純、責任を問われる
久々の連日での投稿でしたが、そのせいか些か疲れました。ある程度イメージが湧く間は筆の乗りも悪くはないのですが、出尽くした後ではそうもいかず…。
そんな理由で次回の投稿は再び不定期に戻ります。早ければ翌日なんてこともあるかもしれませんが多分無理かと。そんなわけで恐らくは数日後となります。
ストーカーが増えた。
野球部相手にやらかしてしまった翌日からだ。
否、果然り前言撤回。増えたと謂う発言は香織ちゃんに対して失礼だしな。
彼女の場合は、積極的で熱烈な好意的行為と謂うのが正しい。否、それは譌りだろってツッコミは、責めて訛り……じゃなくって訛みたいな感じで言葉の意味合いの違いってことで…。
だってこんな謬った発言で『瑕ち』だなんての摘うのは、友人相手だと「遉にそりゃあちょっとあんまりな」って感じで気が咎めるだろ? 仮にも相手は女の子なんだから。
まあ、些か(?)前向きな感受性や距離の詰め方振りに戸惑いを感じさせられることは多いのだが。正直勘弁してくれと思うことも多いし…。
ともかくだ、ここで改めてやり直し。
ストーカーが現れた。
うん、ストーカーで宜いんだよな、多分?
確かストーカーってのは、一般的に『特定の相手やその家族に対してしつこく追いまわしたり、つきまとったりする人物』ってのを謂うんだったはずだから。
「人聞きの悪いこと言わないでよっ!
私にはそんな気なんて無いんだからっ!
抑ストーカーってんのは『特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足することを目的とした行為』ってのが定義なんだから、あなたに恋愛感情の無い私にはそれは該当しないのよっ!」
その人物、ってか女子生徒はそんなことを宣った。
まあ、彼女の説いたいことは謂わずとも十分に解ってる。
だけどなあ……。解っちゃいるけど、そうも居丈高に人前で宣言されるってのも面白くない。
オレの方だって全くその気なんて無いけれど、それでもこのまま一方的にってのはなんだか癪で負けたような気がする。
なのでこんな返しってのもアリなんじゃないだろうか?
「さぁ、実際のところはどうだかな?
まぁ仮に百歩譲って、そっちに恋愛感情等が絡まないにしてもだ、ストーカー規制法による取り締まり対象ではないと謂うだけだろ?
まさか今やってる『反復した付きまとい』ってやつも『迷惑防止条例』で謂う『迷惑な追随行為』にはならないなんて宣うわけ?」
先程は「女の子相手にあんまりな」とか高説を述べてたじゃないかって?
そんなことは知らねえっての。如何に女の子だろうと友人でなけりゃそんな義理なんて無いからな。
悪意には悪意で返す。それがオレのやり方だ。
……だから香織ちゃんみたいな、好意的な行為に対しては強く対応しきれないんだよなぁ…。
好意には好意じゃないのかって?
そりゃあそうありたいけれど、それでも都合ってのは有るからなぁ…。なんでもかんでも受け容れるってわけにはいかないのが現実だ。
と、そんなことよりもこの女だ。
この女、あれから1週間近く、暇さえ有ればオレのところへやって来て、鬱陶しいったら無いってんだ。
とは謂え遉に条例違反って謂う程じゃないけれど。
でもそんな風に誂いたくなるくらいには鬱陶しいと謂うか、もう倦然りするまでに煩わしいわけだ。
「そんなこと摘っても仕方無いじゃない。これが私の仕事なんだから。
それに大体こんなことになってんのもあなたのせいでしょう。
あなたのせいで、内の主戦投手だった谷古宇くんが直然りやる気を無くして投手を辞めちゃったんだから。
だからあなたにはその責任を取ってもらわなければならないのよ」
どうにもそう謂うことらしい。
でもなあ、それならそれで代わりの奴の一人や二人くらい在るだろうにな。
……否、在るわけが無いか。在るんだったら疾くの昔に奪って変わってただろうからなぁ…。
「知るかよそんなこと。
なんで部外者のオレが、そんなこと気にしなきゃならねえんだよ。
そんなの部の奴らでなんとかすれば宜いだろう。責任って謂うんならオレじゃなくって谷古宇の奴に問えってんだ、全く」
そりゃあ切っ掛けはオレかもしれないけど、勝負を振っ掛けてきたのは野球部の方だし、普通は喧嘩両成敗ってやつだろう。それだけにその後がどうなったところで、それは当事者の自己責任で有るべきだ。増してや敗者が勝者に難癖なんて、余りにも虫が好い話だ。どちらかと謂えば、それって普通は勝者の側の特権のはずなんだが…。
「だからよっ。その谷古宇くんの推薦するのがあなたなのっ。そして部の皆全員がその意見に賛同し、納得したからこそ、こうして私がスカウトに来てるってわけ」
なんとも情けの無い野球部だ。本気で野球が好きならば、他力本願なんて考えてないで如何にして自分達を鍛えるか、そう謂う努力が有ってこそ強くなれるし、それが楽しいんだろうに。
あの絶望的障害を克服し、あそこまで成り上がった堂官の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
オレがそんな風に諭ったせいだろう、一瞬表情が歪んだものの……。
「ねえ、香織ちゃんはどう思う?
男鹿くんが野球部で格好良く活躍するところを観たくない?」
なんとこの女、香織ちゃんの籠絡に趨りやがった。
「え? そりゃあそんなの絶対観たいに決まっているじゃない」
「じゃあ、香織ちゃんも男鹿くんのこと一緒に説得してよ。そうすればいつでも好きなだけ観られるわよ。
ねえ、だから香織ちゃん、お願いっ」
「ねえ、純くん、せっかくだからやって験る気無い? 私も応援するから。
きっと純くんなら良いところまでいけるはずよ」
…ちっ、香織ちゃんは落ちたか。
でも精々がそこまでだ。他に味方するような奴なんて在ないだろうからな。
「え? 純くん、野球部に入るの?
だったら純ちゃんにも教えてあげなきゃ。
純ちゃんも野球が好きだし、きっと喜んでくれるはずだよっ」
ちょ、ちょっと待てよ。なんで美咲ちゃんが賛成してるんだよ⁈
オレの事情は全部とは謂わないまでも解ってるはずだろ?
「冗談は止せよ。オレはそんなに暇じゃねえっての。一応はオレにだって仕事が有るのは美咲ちゃんだって知ってるはずだろ?
それにオレみたいな素人が、野球部に入ったって真当に通用するわけが無いっての。
精々が途中挫折するのが目に兆えてるって」
慌てて否定するオレだか、そこにさらなる追い撃ちが掛かった。
「へえ〜、意外ねえ。純ってばいつからそんなこと口にするようになったのかしら?
私はこんな軟弱な根性無しに育てた覚えは無いんだけど。
これはもう一遍くらい鍛え直しした方が良いかもねえ……」
ちょ、ちょっと待て! なんでここで由希が出てくるんだよ⁈
それに由希って、オレの事情をある程度察してたんじゃなかったのかよ?
否、そりゃあ確かに打ち明けたわけじゃないけどさ。
「い、否、だからな、一応オレにだってバイトとか都合が有るわけだし、それに一生懸命真面目にやってる奴らのところに素見し半分で入るってのも……なあ、そうだろ?」
どう謂う理由か過度に睨みを利かせて、まるで恫喝紛いである。
その迫力に思わず怯んでしまうのは、嘗ての道場での記憶故か。
アレは地獄のような日々だった。今じゃ思い出したくもない悪夢だ。なのに何故か由希と兄貴のふたりだけは平然としてたし。オレはアレで才能の差ってのを初めて理解したんだよなぁ……。
「なによ? バイトなんてこと説ってるけど、放課後なんていっつも殆ど学校に居るじゃない。だったら時間的に何も問題無いでしょ。
それにアンタ、素見しで入部するつもりだったわけ?
それって真面目にやってる人達に失礼だって思わないの⁈」
由希はさらに威圧を強めてきた。
こ、怖い。コレがど迫力パワーと謂うやつか。
な、何が起った?
なんで由希がこんなに興奮してんだよ?
これじゃまるで悪鬼羅刹の類だ。地獄の鬼だって真っ青だ。
オレもなんとか平然を装おうとするものの、由希のその視線は凍てつく波動の如く、オレの強がりを打ち消し無効化してくれる。まるで血の凍る思いである。
うん、表の表情は笑っているけど、実際のその側面は冷酷冷血冷徹であり、その反面は激烈激熱激昂の激怒風り。悪鬼羅刹と謂うよりもこれは阿修羅に違い無い。当に魔界の王子……じゃないけどそれを思わせる風格が有る。下手に逆らえば絶対に地獄を験るだろうな…。
「だ、だから言ってるだろ。素見すつもりなんて無えって」
取り敢えずは、ヤバそうなところは否定する。
本当、いつも以上になんか怖い。
そう謂やこいつ、『姫夜叉』なんて呼ばれてたんだった。なんか久々に思い出した……って、マジ怖い。
「ふんっ! じゃあ決まりね。
良かったわね三波さん。純が入部するってさ。
気が変わらない内に早々と手続きした方が良いわよ」
ええ⁈ オレそんなこと認めた覚え無いんだけどっ!
「ちょ、ちょっと待てよ。いつオレがそんなこと言……」
「なに⁈ まさか男のくせに二言が有るなんて言わないわよね⁈」
オレのしようとした反論は由希の放った圧倒的威圧の前に沈黙を余儀なくされてしまった。
否、本当に怖いんだって。
どう謂うわけか、なんか由希の奴マジっぽくて、とにかく洒落になってないんだって。
本当、いったいなんでなんだよ?
そんなわけで、不承不承ながら野球部に仮入部するということになってしまった。
そう、仮入部。責めてものオレの意地だ。
それに対して由希は何も摘わなかった。
どうやら由希としても、オレに対する落しどころが必要と考えたってところだろうか?
後日、この時のことを聞く機会が有ったのだが、由希にはこの前の野球部とやらかした一件で立腹だったらしく、今回のことはその責任ってことらしかった。
なんでもオレのせいで、部が半壊状態だったらしく、その精神的主柱にオレをってことで。
……なるほどな。文字通りの人柱ってわけだ。
でも、マジかよ?
これでオレって休み無しだぞ。
平日は部活で散々(由希監視の下)扱かれて、休祝日には早乙女純としてアイドル活動。しかも合間でJUNとして、リトルキッスやフェアリーテイルのプロデュースもしなけりゃならないってのに。
はぁ……、どうすりゃ良いんだよ……。
※今回、作中に出てくる『譌り』を始めとした『あやまる』という言葉を乱発して遊んでおりますが、流石に錯乱してきそうなので簡単に説明をさせていただきます。
【譌り】偽り。『譌』は『嘘を吐く』『偽る』『欺く』といった意味。『譌る』とも読む。
【訛り】譌り。会話や言葉の齟齬、訛等といった「話が違う」というやつです。
実は『訛』は『譌』の異字なのですが、今回の作中においては文字のイメージで、敢えて同じ意味の文字を『嘘』と『表現の仕方』という意味合いで使い分けしてみました。
【謬り】間違った発言。不適切な発言。
【瑕ち】落ち度。失態。『王』という偏がつく文字なので、恐らくは些細でも致命的な意味合い。
例えを挙げるなら男遊びを覚えた女の子とか。『瑕物』なんて言いますしね。
【過る】間違った行為をする。訂正は不可。『過る』とも読むので注意。
【誤り】間違った判断。訂正は可能。『誤』は『誤わす』とも読む。
【繆る】(主に糸等が)絡む。纏う。繆わる。『繆』は『繆う』『繆る』『繆る』とも読む。
【紕り】間違い。『紕』とは、縁飾りのある毛織物のこと。またはそれの縺れるさま。『紕る』『紕う』とも読むが『紕る』とも読む。
【錯る】錯乱して間違える。『錯』とは入り乱れること。または金属を加工処理すること。
【愆る】罪を犯す。過つ。
【謝る】詫びる。恐縮する。
[Google 参考]
最後の『謝』も『気不味い行為』ってことで『あやまる』ってことになるのでしょうか?
『謝』には『去る』って意味合いも有ったので、恐らくは『責任等を他人に押し付ける』『責任を逃れる』って意味合いなのかもしれません。
※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。




