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生徒会? 別に興味はありません

 二学期が始まると三年生達は慌ただしくなる。

 幸いにしてこの学校は、大学はエスカレータ式で進学できるので学業の単位さえ取れていれば受験の心配は無い。

 ならば何故慌ただしくなるのかと謂うならば、三年生は二年生へといろいろな引き継ぎが有るからだ。

 例えば部活の部長職だったり、生徒会の会長を始めとする役員だったりだ。

 ただ、その引き継ぎを受けるのは二年生でなければならないと謂う決まり事は無く……つまり、美咲ちゃんや天堂、特に香織ちゃんなんかのところに生徒会選挙の立候補の打診が有ったりしたわけだ。

 まあ、香織ちゃんは去年の会長だった伊藤瑠花(るか)の後輩に当たるわけだし、その分の期待が有るんだろうな。とは言ってもそれは芸能事務所の話なのだが、その後援者達の殆どが伊藤瑠花に(ほだ)されたファンみたいなものだからそれは仕方の無いことだろう。


「花房咲、あなたはこの度の生徒会選挙の立候補の打診を受けるの?」


 果然(やは)りと謂うか、香織ちゃんが美咲ちゃんにこんなことを尋ねてきた。


「へえっ⁈」


 美咲ちゃんが間抜けな声を上げた。

 不意な質問とでも謂うように、口にし掛けていた昼食の手が止まっている。

 今日の弁当のおかずはミニハンバーグか。

 と、ここで美咲ちゃんが再起動、手にしていたミニハンバーグを口に運び、そして悠然(ゆっく)りと咀嚼する。

 その間でなにやら考え込んでいるようだ。

 だけどどこか目の焦点が虚ろである。

 なのでその姿はどこからどう見ても間抜けにしか見えない。

 だがしかし、それでも人によっては可愛く見えるらしい。

 まあ解らないでもない。但しそれは子供っぽく見えるってだけなんだけどな。


「そう言えばそんなこと聞いたような気がするけど、ちゃんと断わったよ」


 咀嚼し終わったミニハンバーグを飲み込んだ美咲ちゃんの応えはこれだった。


 さては忘れてたな。

 ならばそれも仕方が無いだろう。全く以て思いも寄らない話を聞かされたってことになるわけだからな。つまり寝耳に水と謂うやつである。但し寝呆け状態だけどな。


「まあ、そうだよなあ。美咲ちゃんの場合、仕事と学業で手いっぱいだもんな」


 本当どうしたんだろうな。

 嘗ては苦手だった学業だけど、それを努力で克服した。そんな美咲ちゃんだったんだけど、何故か進学した途端また赤点追試の常連である。

 否、何故かってことも無いか。単に進学という目的を達したことで努力をしなくなったってだけだもんなぁ…。やればできるはずなのにもったいない。

 でも気を張り詰め過ぎるのも無理が祟るわけで、何事も果然(やは)り程々が一番か。


 調戯(からか)いながらも結局は美咲ちゃんをフォローする。

 美咲ちゃんは些か不機嫌そうだけど、オレの意見を否定はしない。

 由希達もオレと同意見で、メリハリも無理の無い程度が()いってことのようだ。

 受験生時代の美咲ちゃんは随分とストレスを溜め込んでいたみたいだったからなぁ…。


 因みに天堂も生徒会には興味が無いみたいで、その分の時間を別のことに使いたいと謂う意見だった。

 実際天堂は演劇部と剣道部に顔を出しているみたいで、名誉部員扱いになっているらしい。

 なんでも俳優業での技術を磨くためだとか。なんとも真面目で謙虚な男である。

 なに気に見せる普段のハイスペック振りは、こんなところで支えられているのだろう。その知られざる水面下の努力は、まるで優雅な水鳥のようである。


「それで、香織ちゃんは果然(やっぱ)り立候補するの?」


 美咲ちゃんが香織ちゃんに問い掛ける。

 そりゃあ、香織ちゃんの方から質問してきたからには、当然香織ちゃんもそのことについて考えているはずで、なので美咲ちゃんが質問を返すのも果然(やは)り当然と謂えるだろう。


「そうねえ、どうしようかしら。

 ねえ、純くんはどう思う?」


 ……なんでオレに訊くんだ?

 そんなこと自分の好きにすれば()いだろうに。

 そう思ったので素直にそう応えたわけだが…。


「じゃあ、純くんは私が立候補したら後援者になって応援してくれる?

 もし応援演説とかしてくれるんなら私もやる気が出るんだけど」


 何故そうなる。オレには関係無い話だろうに。


「生憎だけど、そう謂うのはちょっとな」


 なので断わることにする。


「ええ〜、確か純くんって中学生の時、そういうことをしてたって聞いたんだけど。だから凄く期待してたのに」


 ……そう謂や、そんなこと言ったことも有ったような…。

 くそ、山内(やまのうち)め。否、優美の奴めって謂うべきか。

 (ろく)に顔を合わせることの無い今頃になってでさえも、まだ厄介事に関わらせると謂うのかよ。


「嫌だよ面倒臭い。

 それにそんなことする必要なんて無いだろ?

 恐らく香織ちゃんが立候補するなら、ひとり勝ちするのは間違い無いはずだしな。

 どう考えてもオレの出る幕なんて無いっての」


 遠回しに断わるのも面倒になってきたので、判然(はっき)りと断わることにした。

 ただ、オレの関わる必要性も無いことも説明したので、そこのところで納得してくれ……ないだろうな依然(やっぱ)り…。


「そっか、じゃあ可いわ、それで。

 私も無理に立候補する気も無かったし。

 何よりもそんな時間が有るんだったら、純くんと一緒の時間に使いたいもの。

 ね、そうでしょ、純くん」


 どうやら厄介事は回避できたみたいだ。

 香織ちゃんには立候補する気なんて最初っから無かったらしい。

 それにしても、その理由ってのがなんとも香織ちゃんらしくて思わず納得してしまった。


 てか、ちょっと(くっ)()き過ぎだぞ香織ちゃん。

 気づけば密着状態ってか、殆どハグ状態。否、状況(どさくさ)紛れに頬擦りまで。

 流石にこれは狎れ過ぎだろう。オレが馴れてしまったせいか、最近ちょっとスキンシップが過ぎる気がする。


 先程は厄介事を回避できたと喜んでいたけど、実は既に余計に厄介なことになっていたようだ。

 しかもオレ自身がこの状況に慣れて……否、馴れてきているのが問題だ。

 そう、なんとも思わなくなる『慣れる』でさえ不味いのに、それを通り越して直然(すっか)り受け容れて好意的にさえ思ってしまう『馴れる』にまでなってしまっているのが問題なのだ。


 果たしてこれってどうなんだろう。

 単に状況に流されているだけなのか、それとも直然(すっか)(ほだ)されてしまったのか。

 ああ、本当に厄介だ。

※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。

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