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夏の甲子園決勝戦 (前編) -あぶない球児(バカ)-

 遂にきた。夏の甲子園決勝戦。

 大阪桐葉対横浜(みなと)学園というこの組み合わせは、半ば予想された通り……とはまあ流石に誇張し(言い)過ぎだけれど、それでも本命と対抗馬の対決ってことには違い無い。

 否、これも正しくは違うかも。だって物事ってのはそうそう予想通りとはいかないものだから。だから正しくは期待通りも謂うのが正しいだろう。とは謂っても、これもオレの期待に過ぎないのだが。

 それでもきっと大勢の人達が望んだ対決のはずだ。なんてったってこの試合は、今大会最優と称されたふたりの率いる学校同士の対決なのだから。

 片や今大会一の強打者・大島の大阪桐葉。

 対するは果然(やは)り今大会一の剛速球投手・海堂(すすむ)の横浜港学園。

 打の最強と投の最強のこの対決、野球ファンなら絶対気になってたはずだ。だからこの運命の対決は絶対的必然に依るものなのである。


 …いやまあ、本当はオレの行き過ぎた主観に依る感想に過ぎないんだけど、それだけオレが熱望しいた試合であり、それだけ期待している試合だと謂うことだ。

 それにしても、このオレが高校野球にこんなにまでハマるなんてなあ…。全く思いもしなかった。

 今回受けたこの仕事に拠る影響なのはまず間違い無くだろう。

 こんなことを言うと美咲ちゃんなんかは嘲笑うかもしれないけど、それを()うなら美咲ちゃんだって同じだ。美咲ちゃんもオレ同様で、大島のファンなんだから()えない。

 結論としては、何かに一生懸命になってがんばってる奴ってのは格好良くって魅力的ってことだ。

 世の中の女の子達がスポーツ選手に憧れるのもよく解かるってものである。

 と言っても、男のオレが男に恋愛感情を持つなんてことは()り得ない。

 そして恐らくだけど、美咲ちゃんもそこまでの感情は持ってないだろうと思う。だってあの美咲ちゃんだもんなぁ…。

 うん、まず無いな。間違い無い。


 まあオレ達はこんな感じだが、これが身近な人間だったら変わるのかもしれない。

 例を挙げればオレの目の前のこの子。この前、町田の応援をしてた子だ。

 いやまあ、この前の声援の仕方を考えると些か疑問は有るんだけど。

 だって呼び捨てはともかく「アホ」呼ばわり、しかも「セコい」「みっともない(みみっちい)」「ダサい」と悪態だらけだもんなぁ。

 身近だからこその遠慮の無い親しい距離感ってことなんだろうけど、この子結構評価が厳しいんだよなぁ…。

 そんなわけで、がんばれ町田。じゃないとただのお友達だぞ。……って、町田にその気が有ればだけれど。

 でも、無下にするにはもったいない程の美少女なんだよなぁ。……顔に似合わず口は悪いけど。

 まあそこのところは好みの問題で、そして何よりも町田本人の気持ち次第なんだけどな。


 横浜(みなと)学園の応援は、当然だけどこの子だけってわけじゃない。

 決勝戦ってこともあり、関係者応援席(アルプススタンド)一昨日(前回)に続きいっぱいだ。

 そして周囲の一般応援席の人達も、その着ている学生服からするに溢れた同校の学生達だろう。


 それにしても、なんで応援団ってのは黒の学ランに拘るのだろうか。日中気温が30℃を超える真夏日の中、態々(わざわざ)日光の直射の影響を受け易い黒の学ランで、しかも着崩すこともなく整然(きっち)りと着込んで。

 いや、確かにそういうのって、なんか格好良いとは思うけど……。



 大勢の観客達の見守る中、遂に試合が始まった。

 先攻は横浜(みなと)学園。

 先頭(トップ)打者(バッター)・町田が大阪桐葉の主戦投手(エース)戌角(いぬずみ)と睨み合う。というか一方的に睨み付けてるように思えるのだけど、まあそれだけこの試合に対する意気込みが有るってことだろう。


「流石は決勝戦。ここまで気迫が伝わるようだ」


 オレの感想に意外な相槌が入った。

 この前の町田の彼女(?)だ。


「まあね。がんばり次第ではご褒美にキスしてあげても可いって言ったから。

 といっても、当然(ほっぺ)に軽く程度だけどね」


 うん、彼女で合ってるみたいだ。

 でもなるほどな。美人の彼女からのご褒美があるってんなら、そりゃあやる気にもなるわけか。


「へえ〜、でもそのことちゃんと町田くんに説明してるわけ?」


 彼女の友人の女の子が何故か問い掛けた。これってもしかして…。


「まっさかあ。そんなやる気に水を差すような真似はしないわよ。

 まあ、なんか変に勘違いして、期待してるかもしれないけど。

 でも、どこにするって言ったわけじゃいなし、だったらどこにしても私の自由でしょ」


「うわぁ、わっるいんだぁ。この悪女め」


 彼女の発言に友人の子も()いて……ないな。どちらかと謂えば一緒になって愉しんでいるかのように()える。

 こいつら……、ふたり揃って性格が悪い。


 それにしても町田の奴、まさか接吻(ご褒美)からの流れで♀+♂(別のこと)までなんて期待してたってか?

 つまり()る気にのつもりでやる気になってたってことかよ。

 そりゃあ思春期だから仕方がないかもしれないけど、こんな(たと)え優勝できたとしても、動機で動機がこれじゃ自慢もできないよなぁ……。

 恐らく目論見が崩れたところで、世間の男共に「ざまぁ」と(わら)われることだろう。否、仮令(たとえ)(ほっぺ)にチュ〜ってだけでも「○ねば()いのに」と妬まれるには十分か。モテない男ってのは狭量だから。

 如何に男の性とは謂え、なんとも悲しいな、どちらも。


「ストライーク! 打者(バッター)アウト!」


 あれ? 町田の奴、なんか三振してるし。

 ああ、そう謂やこいつってばやる気が空回り奴だった。増してやこんな煩悩に塗れて目の眩んだ状態じゃ、とてもじゃないけど(ろく)な結果が出るわけが無いか。

 とはいえ、勝つためには果然(やは)りこいつにもがんばって良い結果を出してもらう必要が有るわけで…。


 うん、そうだな。ここは頭を切り替えて、依然(やは)りこいつの応援はするべきだろう。

 で、ご褒美については彼女の謂う通りで十分だ。と謂うか十分過ぎるだろう。

 以前、彼女を辛口で厳しいなんて思ったことが有るけど、決してそんなことは無いな。これでも十分甘過ぎだ。

 逆に思う。なんで彼女はこんな奴を……。


 まあ取り敢えずこいつのことは()いといて、次の打者(バッター)・大下だ。…って、残念ながらこいつは一塁(ファースト)ゴロ。そして続く鷹山も二塁(セカンド)ゴロに(たお)れた。

 うん、まあ流石に試合が始まって早々に難無く安打(ヒット)なんて、そんなに(あま)いわけが無いよな。

 一部毒()いている子らも()るけど、ここは気にすることも無いだろう。


 そんなことよりも(いよいよ)主戦投手(エース)・海堂の出番だ。

 さあ大阪桐葉の強力打線を相手にどんな活躍を()せてくれるか。

※作中に『悲しい』という言葉が出てきますが、実はこの『かなしい』という言葉には、漢字が3種類有りました。

『悲』は、心が引き裂かれるようすを表す字です。『悲しい』とは『心が痛む、泣きたい気持ちになること』を意味します。

『哀』は、死をなげくようすを表す字です。『哀しい』とは『胸がしめつけられるような切ない気持ちになること』を意味します。

 そして意外なことに『愛』も『いとしい』以外に『かなしい』という読み方が有るらしいです。

 なんでも『かなしい』という言葉は、古くは『いとしい』『かわいい』『切ない』『残念である』『悔しい』などといった『激しく心が揺さぶれるさま』を広く表す言葉であったらしいです。

[Google 参考]

 なるほど、だから『かわいそう』の当て字が『可哀そう』だけでなく『可愛そう』だったりもするのですね。

 因みに『そう』の部分は『想』や『相』という漢字が当てられたりもします。


※作中に出てくる『たおれる』とは『つまずく』という意味です。

『蹶』の読み方には、他に『つまずく』、そして何故か『すみやか』『つ』というものが有ります。[Google 参考]

 このことから『蹶』には『けてすぐに立ち上がる』という意味合いが有ると思われるため、作中では一時的な敗北という意味合いで『たおれる』を使用しています。


※作中のルビには、一般的でない、作者流の当て字が混ざっております。ご注意下さい。

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