体育祭 -純、綱引きをする-
100m走の次の競技は綱引きだ。これも体育祭では定番の種目のひとつであり、ほぼ全員参加の競技である。
この競技、いろいろな意味で人気が高い。
なんと謂ったってクラス全員が一丸となって力を合わせて競い合うんだから当然だろう。
しかもただ体重だけがものを利うってわけじゃないのが良いところ。
勝利のコツは引っ張る時の姿勢、参加者の並び方、そして試合の運び方と、こうした知識の有無ってのも影響する。そんな理由で意外と頭を使う競技だったりもするのだ。……そりゃあ力学なんだから力の掛け方は当然だけど、体重だって重いに越したことはないのだけどな。
もうひとつの理由としては、これだけ人数が集まるわけだから、一人や二人手抜きをしたところで目立たないってことだろう。やる気の無い奴にとっては楽のできる種目ってことだ。
最後の理由としては、この競技がクラス全員参加ってことだろう。そう、男女関係無しにである。
こういう競技なので参加者同士の体が接触するなんてことだって当然起る。もちろん基本、それは偶然の不可抗力だ。
但しそれを扮って混雑紛れにって謂う不埒な奴も存在する。つまりそう謂う煩悩に塗れた奴らにとって、この都合の好い状況は願ったり叶ったりなのである。
普通こう謂うのって、学校側からあれこれ文句が付きそうなものなのだが、そこはそれ。なんてったって教師達だって参加をするわけであり、中には若い者や未婚の者だって在るわけだ。だったら考えることは生徒も教師も……否、大人も子供も変わり無い。ってか、未婚の大人なんかだとオレ達以上に必死になるのは必至なのかもしれない。
……オレはこんな大人にだけはなるまい。教師が反面教師って、なんとも皮肉な話である。
さて、馬鹿なことを考えている間にオレ達の番が回ってきた。それでは早速配置に就くことにしよう。
並び方については各チーム……と説うかクラスの自由となっているので、その場所選びが重要だ。
そんな理由で、我がクラスでは高身長の天堂が先頭、オレは美咲ちゃん達と真ん中辺りの配置である。
なお、怪り……否、力自慢の由希は最後尾だ。
さあ、それぞれの配置が決まったところで、愈競技の開始だ。
先程の説明の例ではないけど、早速河合の奴が早速美咲ちゃんを狙ってるようだ。悪いが阻止させてもらうぞ。当然他の男子達もだ。
それにしても、どうして男ってやつはこうなんだろうな……って、男だけじゃなかったみたいだ。前の方じゃ天堂が女子達を相手に同じ状況になってるし…。
朝日奈と日向はオレ同様に他の女子達の阻止に趨るかと思っていたが、実はそれは格好だけで確りと天堂に凭れ掛かっている。
……全く、こいつら、なにやってんだよ…。
まあそれは他のクラスも同じみたいで、……というか、相手側の先頭の女子どもまでが、如何にも力負けしたかのようなことを扮って天堂目掛けて突撃してくる始末って……これじゃ勝負になる理由が無い。結果、勝負がどうなったかなんて最早説明するまでも無いだろう。当然オレ達の勝利である。
……って、こんな馬鹿らしいことになるなんて、全く予想もしなかった。
そりゃあ、観てる方は面白いかもしれないけど、真面目にやってる方としては、こういうのって果然り白けるんだよなぁ…。
なお、河合の意見はオレとは全くの逆で、他人がしているのを見ると腹立たしく、こういうのは自分がやって愉しんでこそだと宣う。
全く、愉しむところが違うだろ。こっちは真面目にやってるってのに。
まあ、主張したいことって謂うか、気持ちは解らないでもないけどな。
それにしても、まさかこんな奴ばかりってことはないよな。こういうものは真面目にやるからこそ楽しいってのに…。
否、違うな。そう謂った愉しみ方の方がこの場合正しいのかもしれない。なんてったってこれは競技会ではなくって体育祭、つまりは祭なんだから。
要するに勝ち負けよりも、如何に愉しむかが重要ってわけで、オレの方が頭が硬かったってことになるわけだな。
抑勝ち負け優先だと、そっち方面で秀でた奴ばかりが活躍して、そうでない奴はただのそいつらの惹き立て役になってしまう。「枯れ木も山の賑わい」だとか、「参加することに意義が有る」とか、そんな綺麗事を幾ら述べたところで、敗者にとって敗北がつまらないことには変わり無い。
それに対して自分の愉しみ方を重要視するなら、俔え敗北したとしても、案外楽しい体験になるかもしれないしな。
なるほどな。今回の体育祭の種目行程って、真剣勝負な競技から娯楽色溢れた演目まで多彩な種目が揃ってるし、要するにいろんな参加者が愉しめるようになってるってわけだ。本当よく考えられている。
これを前生徒会はやってたんだよな…。
まあ遉に全部から全部ってわけじゃないだろうけど。前の代から引き継いだものも有るだろうし、今の代で新たに採用されたものも有るだろうしな。
伊藤瑠花。この人、演出家としてもオレより上かもしれないな。アイドルとしてでだけでなく、そっち方面でも才能が有るなんて、いったいどんだけ化物なんだよ。
まあ、彼女がやってるのはアイドルだけみたいだし、それが責めてもの救いだけど、それにしても手強過ぎる難敵だ。
香織ちゃんも自分で作詞してるって云うし、あそこの事務所っていったいどうなってるんだよ。もしかして全員が多才なのか?
星プロはどこか抜けた奴ばかりだってのに、なんなんだろうな、この違いは。
……オレの芸能活動って、もしかすると結構前途多難なのかもしれない。
※作中に出てくる『扮う』という言葉についてですが、敢えて説明は要らないとは思いますが、一応他の『よそおう』との違いについて説明をしておこうかと思います。
【装う】身に着ける。飾る。身支度を整える。
ご飯を『装う』も実はこの字で、器に『きれいに盛る』ということらしいです。擬人化すると器が『ご飯を装備する』って感じでしょうか(笑)
【扮う】他のものであるかのように見せ掛ける。演じる。身を扮す。
【粧う】顔を繕う。お粧しする。要するに化粧のことです。
【妝う】粧う。『粧』の異字扱いされることもあるらしいです。
[Google 参考]
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




