体育祭 -玉入れ合戦-
今回の『玉入れ合戦』ですが、一応は作者のオリジナルアレンジです。娯楽的読み物向けのアレンジですので結構めちゃくちゃだったりします。
……しかし、あの『玉入れ』がたった二文字の追加でこんな風になるなんて…。
創作種目の円盤拾いが終わった後は、定番の種目へと戻って100m障害物競争だった。
定番の正統派競技だけにその内容も至って普通で特に奇を衒ったようなことも無く、ただハードルを跳び越えながら走るだけのものだ。今までのどこか巫山戯た感の混ざった種目と違い、真面目な真剣勝負の競技である。
そりゃあそうだろう。仮令この体育祭にどんな趣旨が有ったとしても勝負事であるからには、当然誰しも勝ちたいわけで、だったらこう謂う真面目に勝ちを競う種目だって必要だろう。なんてったってこれは体育祭なんだから体育会系競技無しなんてことは許されるべきではないのだ。飽くまでお巫山戯種目は座興であって、一般参加者への忌避感を下げるための加減に過ぎず、主旨は当然ながら真面目で熱い勝負にあるべきなのである。この体育祭の主催である生徒会や学校もその辺はちゃんと心得ていると謂うわけだ。
「う〜ん、依然りこう謂う競技って好いよなあ。
特に障害物を跳び越えた時の女子の上下に弾む胸なんて凄く嬉い。お前もそう思うだろ?男鹿。
ああちくしょー、間近で観れないのが残念だ」
……一部こう謂う奴も在るようだな。
例えばオレの傍に居る河合とか。
残念なのはそう謂う看方 しかできないお前の方だっての。
全く、同意を求めないでほしいものだ。
「嫌〜ねぇ、男子って。本当卑らしいんだから」
「本当よねえ、少しは天堂くんを見倣ってほしいものよね」
ほらみろ、お陰でオレまで一緒にされたじゃないか。
女子達の汚物でも見るかのような視線が痛い。特に一部育ってない女子なんて明確に憎悪が混ざってるし。
責めてもの救いは、それが親しい友人じゃないってことくらいか。今の会話の主である朝日奈と日向はまあそれなりに育ってるみたいだし。
……って、思わずソレに目を向けてしまったじゃないか。
ヤバっ。慌てながらも気づかれないように目を逸らす。バレたら絶対にオレも同類扱いだ。
………………。
どうやら幸い気づかれずに済んだようだ。全く、冷や汗ものだっての。
ん? なんか天堂が苦笑いをしているし。
恐らくは今までの一部始終を、窃然りと窺てたってところだろうな。つまりはこいつも思春期の男に過ぎないってわけだ。
まあ、敢えて人前では指摘したりしないけどな。同類相憐れむってやつである。これは正常な男子であれば避けて通れない本能的煩悩なんだから、それを同じ男が非難するのは半ば自傷的行為である。もしこれを否定しようものならば、同じ男性達からは同性愛とか幼女嗜好なんて異常嗜好者の誹謗を貼られかねない危険性が高い。そしてそんなことになれば、当然女子達からも変態として忌避されることになるだろう。
……まあ、同性愛嗜好に関しては、極々一部の特殊趣味の女子達に喜ばれそうだけど…。
って、ヤバ、気持ち悪っ。ちょっと想像しかけただけで、身体中に鳥肌が立ってきた。
こ、この話はここまでにし…よ……おうえぇっ…ぷ。
気、気を取り治して……じゃなく直してだ。
ええっと、次は午前中最後の種目、玉入れだな。
そんなわけで男子1名と女子10名がグランドへと向かう。
この種目『玉入れ合戦』の主役は謂うまでも無く女子である。
では、男子は何のために在るのかと謂えば、玉入れ用の籠の付いた柱を支えるためである。
いや、そんなの人を使わずに脚元の安定したものを用意すれば済む話じゃないかって思うだろうけど、これには歴とした理由が有る。
この種目、柱に備え付けた籠に玉を入れる競技であることは説明するまでもないだろう。
但しである。普通なら柱の下部はそれを支えて安定させる脚が付いているものだが、この種目の柱はただの細い棒に先に籠が付いただけの物を使用している。そして先程述べたようにこの種目はこの籠の中に玉を入れ、自陣の籠の中に入った玉の個数に依って順位を競う競技である。
つまりどう謂うことかと説うと……。
「あーっ! また我がクラスの柱が倒された!
なにやってるのよアイツっ。お陰でまた初めっからやり直しじゃないっ!」
由希の罵声が上がった。
いや、まあ柱を倒して籠の中身をぶち撒けてんだから仕方が無いだろう。
「でも、あれじゃ無料も無いよ。
あんなに集中砲火されたんじゃ、とてもじゃないけど堪えられる理由が無いもん」
美咲ちゃんが由希に反してフォローを入れる。
まあ、そうだよなぁ。美咲ちゃんじゃないけどあれじゃどうにもならないだろう。
これだけじゃ解り難いと思うので改めて説明をしよう。
この『玉入れ合戦』でやるべきことは、男は柱を支え玉の入った籠を護ること。
女子は玉を拾って投げることである。
そしてその対象は基本的には籠なのだけど、必ずしもそれだけとは限らない。
つまり我がクラスの籠はそれを護っていた男が敵軍の女子から玉を投げられたことで、つまりその集中砲火を受けて潰されたってわけである。
だからこそ『玉入れ合戦』なのである。
因みにこの種目、オレ達の仲間内から参加した奴はひとりも在ない。由希でさえ参加していないことからもその烈しさが解ろうと謂うものだ。
否、このルールだと由希の参加は半ば反則だな。如何に玉が布製といえど怪我人が出かねないからな…。
それにしても、あの玉入れがこんな過激なものに変わるとは、前生徒会恐るべし。
いや、それよりもなに考えてるんだよ。如何に籠を護っているのが男いえども、あんな無茶苦茶は無いだろう。もしかして男になんか思うところでも有るのかって、思わず疑うレベルだろ。
……完全無欠に思えた伊藤瑠花先輩だけど、案外どこか抜けたところも有るのかもしれないな…。
若干の安堵を感じはしたけど、別の方向で脅威だ……ってか驚異だってんだ、全く。
てか本当、この人なに考えてんだろうな。いろんな意味で計り知れない人だ。
※1 作中の『看方』の『看る』ですが、これは『関わり方』という意味合いで使っております。一般的には『世話をする』って意味ですけど、そういうことをするくらいに親しく『付き合う』っていう意味合いは有ったりしないでしょうか。少ないとも『もてなす』って意味は有るんですけどねえ…。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




