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純、夏休みの話を聞く

 長かった夏休みも終わり今日から久々の学校だ。

 嘗てはあれだけ鬱陶しいなんて思ってた香織ちゃんの顔ですら懐かしい。


「嬉しいっ。純くんがそんな風に思ってくれていたなんてっ」


 ただ、それを口に出したのは失敗だったようで、香織ちゃんは間髪入れずにオレの胸へと突撃し。

 お陰で現在オレは抱き人形状態。オレはぬいぐるみか何かかってんだ。

 例によってクラスの連中の注目を集めている。

 男子は羨望と嫉妬、女子は応援と謂った感じなのは相変わらず。もう()い加減に慣れたと思っていたのだけど、久々なせいか視線が(つら)い。

 こんな羽目に陥ったのは、恐らく馴れて油断してしまったせいだろう。

 一方で香織ちゃんは直然(すっか)り狎れた感じで、その抱擁は最早抱き締める(ハグ)を通り越し頬擦りまでしている始末。

 前言を撤回しよう。流石にこれは鬱陶しい。


 適度なところで香織ちゃんを引っ()がし、友人達とこの夏休みをどう過越したかを語り合う。

 と言ったところで凡その予想は着くのだが。


 美咲ちゃんについては言うまでも無いだろう。

 この夏の間ずっと一緒に仕事をしてたわけだしな。


 天堂も当然ながらアイドル活動(仕事)である。

 こいつの基本はモデル時々俳優業。そう言えばこの夏、ドラマにレギュラー出演してたらしい。

 あとは若干のバラエティー出演といったところ。


 香織ちゃんもほぼ似たようなもの。

 なにやらいろいろと熱心に説明されたけど、その内容は今述べた通りなので省略することにする。


 由希は依然(やっぱ)り自分()の空手道場の世話だった。

 果然(やは)り将来はこのまま後を継ぐのだろうか?


 朝日奈と日向(ひゆうが)はバイトに勤しんでいたらしい。

 御堂親衛隊としての活動に結構金が掛かるらしく、その軍資金稼ぎと謂うことだ。

 なんでそんなに金が掛かるのかと尋ねたところ、ファンクラブの会費やグッズの購入、その他いろいろなんだとか。

 こいつら本気(ガチ)本物(マジモン)親衛隊(ファン)だったらしい。所謂アイドルオタクと謂うやつだ。

 そんな感想を述べたところ、思いっ切り否定された。自分達をそんな気色悪い奴らと一緒にするなとお怒りである。

 なんでも彼女達はオタクではなく信者なんだとか。なのでグッズやなんかの購入はお布施みたいなものだと言う。

 宗教かよ!

 それにこいつらの言ってることって、重度のオタクと全く同じだ。こいつら気づいてないのかよ?

 悪い男に誑かされてるのよりも一層(たち)が悪い。

 まあ、思っていても言わないけどな。

 だって芸能界(オレ達の業界)ってのはそうやって稼いでるんだから、それを指摘する資格はオレには無いわけだ。


 河合は……どうでも()いな。興味が無い。

 なので殆ど聞き流しだ。()って何を言ってたかは全く以て覚えていない。

 まあ構わないだろう。どうせ大したことじゃないんだから。


「で、純はどうだったの?

 なんかずっと家に居なかったみたいだけど」


 こんな風に話していれば当然オレにも番が回って来るわけだが…。

 由希の奴め、余計な一言を加えてくれる。


「オレも朝日奈達と似たようなものだな。

 とは言っても、こいつらみたいな不毛な真似をする気は無いけどな」


 嘘は言ってはいない。確かに仕事なんだから。

 ただ、由希が余計なことを言ったため、それを誤魔化すべく朝日奈達には若干毒を吐かせてもらうことにした。


「何が不毛よっ、(れっき)とした理由じゃない!」

「そうよっ、こんな尊い行為を不毛だなんて御堂くんに対する冒涜よ!」


 思った通り、朝日奈達がオレの誂発に乗ってきた。

 でもなんだかなぁ…。依然(やっぱ)りこいつらの言うことには理解はできても共感はできない。


「はいはい、私が悪うございました」


 でも敢えてここは逆らわずに折れる。

 ここは早々(さっさ)と話を終わらせて、別のことに話題を逸らす場面だ。なんてったって下手にこの話を引っ張ると、オレのことを蒸し返されることになりかねないからな。


「それよりもオレは美咲ちゃんの話をもう少し訊きたいんだけど。

 確か甲子園で直に試合を観てきたんだろう?

 それに大阪桐葉や横浜(みなと)学園の奴らと一緒にテレビに出てたみたいだし、結構仲良くなったりしたんじゃねえの?」


 そして困った時には美咲ちゃんだ。

 美咲ちゃんのことを話に出せば、まず間違い無く話はそちらに移るだろうから大抵のことは誤魔化せる。


「う〜ん、仲良くなったって話なら、私よりも純ちゃんかな。

 ほら、この前のテレビで()ってたでしょ。

 純くんも油断してると海堂くんに純ちゃんを()っていかれちゃうかもよ?」


 確かに話題は変わったけれど、ただそれは些か失敗だったようで、何故か焦点は美咲ちゃんではなくて早乙女純に。

 てか美咲ちゃん、そう謂う冗談は止めてくれ。


「ねえ純くん、早乙女純(あんな浮気者)なんかとは手を切って、一層のこと私と付き合わない?」


 ほら、果然(やっぱ)りこうなった。

 お陰で香織ちゃんがこれを好機とばかりに攻めの姿勢で(せま)ってきて…。

 いったいどうしてくれんだよ。


 助けを求めて美咲ちゃんの方を窺えば、早乙女純と海堂の話で由希達と直然(すっか)り盛り上がっているし、オレを含めた三角関係、否、香織ちゃんも含めて四角関係?

 他人事だと思って好き勝手なこと言ってくれる。

 本当勘弁してくれって。

※作中で使っている『誂発ちょうはつ』という言葉ですが、通常は『挑発』と書きます。

 作中の場面においては『口先だけ』ということなので敢えて『誂』の使用です。

『誂』とは『からかう』『いどむ』という読み方が有り、意味も読み方の通りです。但し『言』が偏であるようにもっぱら言葉による行為だったりします。

 また日本限定ですが『注文する』という意味合いが有り『あつらえる』とも読みます。[Google 参考]

 要するに『誂』とは『難癖をつける』とか『無理難題を吹っ掛ける』、『文句を言う』という意味合いみたいです。


※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。

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