希も当然高呵いだ。
「いや、ごめん。
ただ、美咲ちゃんの『そうこちゃん』ってのが可怪しくって。そこは普通、『さとこちゃん』もしくは『あきこちゃん』ってところだろうと思って……って……くくっ……」
天堂が取り繕うかのように尤もらしい言い訳する。
だけど笑いは止まらない。
……くそっ、こいつ絶対にそっちで哂ってないだろ。
まあ、そんなわけでこの女性騎手の騎馬戦は、いろんな意味で危険なので来年以降は見合わせた方が良いのではないだろうか。
女子達の精神衛生のため。
そしてオレ達男子の息子のためにも…。
※1 作中の『怺え』ですが、意味は『堪』と同じです。この『怺』には特に『感情を抑える』という意味合いが有るため、敢えて今回使用しました。
因みに『こらえる』という字には、次のようなものが有るようです。
【怺える】苦痛に耐える。感情を抑える。許す。実は『怺』は国字だったりします。
【堪える】我慢する。辛抱する。耐えようとする。『堪える』『堪える』とも読み、意味合いが微妙に違うので注意が必要。
【躵える】忍ぶ。我慢して機会を窺う。
[Google 参考]
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




